「ユメ十夜」
夏目漱石原作「夢十夜」を、10人のベテラン・新進監督が1話づつ演出を担当したオムニバス作品。監督の顔ぶれが、実相寺昭雄に始まり、大ベテラン市川崑、「ゆれる」でブレイクした西川美和、若手の山下敦弘、「THE JUON]でハリウッド進出も果たした清水崇…等々実に多彩でにぎやか。
1話がそれぞれ10分という短編…と言うよりショート・ショートなので、却って演出力が試される事になる。
トップの実相寺監督篇はさすがテレビの「ウルトラマンマックス」の1編「胡蝶の夢」(ファン必見!これも夢繋がり)でも夢と現実が入り乱れたシュールな世界を演出していただけに手馴れたもので、実相寺監督ファンにはコタえられない1編。なお脚本は久世光彦。なんとどちらも既に鬼籍に入られてる。私的にはこの第1話が一番見応えありました。
第2話は市川崑監督。冒頭のデカい明朝体タイトルで既に市川ワールドに引き込まれます。なんとモノクロ、サイレントで字幕入り。トボけた味わいで市川タッチが堪能出来ます。中村梅之助怪演。
第3話はさすがホラーの清水崇。背中の醜い顔の赤ん坊が不気味。怖さでは一番。ただ10分ではやはり短い。この話を長編か、30分くらいの中篇で観たい。
…4話、5話は特にどうってことなし。監督名のみ挙げておく。第4話・清水厚(冒頭とエンディングの演出も担当)。第5話・豊島圭介。
第6話は松尾スズキ監督作品。独特な感性を持つだけあって、テンポはいいし楽しみながら作ったという感じ。阿部サダヲの個性によりかかった感もあるが…。
第7話は幻想的なイラストで有名な天野喜孝が、VFXディレクターの河原真明と組んだ3Dアニメ。絵としては面白いが、ストーリーはなきに等しい。ビジュアルを楽しむだけと割り切った方がいいだろう。
第8話の山下敦弘作品は、巨大なヒルかミミズのような生き物をペットとして可愛がる子供の話に藤岡弘、演じる漱石が取りとめもなく絡む。やはり山下監督らしいトボけた、脱力コメディになっている辺りはさすが。
第9話の西川美和監督は、さすがというか、10話の中では一番落ち着いてしっとり見せる。ただ、全般的にキッチュで遊んでいる話が多い中では、ややおとなし過ぎる感もある。
最後の第10話は脚本が漫☆画太郎、監督が「地獄甲子園」等で漫☆画太郎原作を映画化している山口雄大のコンビで、漱石と言うより完全に漫☆画太郎の世界。ハチャメチャ・コメディでくだらないけど、実はこれが一番笑えて楽しめる。意外な事に漱石の不思議ワールドと漫☆画太郎ワールドとは相性が良かった…という事なのでしょうか。松山ケンイチが珍しく(と言うより初めて)コミカルな役を演じているが、もっとすごいのは本上まなみが実にヘンな顔になる。これは見てのお楽しみ。
総評すると、最初の2本が私の好みに一番合って好き。中盤はややダレる。で、漫☆画太郎+山口雄大作品を最後に持って来たのが大正解。“結局、映画ってエンタティンメントでしょ”という事実を再認識させてくれる。ベテランによる最初の2本で、まずきっちりと映画の世界に溶け込ませたからこそ、各話もじっくり観てみようという気になるし、最後ストーンと落とされても損した気分にはならない。もしこの10話目を最初の方に持ってきたら、あきれて途中退場者が続出したかも知れない(笑)。そういう意味では、オムニバス作品では、並べ方も大事だという事を再認識した次第である。 (採点=★★★☆)
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