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2007年6月16日 (土)

「監督・ばんざい!」

Kantokubanzai (2007年・松竹=オフィス北野)

監督:北野武
脚本:北野武
撮影:柳島克己
音楽:池辺晋一郎
プロデューサー:森昌行、吉田多喜男

北野武の監督作品は、衝撃的なデビュー作「その男、凶暴につき」以来、すべてリアルタイムで観ているし、大好きな作家である。

個人的には、1作目から「キッズ・リターン」までは、どれも大好きな作品ばかりであり、ベスト3を挙げるなら、「キッズ・リターン」「あの夏、いちばん静かな海。」「ソナチネ」という事になる。どれも、青春群像を瑞々しく、あるいは生きることの哀しさをシニカルに描いた傑作である。

この頃は、恐らく自分の内面から湧いて来る創作意欲を、感性のおもむくままにフィルムに写し撮っていたのだろう。だから一般大衆にはあまりウケず、興行的にはどれも散々だったが、私を含めた熱狂的な映画ファンからは熱い支持を得ていた

しかしそれにしても、テレビのお笑いタレントぶりからは想像も出来ない映画作品の、とりわけ2作目「3-4X10月」のほとんどラビリンス巡りとも言いたい不条理描写は衝撃的で妖しい魅力に満ちている。これほどの作家性を持った監督は稀有である。天才であると私は思った。…特にこの作品では、ガダルカナル・タカ、ダンカンといったたけし軍団の面々から、異様な迫力を持った個性派俳優の一面を引き出した慧眼と演技指導に感服した。

しかし、ベネチアでグランプリを受賞した「HANA-BI」辺りから、ややおかしくなる。「BROTHER」も、「Dolls」も、なんだか以前の奔放さが影をひそめ、妙に外国受けするような要素を継ぎはぎしたような、収まりの悪い作品になっていた。

これは一面には、海外で絶賛され、世界的な映画監督の1人として認められるようになって、“世界から注目される映画作家としてうかつな作品は作れない”というプレッシャーが生じて、そうした海外ファンの希望を無理に取り入れようとしてバランスを崩した結果かも知れない。またもう一面として、権威や常識を笑い飛ばして来た毒舌タレントとしてのステータスが、生半可な“良い作品”を拒否した面があるのかも知れない。

それと気になるのは、それまでは映画作品から、慎重に“お笑いタレント・ビートたけし”の要素を排除して、ほとんど“笑い”がなかった(前述のようにたけし軍団からも笑いを排除していた)が、「菊次郎の夏」では後半、たけし軍団のくだらないおフザケ遊びが展開され、作品をガタガタにしてしまった点である。

無論、それ以前にも「みんな~やってるか」というコント集のようなお笑い映画を作ってはいるが、監督名義がビートたけしであったように、これは厳密には“北野武監督作品”ではない。つまりは、“お笑いタレント・ビートたけし”と、“世界が注目する映画作家・北野武”とは全く別の人格であるかのように使い分けていたのである。

「菊次郎の夏」では、遂にそのバランスが崩れ、北野武映画にビートたけし的部分が闖入し、そして前作「TAKESHIS’」ではとうとう、映画の中で主人公は売れっ子タレント・ビートたけしと、売れない無名時代の北野武に分裂し、にもかかわらず物語は過去の“映画監督・北野武”作品のセルフパロディで埋め尽くされるなど、どっちのたけしを描きたかったのか本人にも分からなくなったかのような混迷ぶりを露呈するに至った(「TAKESHIS’」評はこちらを参照)。

明らかに、天才的映画作家・北野武は、作家としての袋小路に入り込んでしまったのではないかと私は思う。

 

そこで本作だが、今度は“北野武監督が、作家として次に何を撮ればいいのか分からなくなった”状況をそのまま映画にしてしまったのである。

かつてはイタリアの名匠、フェデリコ・フェリーニ監督も同じような状況に陥り、そして同じような映画作家の自問自答をそのまま映画にした「8 1/2」を撮りあげた。これが逆に絶賛され、あらゆる映画賞を総なめにしてしまったことがある。

本作は、その意味では北野武監督の「8 1/2」になったのか…。

答は、もう少しでなりかけ、そしてまたしても“ビートたけし的部分”が邪魔をして、混迷の度をさらに強めてしまった怪作になっていた。

前半はいい。いろんな映画ジャンルに次々挑戦し、どれも途中で自分自身でツッ込みを入れて止めてしまうあたりが、最近のワンパターン化したジャンル・ムービーへの痛烈な皮肉にもなっており、かつ「どんなジャンルだって、水準以上の佳作にしてみせる自信はあるぞよ」と言ってるようで頼もしい。事実どの作品も、数分づつではあったが、どれもとても面白くて、“どれも長編として観たい”と思わせる素晴らしい出来であった。

例えば、小津安二郎作品を思わせる「定年」は、ローアングルのカメラ位置といいカット割といい、役者のゆったりとしたセリフ回しといい、まさに小津映画の特徴を完璧に捉えていて感嘆した。小津映画を数多く観て来た人ほどその模倣ぶりに呆れるか感心するだろう。

昭和30年代を舞台にした「コールタールの力道山」は、本人自身が昭和30年代初めに小学生だったこともあって、かなり力が入っている。父親がペンキ職人というのも北野武の父と同じで、まさに自伝的作品である。
「ALWAYS 三丁目の夕日」と似た企画であるが、二番煎じと思われたくないのだろう、あの作品よりはもう少し貧乏で汚らしい。これは是非長編で観たい所であるが、北野武監督はこれすらバッサリ捨ててしまう。もったいない…。

この他にも、ラブストーリーあり、ホラーあり、チャンバラ時代劇あり…と、どれもなかなか面白そうで、しかし必ず最後に欠点を挙げ、ボツにしてしまう。

安易な企画が顔を利かせている、今の日本映画界に対する、これは北野武流の皮肉であり、また注目されるプレッシャーの中で、ありきたりの作品では満足しない、孤高の映画作家・北野武の迷いと苦しみがそのまま本音として出たのが、本作なのであろう。

そういう意味では、映画そのものが“日本映画論”、“映画作家論”にもなっているのである。私はこの前半はとても楽しんだし、このペースで最後まで行ってくれたら、“武版「8 1/2」”として高く評価しただろう。

しかし後半、岸本加代子と鈴木杏の詐欺師親子の映画になった途端に、またしても“お笑いタレント・ビートたけし”が前面に出て来て、ベタベタでくだらないギャグが中途半端に飛び出し、映画のトーンを著しくかき乱すこととなる。

私が特に疑問に思うのは、本人が演じるブルーの制服を来た主人公は、前半はどう見ても“映画監督・北野武”であったはずなのに、後半のパートではいつの間にか“お笑いタレント・ビートたけし”に入れ替わって、ギャグを連発するのである。このギャグがまた、時代遅れだし寒いしで、てんでつまらない。

テレビのお笑い番組中でなら笑う人もいるだろうが、前半の“映画作家・北野武”部分のクオリティの高さとは大きな落差が生じ、せっかくの前半の良さをぶち壊しているのである。

しかし、ラストの大カタストロフィで、やっと映画のテーマがはっきりした。
これによって、一度これまでの“タレント・ビートたけし”、“ベネチア・グランプリ監督・北野武”のイメージを、すべて壊し、そこからリセットして、また新しい世界に踏み込もうとする、これは決意の現れ…ではないかと私は思う。

次回作で、まったく新しい映画作家・北野武が再生するのか、それを見守りたいと思う。

採点は、前半の6短編作品部分が★★★★☆、後半は★★…といったところか。トータルでは、    (採点=★★★★

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コメント

トラックバック、ありがとうございます。本当に、前半はいいですね。もっと短くてもいいし、その分、もっと長くしてくれてもいい。その段が終わると・・・この映画には台本がないのか?と思わせるほど、「スクリーンからなにをやればよいか困った空気」が伝わり、観ている私も困りました。『あまりにも馬鹿馬鹿しくどうでもいい、くだらないにもほどがある』大日本人と世間が比較してしまったので、ますます苦しいでしょう。いやしかし、ほんとう・・・忘れていました。「あの夏、いちばん静かな海」は、今でも新鮮な傑作です。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2007年6月21日 (木) 12:27

Hello! Good Site! Thanks you! shoknwwhncch

投稿: xtmxvxjyww | 2007年6月24日 (日) 14:53

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