「プレステージ」
手品は大好きである。昔はよくマジック・ショーを見たものだし、自分でも奇術セットを買っていろいろな手品にチャレンジした事もある。不思議なマジックを見ると、そのトリックをどうしても解きたくなる。
しかし分かってしまうと、案外簡単なトリックだったりして興ざめになる事もある。…やはり手品は、秘密のベールに包まれている方が良いのかも知れない(そういう点では、映画の特殊効果の秘密とも似ている所があると言える)。
奇術師の対決を描いた本作は、そんなわけでスリリングに楽しめた。「メメント」のクリストファー・ノーラン監督らしく、時制をシャッフルさせ、過去・現在がめまぐるしく入り組むのでやや判りにくい所もあるが、それらも含めて、映画全体が壮大な“トリック”になっており、手品同様に、観客はノーラン監督が仕掛けた“トリック”にまんまとダマされることとなる。言わば、この映画の最大のマジシャンは、ノーラン監督自身だという事なのである。
(以下、ややネタバレになるので隠します。映画を観た方だけドラッグ反転してください)
この映画に登場する、一番大仕掛けのマジックは“瞬間移動”だが、タネも仕掛けもある手品でこれをやろうとすれば、あの方法しかないはずで、そう考えればラストのオチもほぼ想像がつく。従って、わざわざ冒頭で「結末は誰にも言わないでください」とクレジットするほどのアッと驚くオチでもない。
ただ、わざわざ「そこまでやる」必要があるか?と疑問に思ってしまうだけである(そういう意味で、このオチは東野圭吾「容疑者Xの献身」のトリックと性質は共通していると言えるだろう。
↑ネタバレここまで
まあ、あくまでこれは、“謎解きミステリーに仕掛けられたトリックを読者(観客)が推理する”ことを楽しむ作品だと割り切れば、それなりに楽しめる作品である。欲を言えば、ラストにもう1回、ツイストの効いた再ドンデン返しがあればもっと面白くなっただろう。ともあれ、ミステリー小説がお好きな方にはお奨めである。
もう1つ気付いた事がある。
それは、作品全体がシンメトリー(左右対称)構造を持っている…という点である。
あの、瞬間移動の舞台装置そのものが、見事に左右対称の構図である。
それ以外にも、主人公の二人、アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)が、激しいライバル意識を燃やし、互いに相手のトリックを探り、同じような大仕掛けのマジックを考案して行くプロセスを見ていると、まるでこの二人は鏡に映った分身のようにすら見えるのである。二人ともそれぞれに相手の秘密を記載したノートを読み耽るシーンが、アングルまでそっくりにあったように思う。
これを意識した上で見直すと、まだいくつかシンメトリー構造を見つけられるかも知れない。まだまだ気が付かない仕掛けがあるかも知れない。
こういう風に観て行くと、1本の映画でも、幾通りも違った楽しみ方を発見できるのである。
(閑話休題)
マイケル・ケインが重要な役で出演しているが、マイケル・ケインとミステリー…と言えば、「探偵/スルース」(ジョゼフ・L・マンキウィッツ監督)という傑作推理映画を思い出す。このトリックには本当に騙された。
見事に洗練された、一分の隙もない脚本(アンソニー・シェーファー)と、ベテラン、マンキウィッツ監督の風格ある演出も素晴らしい。悪いけれど、本作よりはずっと格が上である。ミステリー・ファンなら必見であると、ここでお奨めしておきたい。 (採点=★★★★)
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