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2006年7月26日 (水)

「時代劇ここにあり」(川本三郎・著)

Jidaigeki 映画の本の紹介です。

映画評論家・川本三郎さんが、小学館のコミック誌・ビッグコミック・オリジナル等に長期連載されていた、時代劇についての文章(当時のタイトルは「燃えよ!チャンバラ」)を1冊にまとめたもの。

連載中からずっと読ませていただいてましたが、こうやってまとまると、分厚くて読み応えがあるのは無論ですが(なんせ590ページもある!)、取り上げた作品に一貫した流れがあってまた新たな発見があります。

それは、“時代劇”と謳いながら、かなり傾向が偏っているということです。

なんせ、戦前から戦後に至るまで量産され、多くの観客を魅了し、テレビでは今も繰り返し登場する、「旗本退屈男」(市川右太衛門)、「遠山の金さん」(片岡千恵蔵)、「水戸黄門」(月形竜之介)、「銭形平次」(長谷川一夫)などの時代劇ヒーロー・時代劇スターがまったくといっていいほど無視されているのです。また、演じたスターはあまり有名ではありませんが、これも映画・テレビを通じて有名な「清水の次郎長」も登場しません。

この理由は川本さん自身があとがきで書かれていて、「本書は『笛吹童子』、『紅孔雀』によって時代劇を知った世代による時代劇映画論である」とあります。おお!私もまったくその世代の一人です。うーん、親近感が湧きますね(笑)。

さらに川本さんは、「時代劇で好きなのは、一匹狼のアウトローの孤独な戦いを描く、いわるゆ股旅もの…」であり、「股旅ものが好きになると、権力を背景にした、『旗本退屈男』や『遠山の金さん』、『水戸黄門』や『銭形平次』、あるいは個人より組織を描く『清水次郎長』などに興味がなくなってしまうのは仕方がない」 「本書は、股旅もの中心のきわめて偏った時代劇映画論である」と言い切っています。

こうしたポリシーに貫かれているわけですから、登場する作品もユニークです。

Tiyarihuji 最初に取り上げられた作品は、千恵蔵主演、内田吐夢監督の「血槍富士」(55)。身分の低い槍持ちが、主人が殺された事を知るや、憤怒の形相で槍を無茶苦茶振り回し、泥まみれになって闘う。退屈男や遠山の金さんらの型にハマったチャンバラではありません。リアルで凄惨な立回りです。後の東映集団時代劇、さらには実録路線の遠い先駆けであると言えましょう。千恵蔵が登場する作品はこれと、その集団時代劇の最高傑作「十三人の刺客」のわずか2本のみです。徹底してます(笑)。

Sekinoyatappe そして2本目に登場するのが、私の大好きな「関の彌太ッペ」(63・山下耕作監督)。中村錦之助主演の股旅映画の最高傑作と言われている名作です。以後、錦之助や市川雷蔵主演の股旅もの孤独なアウトローものを中心に105本の時代劇映画が紹介されて行きます。

主演スターの統計を取ってみました。なんとまあ、市川雷蔵がダントツの15本!。中村錦之助が12本、三船敏郎が10本…と続きます。雷蔵、錦之助が多いのは、この二人の主演作に股旅ものやアウトローものが多いからでしょう。

監督を集計してみたら、こちらも雷蔵作品が多い三隅研次がダントツの11本。もっとも、雷蔵だけでなく、勝新太郎の「座頭市」2本、若山富三郎の「子連れ狼」4本も含めてですが。
以下、加藤泰6本、岡本喜八森一生内田吐夢各5本…と続きます。

こういう傾向を見ても分かるように、古くからの日本映画…それも、どちらかと言えばプログラム・ピクチャーを中心に観ている人ほど楽しめる作りになっております。

特に感動!したのは、ほとんど世間には知られていない、集団時代劇の最初の傑作「十七人の忍者」(53・長谷川安人監督)を取り上げている事です。脚本は、今や時代小説の第一人者である池宮彰一郎こと池上金男。氏の最初の傑作脚本です。「十三人の刺客」が好きな方には絶対のお奨めです。この映画が分かる方は本当のツウです(笑)。

Juubei その他では、これも集団時代劇の傑作「十兵衛暗殺剣」、沢島忠監督の最後の傑作?「股旅/三人やくざ」、加藤泰・錦之助コンビの「風と女と旅鴉」、石井輝男監督の日本版「地下室のメロディー」-「御金蔵破り」、菊島隆三脚本の竜馬暗殺の謎を探るミステリー時代劇「六人の暗殺者」など、そのチョイスの鮮やかさにはニンマリしっぱなし。雷蔵ものでは、実に軽いコメディ時代劇「浮かれ三度笠」を取り上げているのも嬉しいやら笑えるやら…。

多分、オーソドックスな時代劇ファンからは反撥が出るかも知れません。黒澤明作品ですら3本しか入っていないのですから。

しかし、冒頭でも触れたように、これは川本さんの“一匹狼のアウトローの孤独な戦い”を描いた作品を中心に据えるという一貫したポリシーの元に編纂されているわけですから当然のことなのです。

そういう意味では、読者を選ぶ本であるとも言えます。しかし、遅まきながらも錦之助の「関の彌太ッペ」や、千恵蔵の「十三人の刺客」や、雷蔵の「ひとり狼」などの、プログラム・ピクチャーが最も栄えた1960年代の時代劇の面白さが分かりかけた方にとっては格好の時代劇入門書であると言えましょう。

私的には満足のおススメ本です。

あと、欲を言えば個人的には私の大好きな次の作品も取り上げて欲しかった所ですが…。あくまで個人的な好みの問題ですが。

「鴛鴦歌合戦」(39・マキノ正博監督)…和製シネ・オペレッタの楽しい快作。
「次郎長三国志・海道一の暴れん坊」(54・マキノ雅弘監督)…次郎長ものは取り上げないそうですが、これだけは別格にして欲しい名作です。
「隠し砦の三悪人」(58・黒澤明監督)…痛快波乱万丈冒険大活劇の最高傑作。
「東海道四谷怪談」(59・中川信夫監督)…我が国怪談映画の最高傑作。
「忍者狩り」(64・山内鉄也監督)…集団時代劇の傑作の一本。

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