「16ブロック」
(2006年:ソニー・ピクチャーズ/監督:リチャード・ドナー)
最近も一つパッとしていなかったブルース・ウィリスとリチャード・ドナー監督だが、これはなかなか快調な秀作である。
かつては腕利きだったが、いまではうだつの上がらない刑事ジャック・モーズリー(ブルース・ウィリス)が、裁判所まで証人を送り届ける任務を与えられる。ところが、証人に喋られてはまずい警察内部の腐敗勢力が、証人の口を塞ぐべく、あらゆる手段で襲ってくる。さて、ジャックは無事証人を時間までに裁判所に届ける事が出来るのか・・・。
こう書けば、映画ファンならすぐにクリント・イーストウッド監督の快作「ガントレット」を思い出すかも知れない。多分意識的にリスペクトはしてるのだろう。主人公はややアル中だし、銃撃されて穴だらけになるバスも出てきます(笑)。
しかしこちらはさらに脚本が練られている。目的地までわずか16ブロック(約1.3~1.6km)なのに、街中に溢れる警察そのものが敵となり、敵の主犯は頭が切れて腕利き、ジャックとは20年来の同僚であるフランク(デヴィッド・モース)、その上2時間以内に裁判所に到着しないと裁判が始まってしまう。
こうした、行く手を阻む関門、頭の切れる敵、そしてタイムリミット…とくればこれはサスペンス映画の王道である。これだけでも十分面白い。
さらに、良く出来ているのは、フランクに証人を渡せと迫られた時のジャックの対応である。
フランクは言う、「お前もワルなんだから、黙って見てりゃ済む話だろう?」。この話から、実はジャックもかつては不正に手を染めていた事が分かる。
ここで、ジャックはある決断をする。
一つには、今は落ちぶれてはいるが、かつては有能で正義感に溢れていたであろうジャックの、“弱い人間が殺されるのを黙って見過ごせない”…という義侠心もあるだろう。
しかし、その決断にはさらにある目的があった事がラストで分かる(カンのいい観客ならラストも予測が付くだろう)。
この辺りが脚本のうまさである。いつもの事だが、良い脚本は伏線の張り方がうまい。途中で、なぜ?と感じるジャックの行動の理由が、ちゃんと伏線に仕込まれているのである。証人のエディ(モス・デフ)とジャックのセリフのやり取りにも伏線が仕掛けられている。
最初はウザいと思っていたエディとの間に、やがて友情にも似た感情が生まれて来る展開がいい。二人の道行きは、一種のバデイ・ムービーにもなっているのである。ラストはそれ故、ジンワリとした感動が待ち受けている。
それだけでなく、この映画には、現実に蔓延っているであろう、警察内部の不正に対する痛烈な批判がある(このテーマに関しては、有名な所でシドニー・ルメット監督の秀作「セルピコ」がある)。
我が国でも、警察の不祥事、裏金作りなど、公務員の堕落は目を覆うばかりである。しかし、少しづつではあるが、内部告発など、浄化の動きは出つつある。そういう点ではタイムリーな作品である。
この映画の素敵な点は、サスペンスに溢れた良質なエンタティンメントでありながら、社会派的な要素も盛り込まれている点にある。日本映画にもこういった作品が出てきて欲しい所である。
それで思い出したのが、佐々木譲の警察小説、「うたう警官」(2005年・角川春樹事務所刊)である。
警察内部の腐敗を、百条委員会で証言しようとする警官に、警察幹部はなんと、殺人事件の濡れ衣を着せ、射殺命令を出す。それを阻止する為、密かに仲間を集め、証言者を守ろうとする刑事たち。タイムリミットまでに刑事たちは証言者を警備網をかいくぐって委員会に送る事が出来るのか…。
本映画とも、テーマ的には似かよっている。ラストの展開はダイナミックかつサスペンスフルで読み応えあり。これ、是非映画化して欲しい。興味のある方には一読をお奨めする。
(採点=★★★★)
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