アリダ・ヴァリ
イタリアの女優、アリダ・ヴァリが22日、亡くなったとのニュースが飛び込んで来た。享年84歳。
アリダ・ヴァリと言えば、名作「第三の男」のラストシーンで、並木道をこちらに向かって進んで来る、映画史に残る名シーンが忘れ難い。
「第三の男」は、私にとって、生涯のベスト3に入るくらいの大好きな作品である。年に1度はビデオで繰り返し観ている。何度観ても飽きない。従ってアリダ・ヴァリも好きな女優のうちの1人に入っている。
しかしながら、正直言って、もうとっくに亡くなっていたとばかり思っていた。なんせあの映画は今から57年!も前の作品なのだから。もはやクラシックと言っていい。最近では著作権消滅とかで500円のDVDが発売されているくらいだし。
また久しぶりに「第三の男」が観たくなった。ヴァリを偲んで鑑賞するとしよう。
「第三の男」があまりにも強烈だった為、その他のヴァリの出演作品がいま一つピンと思い浮かばない。
で、この機会に調べてみた。
もともとはイタリア生まれ。15歳で俳優デビューを果たしているが、有名になったのは戦後、大プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニックに招かれ、セルズニック・プロでA・ヒッチコック監督作品「パラダイン夫人の恋」(47)に出演してから。ヴァリはこの作品で、殺人事件の被告として法廷に立つパラダイン夫人を演じている。美しいが、どことなく影のある(まあ殺人事件の容疑者ですからね)、ミステリアスな雰囲気が漂っていた。その2年後、「第三の男」で世界的に有名になるわけである。
その後、数本の作品に出演しているが、あまりパッとしたものはない。が、54年、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「夏の嵐」でまた高い評価を得る。これは観ていない。
私が観た作品では、60年のアンリ・コルピ監督「かくも長き不在」が秀作。戦争に行ったまま帰って来ない夫を待ち続ける女という役。ある日、彼女は夫とそっくりな浮浪者と出会う。しかしその男は記憶を失っていた。ヴァリは男の記憶を蘇えらせるべく必死の努力をするが…。戦争がもたらした心の傷の深さを描いた力作です。ヴァリが浮浪者とダンスするシーン、そして男の頭に回した手が、後頭部に刻まれた傷痕を見つけるシーンが忘れ難い印象を残します。
しかし、この作品以降、正直言ってロクな作品に出演していません。いや、一応名のある作品にも出演はしてるのですが、ほんのチョイ役だったりでほとんど印象に残ってません。
その嚆矢は、「かくも長き不在」の前年、カルト・ホラーとして名高い「顔のない眼」(59)に出演してからでしょう。顔がつぶれた娘の為に、若い女性の顔を剥いで移植する狂気の医者の話で、ヴァリはその博士の助手に扮してます。かなりグロテスクな珍品?です。
この作品からのイメージでしょうか、以後、イタリアンB級、C級ホラー作品への出演が相次ぎます。
題名だけ挙げておきます。
「レディ・イポリタの恋人/夢魔」(74)、「新エクソシスト/死肉のダンス」(75)、「サスペリア」(77)、「レイプ・ショック」(79)、「インフェルノ」(80)、「サスペリア2000」(97)・・・。
あの名優がよりによってなんでこんな映画に…と悲しくなりました。
遺作は「セマナ-血の7日間-」(2002)。 -後年の作品は、劇場公開すらされておらず、ビデオのみ発売です。
栄光と、悲惨とを共に味わった、数奇な人生を歩んだ女優と言えましょう。しかし、「第三の男」のラストシーンだけは、映画ファンの心にいつまでも残り続けるわけですから、ある意味幸せな人生だったのかも知れませんね。冥福を祈ります。
--合掌--
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