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2006年1月 1日 (日)

「ALWAYS 三丁目の夕日」

Always (2005年:東宝/監督:山崎 貴)

 東京タワーが建設中の昭和33年を舞台にした、笑えて泣ける下町人情ムービーの快作。

 原作は、30年も前からビッグコミック・オリジナル誌に連載され、今も続いている西岸良平によるマンガ。私もこの原作は大好きで、どことなくトボけた下町の人たちが織りなす、人情味溢れるメルヘンチックなストーリーに、毎回心が温かくなり、時には胸がキュンとなる素敵な作品である。この原作を、「ジュブナイル」で監督デビューし、「リターナー」というスタイリッシュなアクション映画で注目された山崎貴が脚本・監督・VFXを担当し映画化した。

 まず巻頭,懐かしい東宝スコープ・マークの登場にも頬が緩んだが(このマークは前年32年に登場)、これがラジオのデザインにオーバーラップする出だしには唸った。スピルバーグの「インディー・ジョーンズ」シリーズでおなじみの手である。そして子供たちが飛ばすゴム動力飛行機が空に舞い上がり、それを追って子供たちが表通りに走り出すと、市電が走り、その遥か向こうに建設中の東京タワーが…。CGのごく自然で説得力のある使い方にまず感動した。そして、決してCGがのさばる訳ではなく、下町の人々の日常生活を丹念に描き、そうした時代のリアリティを肉付けする道具としてCGが巧みに、さりげなく使われている。さすが永年、CGクリエイターとして携わって来た山崎監督、正しいCGの使い方を心得ている。

 私も実は昭和33年当時は小学生。だからこの映画に描かれる当時の風物、小道具などは、私の記憶にある通りそのまま。例えば、駄菓子屋の、水に浸けると当りが浮き出る紙くじ(私の記憶ではベロで舐めていた(笑)。やはり「スカ」ばかりだった)、オート三輪「ミゼット」、富山の置き薬、七輪と練炭、ブリキの看板、空き地の土管、フラフープ、冒険物語が連載された月刊少年雑誌、4本足の白黒テレビ、力道山の空手チョップ……。もうそれらを見ているだけでも懐かしさで胸が熱くなる。

 しかしこの映画の本当に素晴らしい点は、原作にもある、今ではほとんど見られなくなった、物はなく、貧しいけれども、人情味と温かい心の触れ合いに満ち溢れていた、あの時代の空気を伝えるお話の部分である。中心となるのは、親に捨てられた少年・淳之介と、彼を預かる羽目になった売れない小説家・竜之介(吉岡秀隆)との心の交流と、集団就職で青森から上京し、自動車修理工場に勤めることとなった六子(堀北真希)と雇い主家族との触れ合いである。最初は淳之介を邪険に扱っていた竜之介が、次第に淳之介を我が子のように愛おしく思うようになって行くプロセスがとてもいい。これは明らかにチャップリンの「キッド」を下敷きにしているが、吉岡の名演と子役の須賀健太の素直な演技が絶妙のアンサンブルで最後はドッと泣かされる。カッとなると大暴れする鈴木オートの店主(堤真一。役名はなんと「トラック野郎」等の監督と同姓同名の鈴木則文)、その妻トモエ(薬師丸ひろ子)と息子の一平の家族もとても心優しく、大晦日に六子を青森に帰してやるエピソードも泣ける。飲み屋の女、ヒロミに、竜之介が不器用な愛の告白をするシーンも、小道具がまた素敵でここも泣ける。とにかく後半部分は泣かされっぱなしでハンカチがぐしょ濡れになってしまったくらい。ご覧になる方はタオルを用意しておく事をお奨めする。

 この映画が素晴らしいのは、物は豊かになったけれども、何か大切なものを失ってしまった現代において、その失ったもの―人が人を思いやる、やさしい心と人情―が、確かにあの時代にはあった事を、この映画の中に発見するからである。そういう意味では、心のオアシスのような映画でもある。「男はつらいよ」シリーズが永年ずっと人気を博していたのも、そうした理由からである。

 ラストで美しい夕日を見て一平が言う。「50年後もきっと夕日は綺麗だよ」。…でも、当時と比べて空気は排気ガスで濁り、それと共に人の心もあの子供たちのような清らかさを失ってしまっているのではないか。そう思うとあの一平のセリフは胸に痛く沁みる。我々がこの映画に泣けるのは、お涙頂戴のエピソードだけでなく、かけがえのない物を失ってしまった、その忸怩たる思いのせいではないだろうか。

 とにかく、日本人であれば、絶対に観ておくべきこれは宝物のような素敵な作品である。山崎貴監督、ありがとう。役者では吉岡秀隆が、寅さんを思い起こさせるダメ青年を絶妙に演じて出色。薬師丸ひろ子のやさしい日本の母の演技も光っている。そして淳之介と一平役の二人の子役、ホッペの赤い六ちゃん役の堀北真希…みんなとても素晴らしい。今年のベストワンは本作で決まりである。必見!    (採点=★★★★★

(2005年11月1日)

 

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