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2007年10月10日 (水)

「天然コケッコー」

Tennnen (2007年・アスミック・エース/監督:山下 敦弘)

なんともトボけたタイトルである。コミックが原作というから、てっきりコメディだと思っていた。

しかし、監督が「リンダ、リンダ、リンダ」などの秀作を発表し、注目を集めている新進の山下敦弘なので、ひょっとしたら…と思って観に行った。

で、映画は、題名から受ける印象とはまるで違って、少年少女たちの成長をヴィヴィッドに切り取った、見事な青春人間ドラマの秀作に仕上がっていた。(脚本は秀作「ジョゼと虎と魚たち」の渡辺あや)

 

とある、ひなびた田舎町が舞台である。

人口が少ない為、生徒が6人しかおらず、小学生と中学生が同じ教室で席を並べているほどで、子供たちはいつも連れ立って登校し、上級生は小学校低学年生を自分の妹のように面倒を見ている。

そういう、なんともおおらかでのんびりとした町(村と言ってもいい)に、都会からイケメンの転校生がやって来る。女の子たちはちょっと心ときめくが、大して大きな事件が起るわけでもなく、子供たちで海水浴に行ったり、修学旅行で東京に行ったり、そうした日常を淡々と描いているだけなのだが、それなのに観終ってとても温かい気分になる。

子供たちの演技がとても自然である。一応主演は転校生に恋をしてしまう少女、右田そよ(夏帆)なのだが、子供たち全員が主演とも言える。

教室でおシッコを漏らしてしまう小学一年生の早知子(宮澤砂耶)など、その表情もとても愛らしくて演技に見えない。そよが学校を休んでいた早知子の家を訪ねた時、早知子がそよにシッカと抱きつくシーンはホロっとしてしまう。

そんな子供たちが、さまざまな体験を通して成長して行く様が、山下監督の的確な演出によって瑞々しく、情感豊かに描かれている。

そよたちが修学旅行で東京に行った時、そよが故郷の空気を感じるシーンでは、その背後を東京の風景がイラスト・タッチで飛び去る…というこれまで使った事のないケレン味ある演出が面白い。

その演出スタイルから思い浮かぶのは、「台風クラブ」「お引越し」「夏の庭-friends-」などで、子供たちの日常と、ささやかな冒険を通して成長して行く姿を瑞々しく、かつ鮮烈に描いた、一連の相米慎二監督作品である。

そう思えば、本作のラストで、そよが中学を卒業し、教室から出て行った後、カメラがゆっくり移動し、やがて教室の外に出るとそこには高校生となったそよがいる…というシーンをワンカットで捉えた映像が、ワンカット長回しを得意とした相米監督の演出タッチを彷彿とさせ、思わず涙腺が緩んでしまった。

 

山下監督は、「どんてん生活」「バカのハコ船」などのほとんど自主制作に近いマイナーな作品からスタートし、当初は何処となくトボけた人間たちがトボけた行動をする、いわゆる“ゆるい”テンポが持ち味であったが、1作ごとにメキメキ力をつけ、「リンダ、リンダ、リンダ」が大好評を博して今や若手を代表する一流監督になったと言える。

前作「松ヶ根乱射事件」では人間観察に鋭い演出の冴えを見せ、そして本作に至って、もはや名匠の風格さえ漂わせるまでに至った。その着実な成長ぶりは目を瞠るものがある。

あの「どんてん生活」の監督が、わずかの間に相米慎二と並び立つほどの一流監督に成長した…と思えば、感慨深いものがある。いつまでも、この瑞々しさを失わないで欲しいと願う。多くの人に見て欲しい、これは本年屈指の傑作である。    (採点=★★★★★

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コメント

お邪魔します。


相米慎二監督と対比させたあたりは、非常におもしろく拝見いたしました。
なるほどね~。納得です。

ボクも今作のレビューを書いておりますので、トラックバックをさせて下さいませ。
よろしくお願い致します。

投稿: マーク・レスター | 2008年12月28日 (日) 13:17

マーク・レスターさん、ようこそ。
(小さな恋のメロディのファンでしょうか(笑))

TBご遠慮なくどうぞ。
ブログ拝見しましたが、凄く長文の解読をされてますね。またじっくり読ませていただきます。では。

投稿: Kei(管理人) | 2008年12月30日 (火) 18:55

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