« 「アンジェラ」 | トップページ | 「明日の記憶」 »

2006年5月28日 (日)

「ポセイドン」

Poseidon (2006年・米/監督:ウォルフガング・ペーターゼン)

'72年に製作され、大ヒットしてパニック映画ブームの火付け役となった秀作「ポセイドン・アドベンチャー」の34年ぶりのリメイク。試写会で見参。

前作はリアルタイムで観ている。とても面白く、かつ感動した。ポール・ギャリコの原作がとても良く出来ており、これを「夜の大捜査線」(ノーマン・ジュイソン監督)でアカデミー賞を取った名手スターリング・シリファントが脚色、ロナルド・ニームが監督した。

原作が良くて(登場人物もストーリーも原作通り)、脚本も良く出来ているのだから面白いはずである。
キャラクター造形が秀逸。祈るよりも行動せよ、と人々を引っ張って行く牧師ジーン・ハックマン、その牧師に何かと突っかかる警官アーネスト・ボーグナイン、人のいい行商人レッド・バトンズ、太ってる割りに水泳の得意な夫人シェリー・ウィンターズ…と並ぶ4人の主要人物が実は全員アカデミー賞受賞者。ついでに特殊効果担当が「ミクロの決死圏」や「猿の惑星」、「トラ!トラ!トラ!」など映画史に残るSFXを手掛けてアカデミー賞を4度も受賞しているL・B・アボット(CGのない時代です)と、これだけスタッフ、俳優が充実しているパニック映画も例がない。とにかく何度観ても面白いし感動させられる。

――と、長々とオリジナルの紹介をしたのは、リメイクだというのに前作のいい所がまったく生かされていないからである。

そもそも、ポール・ギャリコの原作とは、登場人物が全然異なる。ま、変えるのはいいとしても、オリジナルにあった、それぞれの人物の内面的な掘り下げ、対立や葛藤もなく、矢継早に次から次に災難が襲いかかるだけで、感動することも勇気付けられることもない。

SFXだけはさすがにI.L.Mによる最新のCG技術が駆使され、見応えがある。
が、いくらCGが見事でも、肝心のドラマが薄っぺらいのでは感動も、見終わった後の充実感もない。

冒頭、水中から出たカメラがポセイドン号の周囲をグルリと回りジョギングする人物を捕らえるまでをワンカットで描いたCGに驚かされるが、
だからそれがどうした・・・と言いたくなるくらい、別になくてもどうでもいいシーンである。

なんだか、CG技術者の、自己満足の為だけに作られたような感じを受けてしまうが、そんな所に手間と時間をかけるくらいなら、脚本作りにもっと手間と時間をかけなさい…と言いたくなる。

まるで、ユニバーサル・スタジオのアトラクションを体験しているようなもので、見ている間はワーキャー、ハラドキだが、観終わったらきれいさっぱり忘れて、後に何も残らない(そう言えば元消防士だというカート・ラッセルは、USJにある「バックドラフト」の元となった映画に主演してましたな)。

まあ、そういったアトラクションを楽しみたい方なら十分堪能できるだろう。前作を知らなければそれなりに面白いかも知れない。

しかし、映画はやはり感動を与えられ、観終わった後々までも心に残り続けるものであって欲しい。SFXだけしか印象に残らないようでは困るのである。

オリジナルは、逆さになった船内のビジュアル効果も秀逸だった。天井に固定されたテーブルにぶら下がった人間がシャンデリアに向かって墜落して行く…という文字通り逆転発想がお見事。トイレの便器が逆さになっているシーンも印象的。
本作では、そうした視覚的な斬新さがない。まあ、あったとしても二番煎じになってしまうだろうが…。

公開前なので、あんまり文句は言いたくないのだが…まあ前作がいかに素晴らしい出来だったかを再認識出来た事が収穫だった…と言えばキツいだろうか。

  (採点=★★☆

ランキングに投票ください → ブログランキング     にほんブログ村 映画ブログへ

|

« 「アンジェラ」 | トップページ | 「明日の記憶」 »

コメント

 トラックバック、丁寧なコメント、ありがとうございます。感謝します。
 オープニングの船体ヨリ回転から人物の顔のヨリまでをワンカット処理しているので、期待して観ました。しかし、ここまで。CGにびっくりさせるだけのミーハー映画でした。本作をほめるとすれば、オリジナルを知らないか、単なるミーハー。名作を凡作に変える力は・・・何なのだろうと思います。
 評論を読ませてもらいました。ありがとうございました。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2006年6月 6日 (火) 01:32

『映画と秋葉原とネット小遣いと日記』のhideです
Kei さんTB&コメント有難うございます
オリジナルは、さすがにパニック映画の金字塔として、確かに偉大でしたね。
(^_-)-☆本作のVFXやパニック・ジェットコースター映画として楽しんじゃいましたが・・・
●感情移入できる暇が無い位のジェットコースターじゃ、しょうが有りませんよね。
人間ドラマが薄かったです(^_^;)

投稿: hide | 2006年6月15日 (木) 12:52

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「ポセイドン」:

» ポセイドン (Poseidon) [Subterranean サブタレイニアン]
監督 ウォルフガング・ペーターゼン 主演 カート・ラッセル 2006年 アメリカ映画 98分 パニック 採点★ リメイクの是非については、後日たっぷりと。基本的には肯定派ですが。 さて、映画ファンならタイトルぐらいは聞いたことがあるであろう『ポセイドン・アドベンチャー』..... [続きを読む]

受信: 2006年5月31日 (水) 21:16

» ポセイドン 先行ロードショー見てきました [よしなしごと]
 今年40本目(映画館での干渉のみカウント)は、僕が映画好きになったきっかけの1つであるポセイドンアドベンチャーのリメイク版ポセイドンを先行ロードショーで見てきました。 [続きを読む]

受信: 2006年5月31日 (水) 22:45

» 今年は沈没船ブーム?【ポセイドン】 [犬も歩けばBohにあたる!]
今年は沈没船ムービーが多いなぁ。 「LIMIT OF LOVE海猿」は大ヒット [続きを読む]

受信: 2006年6月 1日 (木) 00:34

» 映画 「ポセイドン」 [ようこそMr.G]
映画 「ポセイドン」 を観ました。 [続きを読む]

受信: 2006年6月 3日 (土) 12:12

» ポセイドン [Akira's VOICE]
身を固くして画面に見入る水難災害体験映画! [続きを読む]

受信: 2006年6月 4日 (日) 11:18

» ポセイドン [しんのすけの イッツマイライフ]
リメイクと書いていますが、 ポセイドンという豪華客船の舞台と、 逆さになった船からの脱出劇という設定だけが同じで、 登場人物の設定も、脱出方法も違っていますので、 ある意味別の作品と考えるのが正しいかもしれませんね。 ... [続きを読む]

受信: 2006年6月 4日 (日) 22:28

» ポセイドン [映画評論家人生]
梅田ピカデリー 今から約30年前の「ポセイドン・アドベンチャー」は名作である。神父役のジーン・ハックマンが甲板で『神はお忙しい。世界で起こる大きな事故や災害に手をとられている。いくら祈っても、私たち... [続きを読む]

受信: 2006年6月 6日 (火) 01:28

» ★「ポセイドン」 [ひらりん的映画ブログ]
見たい映画が溜まってきたので一挙3本見てきました。 これは2本目。 (招待券も溜まってたので2本は無料です) むかーーーし、テレビで見た事のある「ポセイドン・アドベンチャー」のリメイク。 パニック映画なんだろうけど、CG技術が超進歩したので・・・ 迫力映像を堪能できるのかなっ???... [続きを読む]

受信: 2006年6月13日 (火) 04:13

» ★「サイドウェイ」 [ひらりん的映画ブログ]
低予算のわりにはいろんな賞を取ってる・・・って何かで読んだので見てみました。 確かに、ゴールデン・グローブ賞では作品賞まで取ってる作品でした。 今回は、TOHOシネマズのシネマイレージ特典(6回観ると1回タダ)で無料鑑賞してきました。 240人くらい収容のスクリーンに30人くらい。 年齢層はやや高め。 この映画に関連して、売店ではワインが売られてましたよ。 2004年度製作、130分もののコメディ・�... [続きを読む]

受信: 2006年6月13日 (火) 04:16

» 『ポセイドン』2006・6・4に観ました [映画と秋葉原とネット小遣いと日記]
『ポセイドン』   公式HPはこちら ←クリック ●あらすじ 大晦日の夜。北大西洋を航行中の豪華客船“ポセイドン号”に巨大な波が押し寄せ船体が180度転覆の危機に。生存者達は船内に残る者と、混乱する船内で出口を探すサバイバルに向かう者達と別れる事に成る・... [続きを読む]

受信: 2006年6月13日 (火) 18:13

» 「ポセイドン」 [雑板屋]
オリジナル版1970年代のディザスター・ムービーの代表「ポセイドン・アドベンチャー」は数年前に自宅鑑賞して独り大いに盛り上がった。 今回のリメイク、これまたなかなかに心拍数の上がりっぱなしの・・個人的に表現するなら‘しょんべん手パニクリサバイバル映画’だった!...... [続きを読む]

受信: 2006年6月14日 (水) 05:04

« 「アンジェラ」 | トップページ | 「明日の記憶」 »