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2007年7月 6日 (金)

「プレステージ」

Prestage (2007年/監督:クリストファー・ノーラン)

手品は大好きである。昔はよくマジック・ショーを見たものだし、自分でも奇術セットを買っていろいろな手品にチャレンジした事もある。不思議なマジックを見ると、そのトリックをどうしても解きたくなる。
しかし分かってしまうと、案外簡単なトリックだったりして興ざめになる事もある。…やはり手品は、秘密のベールに包まれている方が良いのかも知れない(そういう点では、映画の特殊効果の秘密とも似ている所があると言える)。

奇術師の対決を描いた本作は、そんなわけでスリリングに楽しめた。「メメント」のクリストファー・ノーラン監督らしく、時制をシャッフルさせ、過去・現在がめまぐるしく入り組むのでやや判りにくい所もあるが、それらも含めて、映画全体が壮大な“トリック”になっており、手品同様に、観客はノーラン監督が仕掛けた“トリック”にまんまとダマされることとなる。言わば、この映画の最大のマジシャンは、ノーラン監督自身だという事なのである。

(以下、ややネタバレになるので隠します。映画を観た方だけドラッグ反転してください)
この映画に登場する、一番大仕掛けのマジックは“瞬間移動”だが、タネも仕掛けもある手品でこれをやろうとすれば、あの方法しかないはずで、そう考えればラストのオチもほぼ想像がつく。従って、わざわざ冒頭で「結末は誰にも言わないでください」とクレジットするほどのアッと驚くオチでもない。
ただ、わざわざ「そこまでやる」必要があるか?と疑問に思ってしまうだけである(そういう意味で、このオチは東野圭吾「容疑者Xの献身」のトリックと性質は共通していると言えるだろう。

↑ネタバレここまで

まあ、あくまでこれは、“謎解きミステリーに仕掛けられたトリックを読者(観客)が推理する”ことを楽しむ作品だと割り切れば、それなりに楽しめる作品である。欲を言えば、ラストにもう1回、ツイストの効いた再ドンデン返しがあればもっと面白くなっただろう。ともあれ、ミステリー小説がお好きな方にはお奨めである。

もう1つ気付いた事がある。
それは、作品全体がシンメトリー(左右対称)構造を持っている…という点である。

あの、瞬間移動の舞台装置そのものが、見事に左右対称の構図である。

それ以外にも、主人公の二人、アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)が、激しいライバル意識を燃やし、互いに相手のトリックを探り、同じような大仕掛けのマジックを考案して行くプロセスを見ていると、まるでこの二人は鏡に映った分身のようにすら見えるのである。二人ともそれぞれに相手の秘密を記載したノートを読み耽るシーンが、アングルまでそっくりにあったように思う。

これを意識した上で見直すと、まだいくつかシンメトリー構造を見つけられるかも知れない。まだまだ気が付かない仕掛けがあるかも知れない。

こういう風に観て行くと、1本の映画でも、幾通りも違った楽しみ方を発見できるのである。

 
(閑話休題)

マイケル・ケインが重要な役で出演しているが、マイケル・ケインとミステリー…と言えば、「探偵/スルース」(ジョゼフ・L・マンキウィッツ監督)という傑作推理映画を思い出す。このトリックには本当に騙された。

見事に洗練された、一分の隙もない脚本(アンソニー・シェーファー)と、ベテラン、マンキウィッツ監督の風格ある演出も素晴らしい。悪いけれど、本作よりはずっと格が上である。ミステリー・ファンなら必見であると、ここでお奨めしておきたい。     (採点=★★★★

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2007年7月 5日 (木)

「舞妓haaaan!!!」

Maikohaaaan (2007・日本テレビ=東宝/監督:水田 伸生)

才人・宮藤官九郎シナリオによるコメディ。

私は、笑える映画が大好きである。なにしろ、私の敬愛する3大外国人映画作家(=ヒッチコック・チャップリン・ワイルダー)のうち2人までがコメディを得意とする監督なのだから。我が国では無論、山田洋次、それに故・前田陽一、古くは斎藤寅次郎、川島雄三、それに植木等主演作を多く手掛けた古沢憲吾…などが私のお気に入り映画監督である。

単に笑えるだけではない。笑いながらもその中にシャレたセリフ、人生の重み、暖かな人間讃歌、諧謔精神、ブラック・ユーモア、鋭い社会批判…等々が巧みに盛り込まれ、笑いながらも、いろいろ考えさせられたり、心がジンと温かくなったり、時には身につまされて泣けてきたり…で、観終わってもいつまでも心に残り続け、何度でも観返したくなる…そんなコメディが大好きなのである。

近頃はそんなコメディがほとんど観られない。上記に挙げた監督のうち現役なのは山田洋次だけ。寂しい限りである。脚本家では三谷幸喜が大好きなのだが、本人の監督作品はいま一つで、彼の脚本を生かせる才能ある喜劇映画監督がいない事がまことに残念である。

そんなわけで、久しぶりに登場した本格コメディである本作には大いに期待した。

舞妓おタクの男が、一見さんお断りの厳格な規則のあるお茶屋で、如何に舞妓と楽しく遊べる段階にまで至るか…というお話は面白い。

特に楽しいのが、突然舞台風になり、主人公鬼塚が舞妓ガールズと歌い踊る、「プロデューサーズ」ばりのミュージカル・シーンである。

この映画にゲスト出演している、これが遺作となった植木等無責任男シリーズでも、やはりスポットライトが当る書き割り舞台風セットを背景に、植木等が歌い踊るシーンがよく登場していた。

いいかげんな男が、あれよあれよと成功して行く展開も植木等映画を彷彿とさせる。

そう考えると、宮藤官九郎(脚本)と水田伸生(監督)コンビはこの作品で、かつての一世を風靡した“植木等・無責任シリーズ”にオマージュを捧げているのかも知れない。植木等映画の大ファンだった私は、もうそれだけで満足である。

が、残念ながら、ミュージカル・シーンはここ1カ所だけ。せっかくなら、全編ミュージカル・シーンをふんだんに盛り込んで欲しかった。

鬼塚が、「あんさんのラーメン」を開発し、成功を収めるくだりも、まともな食品会社でも売り出ししそうな、ごく正統なアイデアであるのが物足りない。もっとバカバカしくてくだらないものが意外にヒットする方がコメディらしくなる。

前半はなかなかハイテンポで快調であり、面白く観れたが、後半に至ると物語はやや失速する。

ネットで鬼塚のHPを荒らしていたプロ野球選手・内藤(堤真一)がお茶屋でもライバルとして鬼塚とことごとく張り合うのだが、年収何億ものリッチな内藤が何で鬼塚に構うのかがよく分からない。

この内藤がやがて映画スター、格闘技、ラーメン屋、そして京都市長へと次々転職し、すべて成功するのだが、まるで“無責任”シリーズの植木等ばりであり、さらには内藤の子供との人情話にまで話が展開して行くのには首を捻った。いつの間にやら物語の中心が内藤にシフトしてしまい、本来の主人公たる鬼塚の影が薄くなってしまっているのである。

鬼塚の恋人である富士子(柴咲コウ)が、鬼塚に捨てられても京都にまで彼を追いかけて来て、とうとう舞妓にまでなってしまう展開も疑問である。もっとマシな男はいくらでもいるだろうに、美人の富士子が何故そこまで大して取り得もない鬼塚を思い続けるのか、納得出来る理由を示すべきではないか。

植木等の無責任シリーズでは、植木は調子いいけれど憎めないし、我々観客もその世渡りのうまさにあこがれてしまう要素もあったし、そもそも同シリーズの女性たちは最初は植木を相手にしていない。それが植木の強引な押しに最後はついほだされてしまう…というオチだったはずである。それから考えても、富士子の不自然な行動はどうにも理解できかねる。

そんな調子で、楽しく気分爽快なコメディを期待していた私は少々ガッカリした。植木等コメディにオマージュを捧げるなら、舞妓の一人に猛烈にアタックし、調子よく出世して金を稼ぎ、最後にとうとう目当ての舞妓のハートも射止める…という展開の方がよっぽど楽しいし笑えるしスッキリするのではないか。あのラストのオチでは全然笑えないし面白くもない。

まあ、私は満足出来なかったが、最近のコメディではマシな方である。阿部サダヲのファンなら十分楽しめる作品になっている。しかしクドカンの才能を高く評価しているが故に個人的にはハードルを高く上げざるを得ない。もっとハチャメチャ、抱腹絶倒、さらには痛烈に現代世相を皮肉り、権威を笑い飛ばす、天国の植木等も満足するような素敵なコメディ作りに邁進して欲しいとクドカンに注文を付けておこう。       (採点=★★★☆

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