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2007年10月15日 (月)

「プラネット・テラー in グラインドハウス」

Planetterror (2007年・ブロードメディア/監督:ロバート・ロドリゲス)

タランティーノ企画の、もう1本のグラインドハウスもの。

こちらはB級映画の定番、ゾンビ・ホラーもののバリエーションであるが、前半が退屈だったタランティーノの「デス・プルーフ」に比べて、全編ほぼノン・ストップのアクションのつるべ打ちで、おバカぶりもより徹底していて、純粋娯楽映画としてはタラ作品よりこちらの方が楽しめる出来となっている。

本作でも、「デス・プルーフ」と同様、フィルムの傷(雨降り)、コマ落ち、ガタつき、カラー褪色などの“グラインドハウスで上映された状態のB級映画の再現”を試みているが、フィルムの雨降り状態は「デス・プルーフ」よりも更に酷い状態だし、セックス・シーンの途中でフィルムが止まり、熱でフィルムが溶ける…というアクシデントまで再現している凝り様である(その後、「1巻紛失」という字幕まで出たのには笑った)。

正確には、ゾンビものではなく、科学者が開発した生物化学兵器がバラまかれ、そのガスを吸った人間たちの体が溶け出し、次々人間を襲う…という展開。そこに軍隊(指揮官がなんとブルース・ウイリス)まで介入して…という筋立てはどうでもよくて、ただひたすら、逃げる主人公たちVS、襲って来る軍隊や溶解人間たちとの派手なドンパチ大アクションが繰り広げられる。

以下、ややネタバレに付き隠します。映画を観た方のみドラッグ反転してください。
えげつなさもハンパじゃなくて、何故か男性の○玉をちょん切っては収集してたり、それが大量に地面にぶち撒けられたり、レイプ魔の兵士(クェンティン・タランティーノ!)のアソコが溶け出したり(笑)と、もうやりたい放題。

ちなみに、転がってきた○玉を靴の先でブチュッと潰すシーンは、「キル・ビル2」でブライドがエル・ドライバー(ダリル・ハンナ)の目玉をくりぬき、足で潰すシーンのパロディと見たがどうだろうか。
↑ネタバレここまで。

ヒロイン、(ローズ・マッゴーワン)の片足が溶解人間たちに食いちぎられた為、そこに機関銃を取り付け、派手に乱射するシーンがカッコいいし笑える。“どうやって引き金を引いてるんだ”なんて突っ込みはヤボというもの(笑)。とにかく理屈抜きで笑って楽しむのが正しい鑑賞法である。

Planetterror2_2  アメリカ版ポスターでは、わざわざ周囲をボロボロになってるかのように印刷するなど、細かい所まで凝っている。よく見れば機関銃を取り付けた足が左右逆なのだが、これも恐らく、ワザと裏焼きした印刷ミスであるかのように装っているのである(笑)。まったく、よくやるよ。

おそらく、いろんなB級ホラー映画からの引用、オマージュも沢山あるのだろうが、ホラー映画は残念ながらあまり観ていないので何とも言えない。
それでも、ジョージ・ロメロの元祖ゾンビもの「ナイト・オブ・ザ・リヴィング・デッド」とか、人間がドロドロ溶ける、「溶解人間」あたりは間違いなく頂いていると思う。ホラー映画ファンならもっと楽しめるだろう。しかしそんなのを観ていなくても十分面白いし楽しめる出来である。

アメリカや東京・大阪の一部の館では「デス・プルーフ」と2本立で(1本90分に短縮)公開したそうだが、グラインドハウスものとしてはそれが正しい公開方法だと思う。だいたいB級映画は昔はみんな90~95分だった。最近の映画はどれも長過ぎる。この2本、全国すべて2本立で公開すべきである(その上、ローズ・マッゴーワンをはじめ、何人か両方の作品に出ている俳優がいるので、これも2本同時に観たら、なおの事ニヤリとさせられるだろう)。

とにかく、こういうバカバカしいB級映画はもっと作られるべきである。そういう作品を何本も演出する事によって、スピーディで観客を退屈させない映画作りをマスターし、やがては一級のエンタティンメント大作を作れる人材が育つ事にも繋がるからである。

我が国でも、誰かグラインドハウス2本立番組を作ってくれないかな。監督は是非鈴木則文三池崇史の組合せで(笑)。いや、マジメに本気でそう思う。この2人が本気でおバカ映画を作ったらスゴいことになると思いますよ(笑)。

 (採点=★★★★☆

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2007年10月14日 (日)

「デス・プルーフ in グラインドハウス」

Deathproof_2(2007年・ブロードメディア/監督:クェンティン・タランティーノ)

Q・タランティーノ企画による、その昔隆盛を誇ったB級ピクチャー2本立の復活を目指した作品の1本(もう1本は盟友ロバート・ロドリゲス監督の「プラネット・テラー」)。

 

 

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2007年10月10日 (水)

「天然コケッコー」

Tennnen (2007年・アスミック・エース/監督:山下 敦弘)

なんともトボけたタイトルである。コミックが原作というから、てっきりコメディだと思っていた。

しかし、監督が「リンダ、リンダ、リンダ」などの秀作を発表し、注目を集めている新進の山下敦弘なので、ひょっとしたら…と思って観に行った。

で、映画は、題名から受ける印象とはまるで違って、少年少女たちの成長をヴィヴィッドに切り取った、見事な青春人間ドラマの秀作に仕上がっていた。(脚本は秀作「ジョゼと虎と魚たち」の渡辺あや)

 

とある、ひなびた田舎町が舞台である。

人口が少ない為、生徒が6人しかおらず、小学生と中学生が同じ教室で席を並べているほどで、子供たちはいつも連れ立って登校し、上級生は小学校低学年生を自分の妹のように面倒を見ている。

そういう、なんともおおらかでのんびりとした町(村と言ってもいい)に、都会からイケメンの転校生がやって来る。女の子たちはちょっと心ときめくが、大して大きな事件が起るわけでもなく、子供たちで海水浴に行ったり、修学旅行で東京に行ったり、そうした日常を淡々と描いているだけなのだが、それなのに観終ってとても温かい気分になる。

子供たちの演技がとても自然である。一応主演は転校生に恋をしてしまう少女、右田そよ(夏帆)なのだが、子供たち全員が主演とも言える。

教室でおシッコを漏らしてしまう小学一年生の早知子(宮澤砂耶)など、その表情もとても愛らしくて演技に見えない。そよが学校を休んでいた早知子の家を訪ねた時、早知子がそよにシッカと抱きつくシーンはホロっとしてしまう。

そんな子供たちが、さまざまな体験を通して成長して行く様が、山下監督の的確な演出によって瑞々しく、情感豊かに描かれている。

そよたちが修学旅行で東京に行った時、そよが故郷の空気を感じるシーンでは、その背後を東京の風景がイラスト・タッチで飛び去る…というこれまで使った事のないケレン味ある演出が面白い。

その演出スタイルから思い浮かぶのは、「台風クラブ」「お引越し」「夏の庭-friends-」などで、子供たちの日常と、ささやかな冒険を通して成長して行く姿を瑞々しく、かつ鮮烈に描いた、一連の相米慎二監督作品である。

そう思えば、本作のラストで、そよが中学を卒業し、教室から出て行った後、カメラがゆっくり移動し、やがて教室の外に出るとそこには高校生となったそよがいる…というシーンをワンカットで捉えた映像が、ワンカット長回しを得意とした相米監督の演出タッチを彷彿とさせ、思わず涙腺が緩んでしまった。

 

山下監督は、「どんてん生活」「バカのハコ船」などのほとんど自主制作に近いマイナーな作品からスタートし、当初は何処となくトボけた人間たちがトボけた行動をする、いわゆる“ゆるい”テンポが持ち味であったが、1作ごとにメキメキ力をつけ、「リンダ、リンダ、リンダ」が大好評を博して今や若手を代表する一流監督になったと言える。

前作「松ヶ根乱射事件」では人間観察に鋭い演出の冴えを見せ、そして本作に至って、もはや名匠の風格さえ漂わせるまでに至った。その着実な成長ぶりは目を瞠るものがある。

あの「どんてん生活」の監督が、わずかの間に相米慎二と並び立つほどの一流監督に成長した…と思えば、感慨深いものがある。いつまでも、この瑞々しさを失わないで欲しいと願う。多くの人に見て欲しい、これは本年屈指の傑作である。    (採点=★★★★★

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2007年10月 8日 (月)

「パーフェクト・ストレンジャー」

Perfectstranger (2007年・ソニー・ピクチャーズ/監督:ジェームズ・フォーリー)

キャッチコピーが、「ラスト7分11秒、あなたは絶対騙される」

はっきり言うけど、これは言っちゃいかんでしょう。こんな事を言ってしまうと観客が身構えてしまって、映画を楽しめなくなる。単に、「究極のサスペンス・ミステリー」程度に留めておくべきである。

だいたい、怪しい人物が少なすぎる。もっと一杯容疑者らしき人間を増やしておかないと、消去法でおのずと容疑者は絞られてしまう。

それと、ラストのワン・アイデアに頼り過ぎて、物語そのものに緻密さが欠けている。広告代理店CEOの部屋に簡単に侵入出来たり、パソコンにスパイウェア・ソフトを仕掛けようとしたりなんてありえない。部屋にはIDパスカードを通さないと入れないだろうし、パソコンは電源立ち上げ即パスワードを要求されるはず。ましてやその前にスパイ騒動があったばかりだし…。

この映画の脚本家、最新のセキュリティ事情を知らないか、リサーチ不足。

 

これまでにも、ラストにどんでん返しがあったり、あっと驚くオチが控えていたりする映画はどっさり作られている。

しかし、それらの中で、現在に至るも映画ファンの記憶に残り続けている名作は、ほとんどが、ラストのオチがなくても、それまでの物語だけでも十分見応えのある作品に仕上がっているものばかりである。

人物描写が丁寧でキャラクター設定がしっかりしていたり、物語の筋運びに無理がなく、細部に至るまできめ細かく描写されていたり…。

例を挙げれば、ビリー・ワイルダー監督「情婦」。主人公の弁護士(チャールズ・ロートン)のキャラクターが面白くて彼を見ているだけでも楽しめる。オチの直前まででも十分面白い作品に仕上がっているのに、さらにドンデン返しがある。そして、オチが分かってても観直したくなるくらい面白い。名作たる所以である。

偶然だが、やはりブルース・ウィリスが主演している「シックス・センス」も、あのラストがなくても、そこまでのお話だけでも十分映画として面白いし見応えがある。
だから、あのラストの後も、深い余韻が残り感動出来るのである。

「スティング」「ユージュアル・サスペクツ」も同様。だいたい、宣伝もあまり大げさではなかったはず。

この映画は、そのラスト、7分11秒-に至るまでの物語がつまらない。人物描写の底が浅いのである。そもそも、警察が全くと言っていいほど出て来ないのは不自然。死体が出ない為警察も動きようのない「サイコ」などと違って、こちらは惨殺死体があるのだから。

まあいろいろ言ったけど、それぞれの役者、特にハル・ベリーと、相棒のジョバンニ・リビシはいい味を出していて悪くない。余計な7分11秒の宣伝文句が一番の減点である。配給会社の宣伝部に喝!を入れておこう(どうでもいいけど、コロムビア=ソニー・ピクチャーズ作品なのに配給が何故ブエナビスタ・インターナショナルなの?)。

蛇足だが、アガサ・クリスティのミステリー小説の中にも、ちょっと本作を連想させるとんでもない犯人ものがある(と言ってもクリスティ作品の犯人はどれもとんでもないのばかりだが(笑))。

 (採点=★★☆

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2007年10月 7日 (日)

出張先で見つけたミニシアター・その2

先日紹介しましたミニシアター、津大門シネマにまた行って来ました(10月6日)。

Daimoncinema1 作品は、新藤兼人原作・脚本・出演「陸に上がった軍艦」(監督:山本保博)。戦争の狂気をブラックな笑いで描いた、いかにも新藤兼人さんらしい佳作でした。

観終わったら、やっぱり前回と同じく、支配人の方が出口で丁寧に頭を下げておられました。

それで、思い切って支配人に声をかけ、いろいろお話を聞くことが出来ました。以下はその報告です。

Daimoncinema4 支配人は、谷口さんという年配の方です。とても気さくで、物腰の柔らかい、そして映画に深い愛着を抱いている方でした。

この大門シネマは、まだオープンしてから3年足らず。

それ以前は東宝系の封切館だったそうです。
ご多分に漏れず、シネコンが出来て観客が減り、閉館していたのを、谷口さんが後を引き継ぎ、アート系のミニシアターとして再発足したのだそうです。

番組を見れば分かる通り、(→ http://tsudaimoncinema.fan.mepage.jp/schedule/flameschedule.htm
かなりシブい、しかし映画ファンなら必見のミニシアター系の秀作が並んでいます。観客動員はあまり望めないようなラインナップです。

失礼ながら、経営的には大変なのでは…と聞くと、会員制を採用しており、既に会員は200名ほどになるとか(会員になると大人1,100円で観れます)。

そんなわけで、「シッコ」のような話題作になると結構な入りになるそうで、なんとか赤字にならずに行けているそうです。

そう言えば、前回観た「夕凪の街 桜の国」は私が観た回はまずまずの入りでした。

作品によっては、厳しい数字になる事もあるでしょう。

しかし、谷口支配人の温かい人柄と熱意は、きっと来られた観客に伝わるものと思います。1人でも多くの映画ファンが、このラインナップに目を留め、遠くからでも劇場に足を運んでくれる事を期待したいものです。及ばずながら応援したいと思います。

谷口支配人さま。お忙しい中、丁寧にお答えいただき、ありがとうございました。津大門シネマが益々発展されることを祈りつつ…。

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