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2006年11月11日 (土)

「デスノート the Last name」

Deathnote2 (2006年・ワーナー/監督:金子 修介)

前編は評判が良かったが、どうしても都合がつかなくて見逃した作品である。

驚いたのは、10月27日に日本テレビが、6月に公開したばかりの前編をテレビ放映したことだ。ビデオも出ていないのに封切5ヶ月足らずでテレビに流すとは前代未聞である。

しかしこれは結果的に、11月3日に公開される後編の予告編ともなって、私のように前編を見逃している人にも面白い! これなら後編を是非劇場で観たい」と思わせる絶大な宣伝効果を発揮したと言える。
実際、本作は劇場でも大ヒットしているようだ。

考えたな…と思ったのは、放映中、画面の右肩にずっと「金曜ロードショー」のロゴを表示させていた事で、物語の内容は十分理解出来るが録画保存するには邪魔で、結果的に気に入った人はやっぱりDVD買うだろうから、この方法は今後も使えるかも知れない。
もっとも、前編が面白くなかったら逆効果になるというリスクも抱えてはいるが…。

さて、まず前編を観ての感想だが、予想を遥かに超えて面白かった。私は漫画も見ていなくてどんな内容か知らず、てっきりホラー系か「デビルマン」のようなパターンかと思っていた。

ところが、これはむしろ知的ミステリー…とも言えるジャンルの作品であった。簡単に言うなら、
エリートで頭のいい、完全犯罪を企む犯人対、見た目は冴えないが実は頭脳明晰な名探偵の知能対決パズルゲーム―― なのである。

こう言えば、すぐに頭に浮かぶのは「刑事コロンボ」である。「デスノート」は、いわば、“刑事コロンボ、死神バージョン”と言った方が分かり易いだろう。そういう意味では、この手の知的ミステリー大好きな人の方がもっと楽しめる作品なのである。

主人公夜神月(ライト)(藤原竜也)は某帝大の秀才学生で、これまで父の警視庁刑事局長夜神総一郎(鹿賀丈史)の捜査にも協力したことがある。その彼が、名前を書くだけで人を死に至らしめる死神のノートを手に入れた事から、救世主キラとしてこの世の許せぬ悪を滅ぼし、理想の世界を築こうとする。

まあそこまではよくあるパターンだが、この作品がユニークな点は、主人公と対決する探偵役に、L(竜崎)(松山ケンイチ)と呼ばれるちょっと変わったキャラクターを創造した事である。

なにしろ、顔色悪く、猫背で裸足、寝てる時以外はずっと甘い物ばかり食べてる(何で太らないんだろ(笑))人を食ったヘンな男。警察も最初は半信半疑。

しかしすごく頭がいい。ちょっとした手掛かりから、鋭く犯人を割り出して行く。またその正体がずっと謎のまま(収入は、生活拠点は、インターポールとの接点は?)であるのも、コロンボとよく似ている(コロンボも私生活―特にカミさん―など謎だらけ)。

犯人役である夜神月の天才的な知能の冴えも素晴らしい。特に、監視カメラで見張られている中で殺人を実行する、そのアイデアには唸った。

そして前編のクライマックス、監視されている中で、邪魔な人間を抹殺すると同時に、完璧に自分が犯人キラでない…と証明させてしまう、その冷酷な計算には驚嘆させられ、かつゾッとさせられる。まさに“天才は狂気と紙一重”である。

この物語は、さまざまな教訓を孕んでいる。人を守るべき法律が、逆に凶悪犯を守る存在(心神喪失なら無罪等)になっている矛盾。犯罪者の人権は守られるのに、被害者は事件後も心身共に傷つけられる実態。カリスマ的なヒーローを求める大衆心理のコワさ。そしてオウム真理教事件に見られるように、エリートの秀才ほど頭でっかちになって、理想を追うあまりに現実が見えなくなってしまう恐ろしさ……等々。

それらを背景にしつつ、全体は天才的知能犯を追い詰める名探偵の活躍を描くミステリー・エンタティンメントにまとめられている。この物語の面白さはそこにある。

いやはや、こんな知的探偵ものとは想像もしていなかった。前編を劇場で観なかった事が悔やまれる。

そこで後編だが、前編では夜神月にやられっぱなしだったエルが、さまざまな仕掛けて反撃に出る。ひょっとこの面をかぶったり、前編と違ってとぼけた笑いを誘う辺りもますますもってコロンボである。

第2のデスノートが登場したり、アリバイを立証させる為、第3のキラを登場させたり、物語は複雑に絡み合って来るので頭が冴えていないと混乱して来るだろう。

そしてラスト、夜神月を追い詰め動かぬ証拠を突きつけるエルの仰天奇策…これ以上は映画を観てのお楽しみだが、この作戦もいかにもコロンボ的である。ミステリーの醍醐味が味わえる。

とにかく、コロンボや古畑任三郎、そしてアガサ・クリスティや横溝正史などの探偵ミステリーが好きな人にはお奨めの作品である。

エルという名探偵のキャラクターも出色である。松山ケンイチの好演も光る。この作品だけで終わらせるのはもったいない。コロンボも古畑任三郎も終わってしまっただけに、今後はエルを主人公にしたスピンオフ・ドラマを是非見てみたい所である(ラストは死ぬ事になっているようだが、実はまた気まぐれな死神が寿命を延ばしてくれたりして…(笑))。

 (採点=★★★★

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コメント

おじゃまします!アッキーと申します
エル/竜崎!いいですよね、松ケン!
正直、エルの印象が強くて 素顔を見ると あれ?って感じですが
ジョニーデップみたいに 役所によって顔が変わるような俳優かな
って、アタシは思っています!
大好きなんですよね〜アタシ!ああいう分析とか物言い!
感情がない感じもいいし!ライトよりエルの方が好き!!
ぜひぜひ、前後で終わって欲しくないですね
エルの過去の活躍を描いた作品とか
漫画原作とは離れますが ぜひ、お願いしたいです!

投稿: アッキー | 2006年11月11日 (土) 21:21

いつもトラックバックしていただき、ありがとうございます。感謝します。そしていつもながら、楽しく勉強になる文章には、ただ脱帽するばかりです。私にはKeiさんが書かれているようなテーマはまったく頭に浮かびませんでした。ただただ、娯楽映画だと観ていたわけで、これを読むと、なるほどと思わせます。読んでいて、もう一度観たくなりました。初日3日で元が取れる邦画は最近なかなか無いですね。これを機に邦画をもっと盛り上げられたらと思います。今回も楽しくこぎみの良い評論をよませていただき、ありがとうございました。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2006年11月16日 (木) 03:39

>アッキーさん
ははは、安倍総理夫人と同じお名前ですね。
ついでに、マツケンと言えば昔松平健、今や松山ケンイチですか。今年一番ブレイクしたのはこの人でしょうね。
そうか、スピン・オフは今より以前の話もありですね。
「L・ビギニング」とか…。
これは是非やって欲しいですね。


>冨田さん
いつも丁寧なコメントありがとうございます。お褒めにあずかり光栄です。
日テレの宣伝のうまさもあるのでしょうが、ヘタすると(もとい、うまく行くと)「踊る大捜査線」に匹敵する大ヒットになるかも知れませんね。
日本映画が大ヒットするのは喜ばしい事で、「ダサい、暗い、面白くない」とバカにされ、若い人たちからソッポを向かれれていた忍従の時代を知っている者にとっては、隔世の感ありですね。
また感想をお寄せください。ありがとうございました。

投稿: Kei(管理人) | 2006年11月17日 (金) 01:28

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