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2006年7月13日 (木)

「東京少年」(小林信彦著)

Tokyoboy 久しぶりの、最近読んだ小説のご紹介。

小林信彦さんは、ずっと以前から大のファンです。著作物のほとんどは読んでます。

レパートリーの広い方で、中原弓彦という別名で、ミステリー雑誌「ヒッチコック・マガジン」の編集長をまかされたり、「日本の喜劇人」、「世界の喜劇人」、「おかしな男 渥美清」他の喜劇人たちについての評論集もあれば、ジュブナイル小説「怪人オヨヨ大統領」シリーズ、映画にもなった抱腹絶倒パロディ小説「唐獅子株式会社」シリーズ(映画ファン必読)、パスティーシュ小説「ちはやふる奥の細道」(外国人が間違った日本観で書いたものを小林氏が翻訳した…という設定)、タイムスリップSF「イェスタディ・ワンスモア」もあれば、純文学「ぼくたちの好きな戦争」、そして映画評論、コラムものと実に多彩。どれも独創的で他の追随を許しません。しかも根底には映画、演劇、寄席芸を含めた大衆芸能に対する熱い思いが溢れています。

本書は、これまでも一部で書いて来た、戦争中の学童疎開がテーマです。小林さん自身の12~3歳の頃の体験を描いた、本人によれば、「自伝的作品であるが、自伝ではない」小説だそうです。つまり一部は誇張、フィクションがあるという事です。

小林さんの小説やコラムを読んでると、敗戦後、マスコミや教師が主体性をコロっと変えた(つまり戦争中は国家の戦争礼賛、戦後は民主化推進)ことに根強い不信感を持っており、いまだにマスコミやエラい人(総理大臣も含む)を信用していないようです。そのルーツは、この学童疎開の時代にある事が分かります。

決して、楽しい作品ではありません。しかしあの時代を肌で体験した小林さんならではの思い、そして「今、こんな時代だからこそ書いておかねば」という決意がこちらにも伝わって来ます。何より、“子供の目から見た戦中戦後”という主題がユニークです。
小林さんのファンは無論のこと、終戦前後の時代に興味のある方にお奨めです。

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