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2007年2月 4日 (日)

「どろろ」

Dororo (2007年・東宝/監督:塩田 明彦)

手塚治虫原作のコミックの映画化作品であるが、正直この企画が発表された時はかなり不安を抱いた。まずタイトルロールである“どろろ”を演じるのが柴咲コウだということ。原作では年少の、まだ子供(しかも見た目は男の子)がなんで柴咲なんだと最初は腹が立った。確かに原作でもどろろが実は女の子だった事は最後に明らかになるのだが、その事実が最後まで判らない場合と、最初から女と判っている場合とでは、観客が受けるインパクトがまるで違う。ミステリーのネタを最初からバラしているようなものである。

例えばロボット・ファンタジー「HINOKIO ヒノキオ」の多部未華子のように、まったく無名で、観客も最初は女の子だとまったく気が付かない新人を使うくらいの配慮が必要だと思う(それでも原作を読んでおればあまり意味はないが)。人気の若手女優を起用した時点で、単なるアイドル映画になってしまう危険性がある。

もう一つの問題は、“手塚治虫の原作を実写映画化したものに成功作はない”という歴史的実績があるからである。何故なら、

①まず登場人物の多くが漫画的にデフォルメされていて、生身の人間が演じると違和感ありまくりだという事。後頭部にローソクを乗せてるアセチレン・ランプとか、鼻が極端にデカい、お茶の水博士とか、「火の鳥」の猿田彦(及びその末裔)なんかは実写にはまったく不向きである(鼻がデカいのは実は作品上重要なポイントでもある)。市川崑監督が映画化した「火の鳥」では若山富三郎に特殊メイクで本当にマンガのような鼻を付けさせていたが、あまりにマンガチックな面相にゲンナリして映画を楽しむどころではなかった。
手塚作品に留まらず、漫画キャラは本来実写には不向きなのである。ロバート・アルトマン監督による「ポパイ」ではロビン・ウィリアムズが特殊メイクでポパイに扮したが、完全に失敗作となった。原作に随所に登場するヒョウタンツギやオムカエデゴンスといった、実写では登場不可能なギャグ・キャラクターの存在でも明らかなように、手塚作品は本質的に漫画・アニメ以外では表現不可能だと私は思う。

②として、漫画なら許される異形のクリーチャーなどが、実写では生生し過ぎるか、反対に作り物にしか見えない…という問題があるからである。本作でも、身体の48ヶ所を奪われた赤ん坊が登場するが、いくら特殊メイクが発達したところで、そうした造形は作り物にしか見えず、逆にリアルにし過ぎるとグロテスクになってこれも正視に耐えない。漫画だからこそ、ギリギリで許されるイマジネーションなのだと思う。

これまで手塚作品の実写化は、前述の「火の鳥」以外には、テレビで「ブラックジャック」「バンパイヤ」、映画で大林宣彦監督「瞳の中の訪問者」(「ブラックジャック」が原作)などがあるが、いずれもお世辞にも成功作とは言い難い。遥か昔にテレビで放映された実写版「鉄腕アトム」に至っては、見るに耐えないトホホな(笑)シロモノだった。
―唯一、マシだったのは中田秀夫監督「ガラスの脳」くらいであるが、これは元々「セカチュー」並みの難病ラブストーリーだからで、むしろ実写向きなのだが、何百回も観たようなありふれた物語で平凡な出来であった。

 

で、そうした不安だらけの中で観た本作。―― 結論から言って、不安は半分的中していたが、逆に予想を上回って健闘していた部分もあり、まあこの程度なら悪くはないかと思う。秀作とは言えないが、B級プログラム・ピクチャーとしてなら気軽に観れるエンタティンメント作品として仕上がっている。

成功の1要因は、ニュージーランドで全面ロケを行った事で、日本ではなく、どこの国でもない、同じニュージーランドでロケした「ロード・オブ・ザ・リング」の中つ国のような、架空の国が舞台になっており、おかげで奇想天外な物語にもすんなり入って行けるわけである。…なにしろビキニスタイルの踊り子は出て来るし、その建物も中近東か「スター・ウォーズ」のタトゥイーンに建ってるような石作りだったりする。百鬼丸に医師(原田芳雄)が人工の体を生成して行くシーンでは、ガラスのビーカー電気!仕掛けの機械装置があったりと、ほとんど映画「フランケンシュタイン」のまんまである。
そういう異世界的描写を積み重ねる事によって、この映画は時代劇というより、壮大なパラレルワールド・ファンタジーである事を強調しているのである。

ただ残念なのは、父・醍醐景光の支配する城下の町並や大衆の服装が、普通の時代劇そのまんまだった事。お城のデザインまで、煙突から煙モクモクのSFタッチにするくらいだったら、あそこも中近東風にするくらい徹底して欲しかった。

百鬼丸が闘う妖怪の造型も、CGを多用して面白いものも多かったが、着ぐるみ妖怪がほとんどウルトラマンか仮面ライダーの怪獣ばりだったのはちょっと手抜き。こういう所をデザイナーに依頼して徹底して作り込むハリウッド(韓国でも最近は「グエムル-」など頑張っている)にはまだまだ及ばない…といったところか。

そういう難点もあるものの、全体的には手塚治虫がテーマとしたかった“どんな悲惨な境遇に生まれ育とうとも、生きる勇気を失ってはならない”という点が本作でもちゃんと描かれていた事は大いに評価したい。

そして、最初は己の運命を呪い、やや虚無的な翳りを帯びていた百鬼丸(妻夫木聡)が、天涯孤独の孤児でありながら逞しく生きるどろろ(柴咲コウ)と旅を続けるうちに、次第に人間的に成長し、最後は怨みのある父を許すまでになって行く。

憎悪の連鎖はどこかで断ち切らなければならない…という、9.11以降のテーマとも繋がる、このラスト(原作はそこまで描いていないが、「ガラスの地球を守れ」という作品に代表される手塚的テーマは通底する)、及び互いの心が通じ合い、共に生きて行く事の大切さを知ったどろろと百鬼丸の明るい未来を象徴するエンディングはなかなか感動的である。

柴咲コウは明るく元気などろろ役を思っていたよりは好演。こういうコミカルな役もこなせるとは思わなかった。新境地開拓である。…ただ年齢的にはねぇ…やはり原作に近い、せめて15歳以下の設定にした方が良かったと思う。柴咲のせいではないが…。

塩田明彦監督はインディーズ出身で、「どこまでもいこう」「害虫」「カナリア」など、“どのような境遇にあっても、不器用ながらも、懸命に生きる若者たち”の姿を好んで描いて来た。
そういう作品歴から見れば、本作もまぎれもなき塩田作品なのである。「黄泉がえり」など、エンタティンメント作品を手掛けつつも、自身が作りたい個性的なインディーズ作品もコンスタントに作り続けている塩田明彦監督のしたたかな戦略を、私は応援したい。

そんなわけで、難点を認めつつも採点はやや甘く…     (採点=★★★☆

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コメント

古い記事ですが、見つけたので私の実写アトムの感想を述べさせていただきたく。
実写アトムは、確かに、原作に忠実に実写にするのは、難しかったと思います。
ただし、我々が子供の頃は、漫画と違い実際に子供が演じる別のアトムと言う事で、夢中になってみていました。
怪ロボットと戦いましたし。
上半身にまで、服を着て、角の生えたヘルメットをかぶり、マフラーを巻き、タイツを穿いてるのには、最初驚きましたが、すぐに慣れました。
むしろ、かっこよいと思うようになりました。
更に、火星探検隊長の時は、短い丈の飾緒のついたダブルの軍服を着用していました。ズボンは穿かず、下半身はタイツ、ブーツというアバンギャルドな感じのコスチュームでしたが、これが本当にかっこよかったです。
何しろ、他の大人の隊員は、学生服のような軍服でした。
当時、雑誌の少年に載った隊員と向かい合って、敬礼するアトム少佐は、凛々しかったです。アトム少佐がズボンを穿いていたら、この凛々しさはでなかった気がします。
今で言うコスプレと理解し、楽しみました。
原産と違っても、味わいがあり、当時の子供には大人気でしたよ。



投稿: 実写のファン | 2019年8月23日 (金) 03:31

◆実写のファンさん ようこそ。
実は私も子供の頃、リアルタイムで実写版「鉄腕アトム」を見ておりました。
実写版アトムのコスチュームは、うろ覚えですが3期位に分かれておりまして、第1期はプラスチック?のボディを着用していて、何とか原作に似せようとしてましたが、重いせいか動きがぎこちなく、ボディもブカブカで笑うしかありませんでした。ファンの間でも一番評判が悪かったです。
それで2期目にはプラボディを止めて体型もスリムにし、黒っぽい服を着せてマフラーを巻かせるというスタイルにし、これで動きが軽快になったせいか1期よりはずっと好評でした。
実写のファンさんが書かれてます>上半身にまで服を着て、角の生えたヘルメットをかぶり、マフラーを巻き、タイツを穿いてる…
というコスチュームは2期目のものでしょう。火星探検隊長の時のものは3期のものですね。
で、私がトホホと書いたのは、その1期目のコスチュームの事です。
下のYoutubeに、各期の映像が写っています。
https://www.youtube.com/watch?v=e-wDDsSafVo
2期目以降は、私も結構楽しんで見ておりました。
そんな訳でちょっと言葉足らずでしたね。正確には「昔にテレビで放映された実写版「鉄腕アトム」の最初に放映された頃の体型は、見るに耐えないトホホな(笑)シロモノだった」と書くべきでしたね。

という事で、ご了解いただけましたでしょうか。これからも何なりとご意見、助言などいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。

投稿: Kei(管理人) | 2019年8月26日 (月) 22:08

Kaiさんへ
御丁寧なコメントを有難うございます。
古い記事だったので、返事を頂けるかどうか判りませんでした。恐縮です。
実写アトムのコスチュームの変遷は、言われる通りです。
私の理解では、初期のプラスチックのコスチュームと、後期の服を着て、マフラーを巻いたコスチュームに分かれていたと思います。
そこらへんの変更は、以下のブログにも紹介されています。

http://hayashiharuto.blog.jp/archives/74115856.html

当時の雑誌「少年」に載った記事なので、当時の事がよくわかります。
後期の服を着たコスチュームになってから、火星探検隊長の時に、軍服を着用した訳ですね。

この時に、軍服の下のつなぎも、胸が開くように変えられているので、これを3期と言えば、言えるかもしれませんね。

前期のコスチュームは、原作に忠実にしようとしたものの、イメージ的には、関取に近いと言われる方もおられるようです(笑)。

後期は、随分スマートになったと思います。
Kaiさんも、同様なご意見な訳ですね。
私だけ、おかしかった訳ではないのが確認できました(笑)。
アトム役の少年が当時としては、脚が異様に長く、ふっくらとしているが、ウエストは、しまってるという、なかなかいない体系だったので、可能になったとみています。

服を着たので、バランス的に、ブーツの丈は、短くなり、タイツが目立つようになったので、アトム役を演じた瀬川さんは、恥ずかしかったと後年、インタビューで答えておれたそうです。

後期のコスチュームになったので、火星探検の軍服も、あのような短い丈のダブルのジャケットにできたのでしょう。しかし、軍服を着用して下半身はタイツと言うのは、今見ても、斬新だと思います。

先の「少年」の記事に、軍服を着用し、隊員と敬礼するアトム少佐の写真が載っています。
私は、今でも、少年ヒーローの最高の写真と思っています(笑)。
タイツを穿いて、飾緒のついた軍服を着用し敬礼すると、最高に凛々しかったし、大人の隊員を率いると言う使命感が感じられると思います。
下半身は、タイツにブーツで、こんなコスチュームを着こなせる少年は、今でもなかなか居ない気がします(笑)。
Kaiさんの御感想は如何でしょうか?

本放送の後、3年後くらいに再放送が有ったので、そちらも、火星探検の巻を楽しみに見ました。初期のプラスチックの時の巻は、余りみませんでした。かっこよい感じではなかったので。

近年、実写アトムのDVDが、あらたに販売されている事から、実写アトムも再評価され、復権した気がしています。
昔は、ネットで検索しても、軍服を着用したアトム少佐の写真は出てきませんでした。
火星探検隊長が一番かっこよかったと私は思っているので、現在も、知られるようになった?のは、当時のスタッフの苦労が報われる気がします。
勿論、アトムを演じた瀬川 雅人さんの演技の再評価と言う点でも。

私には、漫画より、感情移入できました。

投稿: 実写のファン | 2019年8月27日 (火) 02:10

Keiさんへ
間違えてKaiさんと書いてしまいました。
失礼いたしました.
追加です。
you tubeを拝見しました。
後期のコスチュームになった当初の時はヘルメットの角が円錐上になっていました。
それを二期とすれば、角の形状が、その後変更されたのを三期と言えるかもしれませんね。
実写アトムを詳しく紹介したyou tubeだと思います。

しかし、火星探検の軍服姿は出てきませんね。
恐らく、後年、テレビで放送された画像を編集したためと思われます。

そう言う意味で、雑誌「少年」に載った敬礼するアトム少佐の写真は、貴重だと思います。
DVDには、このシーンが無いので、「少年」用に別途取られた写真と思います。
「少年」の記事では、「瀬川君は火星探検隊長になったので、軍服を着ました。かっこいいと大評判です。さあ、僕らも、瀬川君を応援しましょう。」と書かれていたのを、今でもよく覚えています。
瀬川少年がアトムのコスチュームを着てアトムを演じているので、応援しましょうと言う、当時のお約束でした。
アトムの緊張感漂う感じの中、膝のところでタイツがたるんでいるのが、ご愛敬でした。
マフラーも、アスコットタイ風に結んでいるのが、スマートでした。この写真は、なんとなくセクシーな感じがしたのですが、如何でしょうか。今、拝見してもそう言う気がします(笑)。

投稿: 実写のファン | 2019年8月27日 (火) 10:23

◆実写のファンさん
お返事ありがとうございます。
ご納得いただけたようで、何よりです。
追記ですが、私も下記のような、物凄く詳しい実写版アトムに関するサイトを見つけましたので紹介しておきます。 
https://makkurokurosk.blog.so-net.ne.jp/2014-10-15
結構根強いファンがおられるのですね。
メンコがあったとは知りませんでした。これをみると、ほとんどが2期目以降のコスチュームばかりですね。やはりプラスティックボディの1期目は人気がないという事でしょうか(笑)。
実写のファンさんのおかげで、いろいろ楽しませていただき、ありがとうございました。またご意見などなんなりとお寄せください。これからもよろしく。

投稿: Kei(管理人) | 2019年8月29日 (木) 23:47

Keiさんへ
コメント有難うございます。
凄く詳しいサイトを見つけられましたね。
放送時に、後期のコスチュームのアトムは、人気が出たのですが、このサイトからも、それが感じられますね。よくまあ、資料を集めたものだと思いました。
これには、軍服を着て敬礼するアトム少佐の写真や、大勢の子供の前でアトムを演じる写真、更には、手塚先生との写真も載っていますね。
昔を思い出し、感動モノです。
有難うございました。
コスチュームの変遷も整理されて載っていますね。
個人的には、火星探検隊長の写真は、今見ても、最高のショットだったと思います。私は、今見ても、斬新に思います。
使命感にあふれる写真で、漫画では感じられない凛々しさと思います(笑)。
アトム役の瀬川少年は、当時、軍服姿をどの程度、気に入ったのか、どのような思いで、アトム少佐を演じていたのか、聞いてみたいですね(笑)。
なお、DVDが新たに発売されたようですが、案外、この御紹介頂いたサイトが、制作会社の方の目に留まったのかも知れないと言う気がします。

投稿: 実写のファン | 2019年8月30日 (金) 01:05

御無沙汰しています。
DVDの中古があり、安くなっていったので、思い切って購入しました。「火星探検」「気体人間」の巻です。
解説書によると、松崎プロは、メキシコの巻とフランケンの巻のメンコ化を了解したそうです。
従って、メンコは、第二期のコスチュームとなり、火星探検隊長は無いのが理解できました。
何故、火星探検隊長がメンコ化されなかったのかは、判りません。
火星探検隊長の軍服は飾緒がアクセントになっていましたが、格闘シーンを演じたせいか、途中、飾緒の先の金具が取れたままになっていました。修理が撮影に間に合わなかったのでしょう。
胸を開けている時に、機械部品が胸からポロリと落ちてしまうシーンにも笑いました。フィルムが高価だったので、撮り直しができなかったのでしょう。
それはご愛嬌として、アトム少佐は、やはりかっこよく、昔を思い出しました。衣装係は、よく、あんなコスチュームを制作したものだと思います。
女性隊員のキャーペットは、お姉さんですが、アトムに好意をよせているような設定でした。

また、最終回に、偽物アトムが登場したのには、驚きました。アトムが壊れたので、友達が、偽物アトムを演じると言う設定でした。
偽物アトムを登場させる必要はかならずしもないあらすじでした。
アトムのコスチュームを着れたのは、瀬川 雅人さんだけと思っていましたが、ワンシーンだけですが、共演する子がアトムのコスチュームを着て登場していました。
私の推察では、共演した他の子役が、アトムのコスチュームを着たいと強く言ったので、監督が、最終回に、それに応じたのではないかとみています。
即ち、アトムのコスチュームは人気があった訳です。
偽物アトムの出現は、アトムがコスプレと言っているような物なので、笑ってしまいました。
偽物アトムを演じた子も、ふっくらとしていました。
しかし、脚の長さや、顔だちから、やはり、実写アトムは、瀬川 雅人さんしかいない気がしました。
撮影時、瀬川 雅人さんは、中一になっていたので、タイツは恥ずかしかったでしょうね。学校では学生服とすれば、アトムのコスチュームとは、全く違いますし。
彼は、大分、お兄さんになって来ていましたが、テレビ局の再編がなければ、後、2クールくらいは、アトムを演じられたと思います。
放送打ち切りは、残念だったでしょう。

投稿: 実写のファン | 2020年5月 7日 (木) 01:34

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