「パーフェクト・ストレンジャー」
(2007年・ソニー・ピクチャーズ/監督:ジェームズ・フォーリー)
キャッチコピーが、「ラスト7分11秒、あなたは絶対騙される」
はっきり言うけど、これは言っちゃいかんでしょう。こんな事を言ってしまうと観客が身構えてしまって、映画を楽しめなくなる。単に、「究極のサスペンス・ミステリー」程度に留めておくべきである。
だいたい、怪しい人物が少なすぎる。もっと一杯容疑者らしき人間を増やしておかないと、消去法でおのずと容疑者は絞られてしまう。
それと、ラストのワン・アイデアに頼り過ぎて、物語そのものに緻密さが欠けている。広告代理店CEOの部屋に簡単に侵入出来たり、パソコンにスパイウェア・ソフトを仕掛けようとしたりなんてありえない。部屋にはIDパスカードを通さないと入れないだろうし、パソコンは電源立ち上げ即パスワードを要求されるはず。ましてやその前にスパイ騒動があったばかりだし…。
この映画の脚本家、最新のセキュリティ事情を知らないか、リサーチ不足。
これまでにも、ラストにどんでん返しがあったり、あっと驚くオチが控えていたりする映画はどっさり作られている。
しかし、それらの中で、現在に至るも映画ファンの記憶に残り続けている名作は、ほとんどが、ラストのオチがなくても、それまでの物語だけでも十分見応えのある作品に仕上がっているものばかりである。
人物描写が丁寧でキャラクター設定がしっかりしていたり、物語の筋運びに無理がなく、細部に至るまできめ細かく描写されていたり…。
例を挙げれば、ビリー・ワイルダー監督「情婦」。主人公の弁護士(チャールズ・ロートン)のキャラクターが面白くて彼を見ているだけでも楽しめる。オチの直前まででも十分面白い作品に仕上がっているのに、さらにドンデン返しがある。そして、オチが分かってても観直したくなるくらい面白い。名作たる所以である。
偶然だが、やはりブルース・ウィリスが主演している「シックス・センス」も、あのラストがなくても、そこまでのお話だけでも十分映画として面白いし見応えがある。
だから、あのラストの後も、深い余韻が残り感動出来るのである。
「スティング」、「ユージュアル・サスペクツ」も同様。だいたい、宣伝もあまり大げさではなかったはず。
この映画は、そのラスト、7分11秒-に至るまでの物語がつまらない。人物描写の底が浅いのである。そもそも、警察が全くと言っていいほど出て来ないのは不自然。死体が出ない為警察も動きようのない「サイコ」などと違って、こちらは惨殺死体があるのだから。
まあいろいろ言ったけど、それぞれの役者、特にハル・ベリーと、相棒のジョバンニ・リビシはいい味を出していて悪くない。余計な7分11秒の宣伝文句が一番の減点である。配給会社の宣伝部に喝!を入れておこう(どうでもいいけど、コロムビア=ソニー・ピクチャーズ作品なのに配給が何故ブエナビスタ・インターナショナルなの?)。
蛇足だが、アガサ・クリスティのミステリー小説の中にも、ちょっと本作を連想させるとんでもない犯人ものがある(と言ってもクリスティ作品の犯人はどれもとんでもないのばかりだが(笑))。
(採点=★★☆)
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コメント
コンピュータ関係の描写はお粗末でしたよね~
10年前なら納得できたんだろうけど、これだけパソコンが普及している世の中じゃ・・・
予算を二大俳優に割かれてしまって、足りなかったんだろうけど(笑)
投稿: kossy | 2007年10月 8日 (月) 07:55
トラックバック、ありがとうございます。まったくKeiさんの書かれているとおりで、あのラストを観るために、延々と平凡で退屈な物語を観なければならないのかと思います。もっと練れば面白くなる材料は用意してあるのに・・・。 冨田弘嗣
投稿: 冨田弘嗣 | 2007年10月29日 (月) 23:01