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2007年1月 8日 (月)

「ホステル」

Hostel (2006年・ソニー・ピクチャーズ/監督:イーライ・ロス)

最初に断っておくが、この映画はかなりエグい。気の弱い人は吐気を催すかも知れない。実際、東京の上映館では公開初日に看護師が待機していたそうだし、「最初の拷問シーンが終わるまでの46分間に退場した場合、料金を全額返金」するキャンペーンも実施したという(名付けて“嘔吐(オート)バック・キャンペーン”。これには大笑いした。こういうジョークは好きですねぇ)

私もグロい映画は好きではない。観る気になったのは、“製作総指揮”がクエンティン・タランティーノ-というクレジットに惹かれてである。おまけに、わが三池崇史監督が俳優として出演しているという話も聞いたからである。こういう、クセのある作家が協力しているなら、並みのホラーではないだろう。

お話は、ヨーロッパをナンパ旅行するアメリカ人大学生のパクストンとジョシュ、途中から仲間になったアイルランド人のオリーの3人の若者が旅先で、スロバキアのホステル行けば最高の女と楽しめると聞き、スロバキアに向かう。しばらく女遊びを楽しむが、やがでオリー、ジョッシュとも行方不明となり、彼らを探すパクストンもやがて身の毛もよだつ恐怖の拷問殺人の現場に遭遇することとなる…。

これは、タイで実際に存在するという、金さえ出せば殺人を体験出来るビジネスがあるという話を聞いた監督のロスが、舞台をスロバキアに変えてストーリー化したもの。

とにかく気分よろしくない。犠牲者の体をいろんな道具で切り刻む。解体された死体をボイラーに投げ込む。特殊メイクはあまり上等でもないし、この手の映画が嫌いな人は観ない方がいいだろう。

それでも、ここで取り上げたのは、こうした残虐行為が、人間の歴史の上で行われて来たことであり、そして今も、世界のどこかで継続されている現実に目をそむけてはならないと思うからである。

遥か昔の暴君ネロが行った大量殺戮、ナチスのユダヤ人虐殺、七三一部隊の人体実験、ベトナム・ソンミ村虐殺、そしてヤクザのリンチなど… 人間はどこかに残虐な潜在意識を持っており、極限下でそれが顕在化するのではないか。奇しくも正月早々、妹を殺人、死体をバラバラにした事件が起きているし…。
(本筋とは関係ないが、スロバキアで彼らが“拷問博物館”に紛れ込むシーンがあるのもその事を暗喩しているのかも知れない)

この映画には、表面的にはごく普通のおとなしそうな中年男や若者が、まるでゲームのように人間をいたぶり、残虐に殺す。それをビジネスにする組織がある。単なる異常な個人の犯罪ではなく、日常性の中にそれらが潜んでいる事が怖いのである。

 
いろんな過去の映画を連想することも出来る。トビー・フーパーの出世作「悪魔のいけにえ」(後に「テキサス・チェーンソー」としてリメイクされた)、ピーター・ジャクソンの笑えるスプラッター「ブレインデッド」と、テイストは似ている。三池と言えば、ホラーの秀作「オーディション」とも似た所がある。人体切り刻みでは「殺し屋1」も連想する。

・・・後で調べたら、トビー・フーパーもピーター・ジャクソンもこの映画に賛辞を寄せており、またロス監督は三池の「オーディション」を大変気にいってて、後半に登場する怪しげな日本人役で出演を依頼したのだと言う(三池さんは、サングラスをかけてパクストンに二言三言話しかける役で、かなり目立ちます)。

タランティーノも、「キル・ビル」ではかなりスッパスッパと人間斬ってるし、それぞれに相通じるものを感じているのかも知れない。

そんなわけで、これはそうした作品である事を承知のうえで、それでも興味があれば観ていただきたい。特に、タランティーノ、三池崇史が好きな方、それと「ブレインデッド」でピーター・ジャクソンにいち早く注目した方(自慢じゃないが私もその1人(笑))にはお奨めである。ひょっとしたらトビー・フーパーやピーター・ジャクソンのように、イーライ・ロスが化ける可能性もなくはないからである。      (採点=★★★☆

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コメント

 トラックバック、コメント、ありがとうございます。私はこういうグログロ映画が大好きです。こんなことできないし、恐いもの見たさが先行するのです。遊園地のお化け屋敷に入る感覚に似ています。本作がR-18で「SAW3」がR-15とは・・・。逆のような気がしてしまいます。本作は切り刻むカットも稚拙でバレバレだし・・・。
 「地獄」は私も観ました。とてもお気に入りで、友人にダビングしてもらい、長い間、ライブラリーとなっていました。皮を剥いで骨になる、舌を抜くなんてありましたね。人形だとわかるのですが、日本独特の空気が恐さを倍増させました。あの頃はたくさんグロい映画を日本も作っていますよね。なかなか観る機会がないのですが、昨年の九条シネ・ヌーヴォの特集ではたくさん観ました。日本のあの頃のグロ映画、大好きです。
 本作、大阪では天六しかやっていませんね。タイトルだけでは内容がわかりにくいので、タランティーノを前面に押し出していますが、グロい邦題をつければよかったのにと思いました。読ませていただき、ありがとうございました。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2007年1月23日 (火) 02:21

冨田さんも「地獄」お好きですか。私は同じ中川監督の「東海道四谷怪談」が好きで、その繋がりで中川監督の諸作品も多く見てます。低予算にもかかわらず、熱意溢れる作りに感心します。
最近の日本映画はなんか上品になり過ぎて、バカバカしいほどのナンセンス・グロ・おフザケ映画が少ない気がしますね。石井輝男、鈴木則文監督作品が懐かしくなります。

ところで、今仕事の都合で正月から地方都市に単身赴任してまして、ネットは覗けるのですが更新ができない状況です。当分は帰れそうにありませんので、ブログのアップが遅れてますが、ご了承ください。どこかでネットカフェ探して更新しようと思ってます。ご報告まで。

投稿: Kei(管理人) | 2007年1月27日 (土) 11:28

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