« 「レディ・イン・ザ・ウォーター」 | トップページ | 「フラガール」再び »

2006年10月 7日 (土)

「フラガール」

Furagirl_4(2006年・シネカノン/監督:李 相日)

いきなり断言する。これは大傑作である。必見である。

本作を観るまでは、本年度のベストワンは、西川美和監督の「ゆれる」に決めていたのだが、これを観て変わった。この映画、「フラガール」を文句なく本年のベストワンに決めることにする。

とにかく笑える、泣ける、そして深い感動を呼ぶ。これほど楽しくて感動し、かつ泣けた映画は昨年の「ALWAYS 三丁目の夕日」以来である。いや、あの作品も遥か超えて、ここ数年の中でも最高と言っていい。

どれほど面白いかは、観た人なら分かるだろう。映画ファンなら絶対観ておくべきである。
いや、映画ファンだけでなく、普段めったに映画を観ない方でも、
仕事が面白くない、リストラされた、人間関係がうまく行かない、落ち込んでいる・・・・
こういう悩みを抱えている方なら、観ておくべきである。きっと気分が晴れて、ちょっぴり元気になって、「よし、頑張ろう!」という気になるに違いない。

この映画は、もしかしたらそんな素晴らしいパワーと活力さえも人にもたらす奇蹟の作品と言えるのかも知れない。

 

この映画のどこがいいのか。――それは、要約すれば、傑作映画に共通すると私が独断で決めている次の3点にある。

(1)着想がユニークである
(2)正統娯楽映画としての要素を網羅した、娯楽映画の王道を行く作品である
(3)現代社会が抱える問題点について、鋭い観察力、深い洞察力を持って追求し、その中で悩みながらもしたたかに生きようとする人たちの勇気と行動を描く社会派ドラマである

どれか1つの要素を持つだけでも、立派な傑作になりうるのに、あきれたことにこの映画はそれらすべてを網羅している。これだけでも奇蹟である。

(1)の着想のユニークさについては、これが実話であり、しかも「東北の田舎町にハワイアンセンターを作る」、「盆踊りしか知らない田舎の娘たちにフラダンスを踊らせる」という誰もが危惧するような仰天アイデアであり、「それが結果的に大成功し、町おこしのパイオニアともなった」という、まさにNHKの「プロジェクトX」にでも採り上げられそうな題材である点が挙げられる。

実は、もとの企画では、このハワイアンセンターを立ち上げた社長が主人公だったという事である。それはそれで面白そうで、「陽はまた昇る」(VHSビデオを開発したビクター工場の話)のような映画になったかも知れないが、これほどの傑作にはならなかっただろう。フラガールを主人公に持って来たからこそユニークなのである。

着想(企画)がユニークゆえに、映画史に残る傑作になったものとしては、黒澤明監督の「七人の侍」が代表作である。何しろ、“百姓がサムライを雇う”のである。
同じ黒澤の「天国と地獄」も、“もし誘拐された子供が人違いだったら”という着想ゆえの勝利である。スピルバーグの傑作「激突!」も、“ハイウェイで巨大タンクローリーにつけ回されたら…”という着想がユニークだった。
こういう着想が素晴らしければ、映画はほとんど成功したも同様である。後は如何に脚本に肉付けするかだけである。

(2)の点については、私なりの“正しい娯楽映画”論を述べたい。

整理すると、物語として①主人公が、ひょんな事から(行き掛かりで)あるチーム(プロジェクト)に参加するハメとなる。②最初は慣れずに失敗し、チームワークもバラバラでどん底に落ちる。③そこから猛烈な特訓を経て、チームも次第にまとまり、主人公たちは自己を見つめ直し、人間的にも成長する。④そして最後に大勝利する。

・・・・というパターンの作品で、代表的なものとしては、周防正行監督「シコ、ふんじゃった。」、矢口史靖監督「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」、洋画では「メジャーリーグ」などがある。やや近い作品(④の要素が少ない)としては、大林宣彦「青春デンデケデケデケ」、周防「SHALL WE ダンス?」、磯村一路「がんばっていきまっしょい」、洋画の「クールランニング」なども入れていいだろう。

笑いあり、涙あり、友情、愛、周囲の励まし、そして勇気と感動があり、観終わって元気になれる…そんな楽しい映画こそ、娯楽映画の基本中の基本であり、だからこれらの作品は傑作となり、多くの人にいつまでも支持されているのである。前掲の「七人の侍」だって、よく見ればこれらの要素が巧みに織り込まれているのである。

本作もまた、確実にそのパターンを踏んでいる。

 

さらに(3)である。昭和40年代、炭鉱不況で多くの人が職を失い、先が見えない時代と町が舞台である。これは今の時代にも通じる、社会的なテーマである。

閉山で失業し、夕張に流れて行く家族も登場する。落盤事故で命を失う炭鉱夫もいる。

こうした社会情勢を厳しく見つめた傑作映画も多い。今村昌平監督「にあんちゃん」がまさにそんな作品(炭鉱が舞台)だし、山田洋次監督「家族」も、職を失った家族が北海道に向かう、時代を見据えた傑作だった。

洋画にも炭鉱ものは傑作が多い。イギリスの「ブラス!」(1996)が代表だろう。炭坑閉鎖を経て、音楽に勇気と希望を見いだす人たちを淡々と描いた秀作である。炭鉱町に生まれた少年がロケット開発者となる「遠い空の向こうに」(1999)もそうだった。

このように、本作は娯楽映画のパターンを着実に踏まえながらも、社会派映画としての要素も併せ持ち、それぞれが互いを邪魔することなく、見事に融合しているのである。

これが奇蹟と言わずして何だろう。だから素晴らしい傑作と言えるのである。

監督の李相日の作品は「69 Sixty Nine」「スクラップヘブン」を観ているが、どれもイマイチであった。本作はそんな作品群からは想像も出来ないくらい、見事な風格と完成度を持っている。ある意味では、監督の技量をも超越している…と言えるかも知れない(と言えば失礼か(笑))。

 

「リストラ」という言葉はやや否定的に捕えられているが、正しい意味は「リストラクチャリング」=再構築 である。

この映画は、構造不況で先行きの見えない中で、懸命に新しい道を模索した、町(や、リストラに会っても夢と希望を追い求めた人々)の再生の話であるが、同時に、元SKDダンサーで、田舎に落ちぶれて来た平山まどか(松雪泰子)の再生の物語でもある。

そう、進む道を見失ったからといって絶望することはない。人は頑張る勇気さえあれば何度だって再チャレンジは出来るのである。

この映画は、そんなさまざまな夢と可能性と勇気を、観る人にも与えるであろう素晴らしい作品なのである。必見!

  (採点=★★★★★

ランキングに投票ください → ブログランキング     にほんブログ村 映画ブログへ

|

« 「レディ・イン・ザ・ウォーター」 | トップページ | 「フラガール」再び »

コメント

いつまでも名作であり続ける素晴らしい映画でしたね。

TBをひとつ間違った作品を送ってしまいました。m(_ _)m

投稿: AKIRA | 2006年10月 7日 (土) 16:32

こんにちは、jamsession123goです。
ブログにTBありがとうございました。
レビューに同感です。
とっても楽しめる映画でしたね。
こちらからもTBさせてもらいます。

投稿: jamsession123go | 2006年10月 9日 (月) 11:01

トラックバックありがとうございます。トラックバック返しとコメントが遅くなり、申し訳ありません。このところ、本業がたてこみ、映画はかろうじて観ているのですが、自分のレビューも書けない日々でした。まだまだ仕事が続いていて、映画を観る本数がすくなくなっていくかもしれません。 これはいい映画です。本来はミニシアター系だったののが、公開まで日があったので、かなりの試写を行い、ばっちりと芸能人が大宣伝してくれました。東宝が全国配給されては、ミニシアターもつらいところでしょう。たくさんの方が観られるのはいいのですが・・・。涙が溢れて、楽しむことができました。 読ませてもらいました。ありがとうございました。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2006年10月14日 (土) 01:37

こんにちは(^_^)
フラガール面白かったですね!
うちの近所の映画館は少し遅い公開で、昨日見てきました☆

蒼井優の福島弁もうまかったし、しずちゃんのキャラもうまく生かされていた感じかありました。
これって実話をもとにした映画なんですよね。
平山まどかという人の努力にも、感心させられました。

投稿: 晃弘 | 2006年11月25日 (土) 11:01

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「フラガール」:

» 映画 「フラガール」 [ようこそMr.G]
映画 「フラガール」 を観ました。 [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 13:24

» フラガール・・・・・評価額1700円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
今から40年ほど前、東北の田舎町に、突如として「ハワイ」が出現した。 斜陽産業となっていた炭鉱の失業対策として、掘削のさいに湧き出る温泉とその熱を利用し、巨大なドームの中に常夏のハワイを再現した温泉リゾートを作った... [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 14:03

» 『フラガール』鑑賞! [☆★☆風景写真blog☆★☆healing Photo!]
『フラガール』鑑賞レビュー! 感動の映画化だっぺ!観てくんちぇ! フラ、踊っぺ! 人生には降りられない舞台がある…。 常磐ハワイアンセンター★(現・スパリゾートハワイアンズ)の 誕生を支えた人々の奇跡の実話 まちのため、家族のため、友のため そして自分の人生のために 少女たちはフラダンスに挑む 感動の映画化! (T_T) タオル必需品〜! 炭鉱の危機に立ち上がれ! 愛と勇気のエンタテインメントショー 制作国::::2006/日... [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 14:18

» 涙そうそう [Akira's VOICE]
泣かす為だけの映画でも,溢れる優しさはあたたかい。 [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 16:28

» フラガール [Akira's VOICE]
感情豊かに舞い上がった笑いと涙が気持ち良い! [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 16:29

» フラガール [八ちゃんの日常空間]
一部、ベタだ、ベタだ、という意見もあるだろうが、ベタでなければ映画ではない。「プロジェクトX」のようなドキュメンタリーになってしまうだろう。 映画だからこそ、笑いあり、涙ありでいいのだ。 スーパーマン・リターンズを抜いて今年ナンバーワン!... [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 21:11

» 感想/フラガール(試写&劇場) [APRIL FOOLS]
個人的にはここ数年でベスト。9月23日公開、李相日(リ・サンイル)監督最新作『フラガール』に涙止まらず。オレがチケット代出してでもみんなに観てほしい傑作なので、長いけど読んでくれろ。   フラガール 昭和40年、石油の登場でいわきの炭鉱は閉鎖寸前。そんな炭鉱町が起死回生を狙って「常磐ハワイアンセンター」(現スパリゾートハワイアンズ)建設計画をぶち上げた!つー実話ベースムービー。今を失いそうな炭鉱夫、未来を切り開く炭鉱娘、不運な過去を背負う女ダンサー、3者のパッションはハワイより熱ぃよ!! ... [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 22:46

» フラガール [ネタバレ映画館]
でかい・・・しずちゃん。 [続きを読む]

受信: 2006年10月 7日 (土) 23:36

» 『フラガール』 [京の昼寝〜♪]
人生には降りられない舞台がある・・・。まちのため。家族のため、友のため、そして自分の人生のために、少女たちはフラダンスに挑む。 ■監督・脚本 李相日■キャスト 松雪泰子、蒼井優、豊川悦司、山崎静代(南海キャンディーズ)、富司純子、岸部一徳、高橋克美□オフィシャルサイト  『フラガール』 昭和40年、福島県いわき市の炭鉱町。 「求む、ハワイアンダンサー」の貼り紙を見せなが... [続きを読む]

受信: 2006年10月 8日 (日) 00:36

» フラガール(映画館) [ひるめし。]
未来をあきらめない 製作年:2006年 製作国:日本 監 督:李相日 出演者:松雪泰子/豊川悦司/蒼井優/山崎静代/岸部一徳 時 間:120分 [感想] フラガールたちのひたむきさに泣けた。 久しぶりに映画みて泣けた。 全然期待せずにいったらヤラれた!!って感じだったわよ。 こんな素晴らしい映画だったのね・・・。 ひとつ残念なのがチラシのデザインがイマイチ・・・。 なんかテキトーに作ったって感じ... [続きを読む]

受信: 2006年10月 8日 (日) 09:18

» フラガール [5125年映画の旅]
昭和40年、閉山の危機に見舞われた東北の炭鉱町は、起死回生のために炭鉱からの温泉を利用したレジャー施設、『常磐ハワイアンセンター』を建設する。その施設の目玉であるフラダンスショーに情熱を賭けた女性達を描いた、実話を元にした物語。 この映画は素晴しい。間...... [続きを読む]

受信: 2006年10月 8日 (日) 12:47

» 「フラガール」 [やまたくの音吐朗々Diary]
間もなく公開される「フラガール」の試写。すばらしい感動作。昭和40年、エネルギー革命により炭坑閉鎖の危機が迫る福島県いわき市。そこでは、北国をハワイに変えようというプロジェクトが持ち上がっていた。その目玉となるフラダンスショーに出演するダンサーを育てるために、東... [続きを読む]

受信: 2006年10月 8日 (日) 12:51

» 【劇場鑑賞101】フラガール(hula girl) [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
昭和40年 東京から来た カリスマダンサー 集められた 炭鉱の娘たち 北国を常夏の楽園に!! 40年の時を越え語られる奇蹟の実話。 人生には降りられない舞台がある――― まちのため、家族のため、友のため、 そして自分の人生のために、少女....... [続きを読む]

受信: 2006年10月 9日 (月) 00:29

» 映画のご紹介(181) フラガール [ヒューマン=ブラック・ボックス]
ヒューマン=ブラック・ボックス -映画のご紹介(181) フラガール-フラガールたちの「ひたむきさ」が観る者の心を打つ。 jamsession123goの場合は、レビュー本体は映画の解釈、映画で語られたストーリー・テーマの意義を中心に書き、...... [続きを読む]

受信: 2006年10月 9日 (月) 11:00

» ★「フラガール」 [ひらりん的映画ブログ]
ホントは「レディ・イン・ザ・ウォーター」を見るつもりだったけど・・・ 時間の都合で邦画の「フラガール」。 予告編は何度も見てるのであらすじは大体判ってるけど・・・。 炭鉱娘が感動させてくれるのか???ってちょっと心配。 [続きを読む]

受信: 2006年10月11日 (水) 03:08

» フラガール [★試写会中毒★]
満 足 度:★★★★★★★★★★(★×10=満点)  監  督 :李相日 キャスト :松雪泰子 、豊川悦司 、蒼井優 、山崎静代(南海キャンディーズ・しずちゃん) 、岸部一徳 、他 ■ストーリー■  昭和40年、福島県いわき市。 そこにある常盤炭鉱で採掘された石炭... [続きを読む]

受信: 2006年10月12日 (木) 09:11

» フラガール [いろいろと]
全国一斉ロードショーより2週間送れて 先週の土曜より公開されているフラガール を [続きを読む]

受信: 2006年10月13日 (金) 00:49

» フラガール [活動写真評論家人生]
動物園前シネフェスタ  『しこみ』または『しこむ』という言葉がある。映画業界の『しこみ』とは、撮影にかかるまでの時間をいう。クランクインまでがしこみ時間になる。私は観ながら「随分と時間をかけた大変な... [続きを読む]

受信: 2006年10月14日 (土) 01:36

» 「フラガール」 人を育てるということ [はらやんの映画徒然草]
先頃までフジテレビ系列で放送していた「ダンドリ。」はチアダンス。 チアダンスに一 [続きを読む]

受信: 2006年10月14日 (土) 16:00

» フラガール 06年205本目 [猫姫じゃ]
フラガール 2006年   李相日 監督松雪泰子 、豊川悦司 、蒼井優 、山崎静代 、岸部一徳 、富司純子 久しぶりに、姉君とデイト。 彼女はスネーク何とかって言う飛行機の映画をご所望でしたが却下。で、今、今年見た映画をざっと見返したのですが、、、 今年見た中...... [続きを読む]

受信: 2006年10月25日 (水) 12:16

» スパリゾートハワイアンズ [DREAM×POWER]
今日から4連休! やったー!で、今日明日と福島県の「スパリゾートハワイアンズ」で過ごす。むか~し昔、子供の頃、まだ「常磐ハワイアンセンター」という名前だった時に親戚一同と行ったことがあると思うが、そのときの記憶は、ほとんどない。今日はあいにくの雨だが、室内の施設なので問題ないだろう。しかし風が強い。駐車場に車を停めて、外に出た途端にカサが壊れた。仕方がないので、みんな合羽を着て移動する。着替えを済ませ、プール場に入ると、いきなりでっかいウォータースライダーが目に入る。「ワン...... [続きを読む]

受信: 2006年10月25日 (水) 18:31

» フラガール [映画、言いたい放題!]
「父親たちの星条旗 」の試写会を一緒に観に行った友人が この作品を観て常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)に 行きたくなったので一緒に行ってくれる人を探してる、とか。 私の周りではかなり評判がいいこの作品。 「絶対泣きますよ!」 「映画館で観て下... [続きを読む]

受信: 2006年11月 4日 (土) 08:35

» [ フラガール ]南の国からの贈り物 [アロハ坊主の日がな一日]
[ フラガール ]@渋谷で鑑賞 心振るわされたエンターテイメントムービー。 本州最大の常盤炭鉱が、時代の流れとともに閉山を迫られ る中、町の復興を目指して誕生した常磐ハワイアンセンタ ー(現:スパリゾートハワイアンズ)。本作は、この一大プ ロジェクトを支えた人々の奇跡の実話をベースにし作品。 どこかで観たことがあるような画であるが、間違いなく感 動する! ... [続きを読む]

受信: 2006年11月 6日 (月) 02:33

« 「レディ・イン・ザ・ウォーター」 | トップページ | 「フラガール」再び »