「天国は待ってくれる」
シネコンで夕方6時の回に入ったら、なんと観客は私一人。とうとう最後まで貸切状態だった。私が入らなかったら無人でフィルム回してたのか…。それとも客がいなかったら映写機止めてたかも(笑)。しかも土曜日ですよ。興行成績でも早くも圏外だが、それも納得できる。
中味の方も、招待券が当ったので観に行ったが、そうでなかったらカネ返せと言いたくなるほど退屈で酷いダメ映画だった。
まずストーリー展開が平板で緩急のメリハリが全然ない。冒頭で3人の主人公のうち1人が病院で昏睡状態で寝ているシーンから始まり、それから延々1時間経ってもまだそのまま。退屈極まりない。回想シーンを挟んでいるのだが、そういう展開にした必然性がまるで感じられない。
これが第1回作品となる土岐善将監督の演出は、ただ脚本がそうなってるからその通り撮りました…という感じで、どうやって観客を映画の世界に引き込んで行くか…どう主人公たちに感情移入させるか…という工夫がまったくない。
何度も繰り返し出て来る築地市場の光景も、同じ構図ばかりで飽きて来る。主人公の宏樹(井ノ原快彦)は、いつもボヤーっとしてて何考えてるのか分からない。物語の転機においても、いつも優柔不断で何も決断出来ない。井ノ原某というのは歌手らしいが、演技もヘタだけでなく、役作りも出来ていない。感情移入せよという方が無理である。
もう一人の武志(清木場俊介)の方も、自分の命があと1ヶ月と知った時の心の動揺、苦悩がまるでない。その事実を知る方法もあまりにイージーである。黒澤明の「生きる」とまでとは言わないが、普通はもっと悩み、苦しみ、葛藤があってしかるべきである。
周りの人間も、いかにも絵に描いたような善人ばかり。武志の父親、蟹江敬三を除いては、他の親たちもまるで突っ立ってるだけである。
そういういいかげんな展開だから、アラも一杯目立つ。ひどいと思ったのは、石黒賢扮する医者で、例えば武志がずっと意志かが戻らないだろうと父親に伝えるシーン、その理由を普通なら、レントゲン写真等を使って医学的に説明すべきなのに、そういう事は何もなし。そしてすぐ、「奇跡です」とか「彼は自分の意志で戻ってきたのかも」とか、およそ医者らしくない言葉を吐く。医学用語くらい使いなさいよ。
医学的と言えば、3年間も寝たきりなら、例えば栄養補給の為の設備とか、排泄、排便はどうするのかとか、そういうディテールにも全く配慮が欠けている。点滴設備すら置いてないのには呆れるばかりである。多分他の人も指摘するだろうが、3年の間、髪の毛やヒゲの状態が全然変わっていないのは観客をバカにしていないか。動ける人は病院内の散髪室に行くが、動けない人の髪は伸び放題になるはずである。物語はフィクションでも、そういう細部のリアリティはきちんと考慮すべきである。医学関係のアドバイザーはいないのだろうか。最も、素人の私でも気が付く程度の事だが…。
宏樹の勤務先が、実名の朝日新聞であるというのも分からない。ストーリー上、どこかで新聞社に勤めている事がカギになっているのかと思ったが、まったく意味がない。…とにかく、一切がそうした、とって付けたような断片の羅列でしかない。こんなヒドい脚本は久しぶりである。企画段階でボツにすべきか、監督が大幅な手直しすべきだが、新人の土岐監督にはそんな余裕もなかったという事か。
男2人と女1人の三角関係ドラマというのは、フランス映画「突然炎の如く」(F・トリュフォ監督)、「冒険者たち」(R・アンリコ監督)、日本でも「俺たちの荒野」(出目昌伸監督)、「さらば夏の光よ」(山根成之監督)等々、秀作が多い。それらは主人公たちの感情表現も人物描写の演出も実に丁寧で、我々を感動させてくれた。監督はそうしたいい見本を何度も観て研究しておくべきではなかったか。
映画全盛期には、撮影所内に何人ものうるさ型のプロデューサーがいて、助監督や新人監督にはとにかく脚本を書かせ、それをプロデューサーがチェックしておかしな所は何度も突き返され、書き直しさせられる。そうやって一人前になって行った監督も多い。そうして、いざ製作に入ると、プロデューサーは現場に付きっ切りで立会い、目を光らせていたものだ。
そうしたシステムが崩れてしまい、製作委員会方式になって統括責任者が不在となり、時々とんでもない駄作が登場するようになった。
日本映画の興行収入が洋画を抜いたと浮かれてはいられない。ちゃんとした力量あるプロデューサーを養成しておかないと、将来また日本映画はダメになる可能性大であると警告しておこう。
早くも、本年度の私のワーストワン候補登場である。…それにしてもヒロインの岡本綾と言えば、昨年の私のワーストワン「地下鉄に乗って」にも出ていたなぁ(どちらにもオムライスが出て来るのは偶然にしては出来すぎ(笑))。もっと作品を選びなさいよと言いたくなる。 (採点=×)
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