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2006年5月29日 (月)

「明日の記憶」

Asitanokioku (2006年・東映/監督:堤 幸彦)

原作(荻原浩)は以前に読んだのだが、大変感動した。作者も以前広告会社に勤務していたそうで、サラリーマンの仕事ぶりの描写にリアリティがあるうえに、私自身も会社員で、かつ最近物忘れする事も多くなって来て(笑)、そんなわけで読んでて凄く身につまされた。

大手広告会社のやり手部長である佐伯(渡辺謙)は、業績もよく部下の人望も厚く、インテリア・コーディネータとして働く娘の結婚も間近に控え順風満帆であった。しかしある日を境に記憶の欠落が目立ち始め、病院で検査したところ、初期のアルツハイマーである事が判明する。

絶望し苦悩する佐伯と、その彼を支える妻(樋口可南子)との夫婦愛を感動的に描いて、なかなか見応えのある佳作になっている。

劇場ではすすり泣く人も多く、興行的にもいい数字を出しているようでまずは同慶の至りである。
これまでちょっと捻った作品が多かった堤幸彦監督も今回は正攻法の演出で、毎回これ位のレベルの作品を作ってくれれば文句はない。

さて、今回は久しぶりに視点を変えてみる(出たね(笑))。

この作品は、確かに難病に対峙する夫婦愛を描いた感動作ではあるが、実はそれだけではない。

見方を変えれば、これは実は、“コワい映画”である。

アルツハイマーという病気が、若い人でも、誰でも発病する可能性のある病気であり、また老人のいる家庭では現実にその病人を抱えているケースも多い。

つまりどこの家庭でも、明日にでも起き得る“いまそこにある危機”なのである。

ちなみに、映画の中で佐伯が受けていた検査を自分でもやってみて、3つの言葉(桜、電車、ネコ)が 100引く 7 引く 7 …の暗算の後に出てこなかった人は、ゾーッとしたでしょうね(私は覚えてました。ホッ)。

自分の記憶が次第に欠落して行き、人間としてどんどん壊れて行く…妻の顔も、孫の名前も、やがて記憶から無くなって行く…その恐怖を、渡辺謙の迫真の演技、そして建物が歪む等のイマジネーション演出で巧みに表現している。

これは一種のホラー映画でもあるのである。
(ちなみに、野村芳太郎監督「震える舌」(80)という作品は、破傷風菌に冒された少女とその家族の戦いを描いた作品だが、演出も宣伝もホラー映画扱いであった)

もう一つの見どころは、会社という組織の冷たい実態をリアルに描いている点である。
(以下ご覧になっていない方の為に隠します。ドラッグして反転すれば文章が読めます)

例えば、部下の一人、園田が、佐伯の病気を上層部に密告する。為に佐伯は閑職に追いやられ、会社を辞めざるを得なくなる。しかし映画は園田を単に悪者扱いにはしていない。自分が上に上がりたい為に他人を蹴落とすなんて、組織ではよくある話なのである。佐伯の退社の時、ガラスの向こうで園田は深々と頭を下げる。その場面で、この男も哀れむべき存在である事を映画は伝えている。

佐伯が配転された部署は「資料管理課」。1日中役に立たない資料を整理するだけの部屋。要するに会社に役に立たなくなった人間を晒し者にする部署である。わざと通り道の目につく所に部屋を設置する。クビには出来ないので、いたたまれなくなって自発的に辞めるように仕向けるのである。その辺りがリアルに描かれていて感心した。

長い間会社に貢献して来た人間にすらそういう仕打ちをする…それが会社なのである。

会社に勤めている人なら実感出来る、そのリアリティにサラリーマンはゾッとするはずである。

反面、夫婦愛以外にも泣けるシーンがある。

映画を観れば分かるが、佐伯にかなりキツイ事を言っていたクライアントの河村(香川照之)が、電話で寄越した励ましのメッセージ「ダメだと思えば人生ダメになる。…負けちゃダメだよ」
私はここでドッと泣けた。

退社の日、部下たちが花束と、名前の入ったポラロイド写真を渡すシーンにも泣けた。

会社人間にとっては、とても切ないシーンである。

この映画は、夫婦にとっても感動できるが、会社に勤めていてある年齢にさしかかったサラリーマン、あるいはかつて会社に勤めていた人にとってもすごく感動出来る作品になっている。お奨めである。   (採点=★★★★☆

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コメント

今晩は☆
TB有難うございます。^^
3つの言葉はOKだったんですが、5つのアイテムを隠された時はアセりました。^^;
明日にでも誰にでも起こり得る…他人事ではないところが怖くて身につまされます。
河村や他の登場人物などの印象的なセリフも多く、特に「生きてりゃいいんだ」というセリフが強烈に残ってます。

投稿: ルーピーQ | 2006年5月30日 (火) 22:46

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