「ブレードランナーの未来世紀」
このブログでは、映画批評だけでなく、私の読んだ本でお薦めのものも取り上げることにしている。そう言いながら今まで書いて来なかったのは、第1回目に何を取り上げるか迷っていたからである。ミステリー小説、SF小説、ファンタジー、泣ける小説、映画評論、エッセイ・・・・いろいろあって本当に迷う。
で、結局、欄外「おススメの本」で最初に紹介した本書を取り上げることにした(初めからそうせんかい(笑))。
著者は町山智浩。この人は私のお気に入りの評論家で、とにかく紹介する作品や文章が実にユニーク、独特の視点を持っており、いつも感心させられている。「そういう見方もあるのか…」と目からウロコが落ちる思いである。
本ブログのサブタイトル「いろいろ視点を変えてみれば、映画はもっと楽しくなる」も、実は町山氏の著作に触発されて決めたようなものである。そういう意味で、第1回に取り上げるに相応しいと言えるかも知れない。
本書は、3年前に町山氏が出した「<映画の見方>がわかる本」の、シリーズ第2弾にあたるもので、前回では、1968年から78年にかけてのいくつかのアメリカ映画を取り上げている。作品名は 『2001年宇宙の旅』 、『俺たちに明日はない』、『卒業』、『イージー・ライダー』 、 『フレンチ・コネクション』、『ダーティハリー』 、『時計じかけのオレンジ』 、『地獄の黙示録』、 『タクシードライバー』、 『ロッキー』、 『未知との遭遇』・・・等々、アメリカン・ニューシネマからSF大作まで、この10年間のアメリカ映画の変遷が綴られている。
が、作品タイトルは幾分オーソドックスでも、料理の仕方がそこらの映画評論とは切り口がちょっと違う。アメリカ各地を実際に渡り歩き、知られざる製作エピソードを収集し、監督の実態に迫り、映画が本当に言わんとしているポイントを着実に追及してくれる。
『2001年宇宙の旅』や『地獄の黙示録』などの一般に難解と言われている作品についても、実に分かり易く解説されており、一読の価値はある。…まあしかし、あくまでこの人の視点であり、賛同するかしないかはあなた自身で考えてください。
・・・前置きが長くなったが、本作はその後の、1980年代のアメリカ映画、―それもややマニアックな作品が取り上げられている。
取り上げた作品は、『ビデオドローム』、『グレムリン』、『ターミネーター』、『未来世紀ブラジル』、『プラトーン』、『ブルーベルベット』、『ロボコップ』、『ブレードランナー』・・・と、どちらかと言えばカルトっぽい題名が並ぶ。『ビデオドローム』なんかはあまりの難解さに劇場未公開となったものである。実は私も、まだレンタルビデオが出始めの頃、これを借りて観ている。確かにさっぱり分からない。…がリック・ベイカーのSFXだけは(低予算でCGもない時代だが)ショッキングで強烈に印象に残った。本書を読めば、その比喩するものが解説されており、これを読んだ後に観ればより楽しめるかも知れない。…しかし本書には、監督のクロネンバーグ自身「作った当時は自分でも意味不明だと思った」と告白したと書かれてある。なんのこっちゃい(笑)。
以下、さまざまな資料も駆使して、映画作家たちが何をどう考え、苦悩や試行錯誤の果てにいかにしてこれらのカルト傑作映画を生み出すに至ったかが詳細に解説されている。映画の中で、どうしても分からなかった疑問点も解答してくれているのは特にありがたい。
例えば、『ブレードランナー』で、屋台のオヤジがハリソン・フォードに日本語で「二つで十分ですよ。わかってくださいよ」という、その二つとは何か…という疑問にも答を出している。なるほど、そうだったのか(知りたい方は本書をお読みください)。
町山氏は、自身が企画した雑誌『映画秘宝』でも相方の柳下毅一郎氏と、まるで漫才の掛け合いのように対談で映画を切るコーナー「裁くのは俺たちだ!」を連載しており、これもウンチクとボケと突っ込みでいつも楽しませてもらっている。
まあ、人によっては好き嫌いが分かれるかも知れないが、とにかく「映画をいかに楽しむか」という視点は私と共通しており、個人的にはこの人の文章は大好きである。映画をもっと楽しみたいと思っている方(特にSF、ファンタジーが好きな方)は、一読のほどを。
| 固定リンク
コメント