「ブラックブック」
鬼才、ポール・ヴァーホーヴェン監督が、20年ぶりに祖国オランダに戻って完成させた、第2次大戦下のオランダにおけるユダヤ人女性の数奇な運命を描いた問題作。
キャッチコピーに、「『シンドラーのリスト』、『戦場のピアニスト』、そして…」とある。
確かに、“戦火の中を、ナチスの迫害を逃れて必死に生き延びたユダヤ人”というテーマは前2作と共通する。このコピーだけ見れば、同じような感動作と想像してしまうかも知れない。
しかし、あのバイオレンスとセックス(と下品さ)が身上のヴァーホーヴェンが、そんな上品な感動作を作るはずもない。
で、案の定、上記2作のムードを期待して観に行った人はしっぺ返しを食らう、相変わらずいつものヴァーホーヴェン節が炸裂のバイオレンスとエロと下品さに満ちた怪作に仕上がっている(なんせ主役の美女が○○○まみれになるのである(笑))。
ヘンな例えだが、山田洋次監督作品のつもりで映画館に入ったら、実は鈴木則文監督作品だった…くらいの落差がある(笑)ので、上品なオバサマはご覧にならない方が賢明かも知れない。
しかし熱心な映画ファンなら是非観ていただきたい。下品さは確かにあるが、これはひと言では説明出来ない、サスペンス、アクション、謎解きミステリー、危機また危機の波瀾万丈の冒険譚、適度なエロス等、さまざまな娯楽映画のエッセンスを網羅して観客を十分楽しませつつも、戦争という悪に対する痛烈な批判もちゃんと前面に押し出した優れた作品に仕上がっているのである。
特に中心となっているのは、ヒロイン、ラヘル(カリス・ファン・ハウテン)が参加した対ナチス・レジスタンス活動において、情報が筒抜けになって仲間が次々と死んで行き、一体誰が内通者なのか…とみんなが疑心暗鬼になるシークェンスである。これが実に混み入っていて複雑怪奇、犯人探しというミステリー要素を絡めつつも、人間が人間を信じられない諜報戦争のむなしさをも追求しているのである。
戦争が終われば、今度はナチス協力者狩りにも晒され、またまたおぞましい目に会うラヘル。この協力者狩りのパートもヴァーホーヴェンらしく苛烈で容赦がない(「ナチスよりも酷い」というセリフも出て来る)。
ようやくラストに至って真犯人も解明され、「これで静かになるのね」とラヘルはつぶやくのだが、そのまたラストに用意されているオチに、“人間という愚かな生き物がいる限り、戦争はこの世からなくならないのだ”というテーマが鮮明に浮かび上がる。ポール・ヴァーホーヴェン監督久々の快作である。
(ココからもお楽しみ)
ユダヤ人の死体から金品を掠め取る、ズル賢いナチス将校の名前が“フランケン”だが、私などはこれを聞くと、藤子不二雄のマンガ「怪物くん」の家来の一人を思い浮かべてしまう(笑)。あるいは、こういう、したたかで冷酷な人間もまた、戦争が生み出した“怪物”であるという事を暗示しているのかも知れない(…なワケない。冗談です(笑))。
まあそれだけならともかくも、ラヘルが戦後結婚し、その苗字がなんとまあ“シュタイン”というのには笑ってしまった。二人合わせれば“フランケンシュタイン”になるじゃないですか(笑)。これはヴァーホーヴェン監督、ウケを狙った…てことは、まさかないでしょうねぇ(笑)。
(採点=★★★★☆)
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コメント
こんにちは。
>山田洋次監督作品のつもりで映画館に入ったら、実は鈴木則文監督作品だった…くらいの落差がある(笑)
このたとえ、最高ですね。
石井輝男でもいいかも。
以後、使わせてください。m(_ _)m
投稿: えい | 2007年5月13日 (日) 09:27