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2006年8月 6日 (日)

「ゲド戦記」

Gedosenki (2006年・東宝/監督:宮崎吾朗)

宮崎吾朗監督に対してかなり手厳しい意見が多いが、いったい何を期待しているのだろうか。

アニメの経験も、監督の経験もまったくない新人が演出をまかされて、それで天才・宮崎駿監督作品と同レベルの作品が出来上がる…とでも思っていたのだろうか。

残念ながら、天才の子供が父と同じ才能を開花した例は、皆無と言っていい。だから私は、まあ何とか観れる程度の出来だったらオンの字と思っていた。

そういう意味では、本作は予想を上回って良く健闘した方だと言えるのではないか。

 

で、私は先にも書いたとおり、宮崎駿は真の天才だと思う。私見では、20世紀において文化・芸術の分野で真の天才と呼べるのは、手塚治虫黒澤明、そして宮崎駿の3人しかいないと思う。

無論、天才と呼べる人は他にもいる。木下恵介、山中貞雄、北野武なども私は天才だと思っている。
しかし、これらの人は天才ではあるが、真の天才ではない。強いて言うなら、準・天才(?)である。

どう違うのかと言うと、真の天才とは、“その分野において先駆者となり、その後に続く人たちに多大な影響を与え、夥しい模倣とオマージュ作品を伴う多くの信奉者を生み出すに至った”人である・・・とでも定義出来るだろう。

手塚は、戦後日本漫画のスタイルを確立し、“すべてのストーリー漫画の源流は手塚治虫である”とまで言われている。彼がいなかったら今の漫画ブームの隆盛は無かったと思う。それほどまでに偉大な存在である。藤子不二雄も赤塚不二夫も石ノ森章太郎も、手塚を神様のように尊敬している。

黒澤も、「七人の侍」という世界映画史上に残る傑作を残し、ルーカス、コッポラ、スピルバーグなど黒澤の弟子を自認する信奉者を生み出し、「椿三十郎」における人を斬る効果音と血しぶきの噴出は、その後の時代劇にことごとく模倣された。

宮崎も同様、それまで子供が見るものだと思われていたアニメを、壮大なイマジネーション、深遠な世界観、アニミズム志向などにより、大人の観客や評論家層にも信者を作り出し、多くの亜流作品を生み、ジョン・ラセターを始めとしてディズニー内部にすらファンを獲得している(ディズニー作品「ビアンカの冒険/ゴールデン・イーグルを追え」は飛翔シーンをはじめ、明らかに宮崎アニメからの影響が見られる)。

そういったわけで、宮崎駿のような天才は、100年に1人か2人しか現われないのではないかと思う。それ故、宮崎駿以外に彼のようなレベルの作品を作れる人はまずいないだろう。ジブリ作品で言えば、「耳をすませば」は近藤喜文監督作品だが、脚本・絵コンテは宮崎だし、宮崎本人が手掛けたイバラードのイメージ世界のみが突出しているだけの、ごく普通の作品に留まっている。

天才の子供の例を挙げれば、手塚治虫の子、手塚眞は映像作家として活躍しているが、出来栄えは可もなし不可もなし、私は彼の作品を大抵観ているが、心を動かされるものはない。

黒澤明の息子、久雄は黒澤プロのマネージメントをしているだけ。娘の和子は映画の衣装デザイナーとして活躍しているが、突出した存在ではない。

こういう例を見れば、私が吾朗監督にまったく期待しないのは当然だろう。もし万一、心を揺り動かす秀作が完成したなら、確率数億分の1の奇跡ということになる。

公式ぺージの監督日誌を読むと、吾朗監督自身の言葉として、次のように書かれている。
私が『ゲド戦記』監督を引き受けた理由は二つあります。『ゲド戦記』という物語に魅力を感じていたことが一つ目。そして二つ目は、父との関係もありこれまで長く気づかないふりをしてきたアニメーションへの想いが拭いがたく自分の中にあることに気がついたからです。

宮崎吾朗は、若い時から「ゲド戦記」を愛読していたそうだ。また上にもあるように、アニメーション作家になる夢も、ずっと抱き続けていたのだろう。

Gedosenki2 従って、自分がもし監督するとしたら、どういうストーリー展開にするか、かなり早い時期からイメージを膨らませていたことが想像できる。
多分吾朗の頭の中には、アースシーの世界観やゲドのそれまでの人生もとっくに完結していたのだろう。だから、膨大な原作を2時間に収めるに当って、“親との確執、迷い、自立、成長、冒険”という彼の描きたいテーマが凝縮された、原作の第3部「さいはての島」を中心に物語を構成した…という事も理解出来るのである。

その彼の描きたかった世界を、ジブリというクォリティの高いスタッフを得て、思う存分に映画化する事が出来た。

そういう意味では、吾朗監督にとっては満足できる作品になっただろう。

 

ただ残念な事に、そうした、アニメーションへの熱い思いがあったにもかかわらず、吾朗監督には、天賦の才がなかった。

・・・そういう事なのである。
天才の子は天才にはなり得ない。鈴木敏夫プロデューサーも過信しすぎたのではないか。

それを知っていたからこそ、父駿は息子が本作を監督する事に猛反対したのだろう。

映画には、確かに原作に対する熱い思い、熱意が感じられるし、部分的にはいいシーンもあった。
しかし、全体として眺めると著しくバランスに欠け、しかも父の作品に対するリスペクトのせいなのか、あるいはこれまでの宮崎駿作品が
「ゲド戦記」からかなりヒントや着想を得ていたせいなのか(という事が本作をみてよく分かった。父が反対したのもそれも理由の一つかも知れないが(笑)…)、あまりにも過去の宮崎アニメとそっくりなシーンが多すぎる。これがメル・ブルックス作品のように、原典へのオマージュ・パロディ作品ならそれも楽しみなのだが…。

そんなわけで、私自身としてはまあまあ楽しめた方であるが、原作「ゲド戦記」ファン、ジブリ・アニメ・ファンにとっては失望する出来であろう。

もし宮崎吾朗が本当にアニメーション作家になりたかったのなら、父親が歩んだのと同じように、アニメーターもしくは原画マン、美術設定などの下積みからスタートし、テレビアニメの絵コンテ、演出を経験し、そこで才能を認められて、やっと本編の監督…という道を歩むべきであった。それでもなれるかどうかは保証の限りではない。

 

なお、本作には前述のように、過去の宮崎アニメとそっくりなシーンがいくつかあるが、それは次のお楽しみに・・・→(こちらをどうぞ)。 (文中敬称略)

  (採点=★★★

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コメント

こんにちは!echo&コメ、ありがとうございました!
最初からわかっていたことですが、
この人に監督させるのは、どう考えても、おかしいです。
ま、そう考えると、よくやったかもしれませんね。

投稿: 猫姫少佐現品限り | 2006年8月20日 (日) 17:00

トラックバック、コメント、ありがとうございます。返事が遅くなり申し訳ありません。
多くの方が不満を語っているのは、この映画の注目度にあると私は思っています。絶対に稼ぐ映画で、大宣伝をしてくれ、全国絨毯爆撃映画で・・・デビュー作。私はこんなに恵まれた監督を他には知りません。つまり、ヒットした、稼いだからといって、多くの批難のコメントにより、宮崎吾郎は「これではいけないのだ」とわかってもらえるのではないかと私はプラスに考えています。 映像分野において、天才の時期は死ぬまでではなく、決められた間だけだと思っています。黒澤明の「どですかでん」以降の映画を私は理解できません。映画にせず、画集だけ出版すればいいとも思っています。
毒舌ですが、宮崎吾郎に期待したジブリマニアは多いでしょう。そのマニアがけなすのですから、あまりにもひどい出来ばえだったのでしょう。映画は監督のものです。作らされた場合であっても、それは監督のものだと思っています。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2006年9月 6日 (水) 00:10

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