「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」
笑った、笑った、楽しんだ。私はQ・タランティーノが「キル・ビル」を撮った時、あるいは昨年「スネーク・フライト」なるおバカ底抜けパニック・ムービーが登場した時、日本映画にもこうした、徹底してパロディ・オマージュてんこ盛りだったり、おバカなお話を、ビッグ・バジェットでやってくれる面白い映画が登場しないものかと嘆息したのだが、三池崇史監督、遂にやってくれました。
これは恐らく、日本映画初の、“金をかけておバカをやって楽しんでる超おバカエンタティンメント”の快作である。
何しろ、日本のどこかで、源氏と平家が対立する村に、西部のガンマンがやって来て、派手なガン・アクションがあって、出演者全員が英語でセリフを喋るのである。
「何で日本が舞台なのに英語を喋るんだ」と文句を言う人は、まずこの映画を楽しむ資格がない。
“これは西部劇なのだから、西部劇なら英語である”という発想なのである。
だから、胸に星バッジをつけた保安官がいても当然なのである。
日本の、しかも置屋が舞台なのに、全員英語を喋ってる「SAYURI」の不自然さに比べたら数段納得出来る。
(しかし特訓の甲斐あってか、結構サマになってる。少なくとも「キル・ビル」のルーシー・リューが喋るカタコト日本語(笑)よりはずっとマシである)
そして、バックボーンはマカロニ・ウェスタンである。この映画には、それこそいろんなマカロニ・ウエスタンへのオマージュがぎっしり詰め込まれている。マカロニだけでなく、アメリカ西部劇からも、我が黒澤明時代劇からも引用されている。いわば、「キル・ビル」日本版・マカロニ・ウエスタン・バージョンとでも言うべき作品なのである。(スキヤキと言うより、闇ナベ・ウエスタンと言いたい(笑))
だから、この映画は、かつて一世を風靡した、マカロニ・ウエスタンに思い入れの深い人ほど楽しめる。さらには、それ以前の、アメリカ製A級、B級とりまぜた正統西部劇、さらにさらに、昭和30年台前半の日本映画全盛期に、主に日活で量産された和製西部劇(これについては後で詳述)を含め、数多くの娯楽映画を見続けて来た人であればなおの事楽しめるのである。
基本ラインとなっているのは、「荒野の用心棒」である。2つの勢力が対立する町にフラリと現れた謎のガンマンが、巧みな戦略と見事なガンさばきで両者を全滅させ、また何処ともなく去って行く。一時は悪者たちに手ひどく痛めつけられるが、やがて傷を治し、最後は壮絶な決闘の末に勝利する…というパターンも忠実になぞっている。
そこに、「続・荒野の用心棒」(原題:DJANGO)を中心に、数本のマカロニ・ウエスタンのエピソード、小道具が散りばめられていて、マカロニ・ウエスタンをリアルタイムで楽しんだ私などはもう頬が緩みっぱなし。大いに笑って楽しんだうえに、エンドロールではなんとまあ、御大・北島三郎による「続・荒野の用心棒」の主題歌「さすらいのジャンゴ」の大絶唱(「ジャンゴ~さすらい」と改題)があって、これがまた絶品。ベルト・フィア(=アメリカ歌手、ロッキー・ロバーツの変名)が歌って、マカロニ・ウエスタン主題歌の中でも最高傑作だと思っているこの名曲をサブちゃんが歌うとは…それもピッタリと映画にハマっていて、私はここでウルウル泣けてきた。
ここまで、映画ファンをとことん喜ばせてくれる日本映画は何年ぶりだろう。―いや、日本映画史上、これだけ金をかけて、個性的な俳優をふんだんに使って遊びまくった贅沢なおバカ映画は初めてかも知れない。それだけでも快挙である。
この映画の楽しみ方は、映画を観終わった後、映画仲間と、あそこに出てきたアレはどの作品のドレだとかをワイワイ言いながら当てっこし合う事から始まる。少しでも早く見つけたもん勝ち。見つけられなくて指摘されて気がついては地団太踏んで悔しがって、それならこれはどうだ…と他愛なく反撃する。これだけでも数時間は楽しめる(笑)。「キル・ビル」の鑑賞の仕方と同じである。
それから、ストックしてあるビデオの山からマカロニ・ウエスタンの数本を再鑑賞し、あ、こんなものもあったなぁ…と改めて発見する事も出来る。ビデオが出たら、時々画面を止めて、一瞬登場した小ネタをもう一度確かめる…という方法で、またまた楽しむ事も出来る。―例えば、バックの看板や、墓標に刻まれた墓碑銘にもいろんな遊びが仕込まれている事に改めて気付くだろう。
そういったネタをここで列記したいが、未見の方の為にここでは書かない(これが礼儀)。観終わった方で興味があれば、ココをクリックして開いてください。一杯挙げてあります。
俳優では、桃井かおりが最高。ラストのガンアクションにはシビれた。佐藤浩市もいい(「ヘンリーと呼べ」に大笑い)。伊藤英明のガンプレイー特に銃をクルクル回してホルスターに差し込む早業―は決まってるし、伊勢谷友介は刀さばきが惚れ惚れするほどうまい。こんなにカッコ良くアクションが出来る俳優とは思わなかった。和製ゴラム(映画を観れば分かる)の香川照之は相変わらずいい味出してます。木村佳乃は泥まみれになって大奮闘。役者がみんないい。
一つだけ指摘しておく。静(木村佳乃)の夫(小栗旬)の役名がアキラなのは、タランティーノが「オレはアニメオタクだから」と言うセリフから考えて、「AKIRA」から来ていると思われがちだが、彼の母の名前が“ルリ子”と聞けば、これでピンと来るのが映画ファン。
アキラとルリ子…と来れば、我々映画ファンに取っては、これはもう小林旭と浅丘ルリ子しかないのである。そう、二人が共演した「渡り鳥」シリーズこそはまさに元祖スキヤキ・ウエスタン!日本映画なのにこのシリーズはまさに和製西部劇だった(当時は無国籍アクションと呼ばれた)。中でも代表作「大草原の渡り鳥」ではアキラはシェーンそっくりの鹿皮服、ライバル宍戸錠はこれまた「シェーン」の悪役ジャック・パランスそっくりの黒づくめにテンガロン・ハット。二人がガンプレイで競い合うシーンにはニヤリとさせられた。宍戸錠主演の「早射ち野郎」なんかはモロに西部劇。今観ても十分楽しめる。
本作はその辺りからしても、日活無国籍アクションに対するリスペクトも含まれていると私は見た。
とにかく、この映画はコアな映画ファンであるほど楽しめる快作(怪作?)である。―映画なんて、所詮お祭りである。頭カラッポにして(しかし映画的記憶は頭にギッシリ詰め込んで)、笑って楽しむべし。 (採点=★★★★☆)
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コメント
元ネタ資料を楽しませていただきました!
そういや『BTTF3』でもマイケルJフォックス鉄板(だっけか?)を仕込んでいましたよね。自らイーストウッドを名乗ってたし。
投稿: kossy | 2007年9月30日 (日) 07:46
トラックバック、遅くなってすみません。私も観ながら、マカロニウェスタンと和製ウェスタンを思い出していました。でも、私にはどうも楽しめなかった・・・ウェスタンを思いつつ、どうして英語なの?なんてことも同時に思ったりしてしまいました。楽しむ資格がない一人でした・・・理屈を考えすぎて、私はまだまだダメですねぇ。 冨田弘嗣
投稿: 冨田弘嗣 | 2007年10月11日 (木) 01:23