「RENT/レント」
ミュージカル作品が続くが、話題の「レント」を観た。トニー賞の受賞数こそ4つと、「プロデューサーズ」に及ばないが、エンタティンメント作品では稀有な賞とも言われる“ピューリッツァー賞”を受賞するなど、こちらもなかなか評価が高い。
しかし同じミュージカルであっても、「プロデューサーズ」とは作品のタイプはまったく異なる。ある意味正反対の作品とも言える。
以下、比較してみる(多少私の独断も入っている)。
「プロデューサーズ」 「レント」
時代 1959年 1989~90年
登場人物 金持ち・中産階級 下層貧民
音楽 通常の歌曲 ロック、他多彩
ジャンル ドタバタ・コメディ リアルな生活描写
物語 金儲けと騙し 貧乏だけど夢志向
テーマ 舞台裏話 エイズ、同性愛、死
傾向 中高年大人向け 若者向け
ざっとこんな具合で、もっと分かり易く言えば、「プロデューサーズ」は戦前からあるブロードウェイの伝統的を受け継ぐ正統ミュージカルであるのに対し、「レント」は70年代以降に盛り上がったロックと反体制ムーブメントの中から登場した、非ブロードウェイタイプの作品である。一般的には、“ロック・ミュージカル”と呼べるタイプの作品である。さらに分かり易く言うなら、「プロデューサーズ」が大阪の“梅田芸術劇場(旧梅田コマ)”で上演されるとするなら、「レント」は地下の“シアタードラマシティ”向きの作品である。
もっとも、ロック・ミュージカルはこれより以前から誕生しており、有名な所では、ロイド・ウェーバー作曲の「ジーザス・クライスト・スーパースター」、「ヘアー」(出演者が素っ裸になったことで有名)、「TOMMY/トミー」などがあり、いずれもヒッピー風(古いな(笑))の若者たちが主人公である。
もっと遡れば、ロックではないけれど“ニューヨークの貧民街に住む貧しい若者たちのヴィヴィッドな青春群像”を描いた作品としては、あの「ウエストサイド物語」がある。内容的にはむしろ、「ウエストサイド物語」のDNAを受け継いでいる感がある。「ウエスト-」も圧倒的な支持を集めた名作であり、「レント」がブロードウェイで大ヒットしたのは、「ウエスト-」という(当時としては)新しいタイプのミュージカルが今ではすっかりブロードウェイで定着したことも要因としてあるのではないかと思う。
で、私としては、「ウエストサイド物語」大好き・・・と言うより、生涯に観た映画の中でもベスト3に入るほど愛着のある映画で、劇場でも10回以上は観ているし、ビデオでも数え切れない程観た作品。また前述の「ジーザス・クライスト・スーパースター」、これまた大好きな作品で、サントラ盤のレコードも擦り切れるほど聴いた程である。
そんなわけだから、この作品にもすんなり溶け込めた。なにより、非常階段がむき出しになったニューヨーク下町の裏通りの風景で、たちどころに「ウエストサイド」を思い出したくらいだから(笑)。曲の中では、冒頭のコーラス"Seasons of Love"が高揚感があって聞き惚れる。大勢でタンゴを踊るシーンもダイナミックで好きである。
ただ、個人的には私は、観終わってハッピーな気分になれる作品が好きである。MGMミュージカルが大好きなのは、他愛ないけれどラストがいつもハッピーだからである。「プロデューサーズ」も同様。
この作品は、エイズ、ドラッグ、同性愛、友の死・・・と、暗い要素が多い。ラストに明日への希望を匂わせてはいるが、全体としては暗い…。映像作家やミュージシャンを目指す主人公たちが成功するわけでもないし。
だから、いい作品には違いなし、評価もしたいが、「雨に唄えば」や「ウエストサイド-」のように、何度も繰り返し観たいとは思わない。多分興行的にも、「プロデューサーズ」に比べて苦しいのではないか。でも歌は名曲が多いので、これはむしろ生の舞台で見るべき作品なのかもしれない。
じゃ「ウエストサイド」はアンハッピーじゃないかと言われそうだが、全体としてはハッピーな気分に満ち溢れているし、ラストはトニーの死を契機に若者たちの和解を暗示し、感動的なエンディングになっている。――まあ、一つは若い、感受性豊かな時に観た…という事もあるのかも知れない。中高年なった今では「レント」はちょっとシンドい…というのが正直な感想である。―でも、若い人にはおススメですよ。 (採点=★★★★)
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