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2007年11月 3日 (土)

「自虐の詩」

Jigyakunouta (2007年・松竹/監督:堤 幸彦)

原作は伝説の4コマ漫画(作・業田良家)という事だが、私は読んでいない。どんな映画かも分からないうえに、堤幸彦監督の作品も「明日の記憶」以外、どれも私の波長と合わなかったので、あまり気乗りせず観たのだが…。

出だしはなんかギャグ・コメディっぽい。パンチパーマのヤクザ・イサオ(阿部寛)が、ちょっとした事でブチ切れ、「でいっ」とばかりにちゃぶ台をひっくり返すシーンが何度も出てくる。それにもめげず、イサオに献身的に尽くす薄幸の女・幸江(中谷美紀)。舞台が大阪・新世界という事もあって、周辺の人物とのセリフのやり取りもなんだか吉本新喜劇を観ているようで、笑えることは笑えるが、これで2時間のドラマが持つのかな…と心配になった。おまけに中谷美紀は昨年、「嫌われ松子の一生」でやはり薄幸の女を演じたばかりで、「またかよ」と思ってしまう。

ところが、物語が後半に移ると、回想シーンによって、何故この二人が知り合い、そして、何故幸江がこんな暴力亭主に尽くすのか、その理由が次第に明らかになって来る。映画はそこからなんとまあ、感動の純愛物語に変わって行くのである。

イサオの暴力性も、じつは形を変えた“愛”の表現である事も分かってくる。その誰にも分からない、イサオの愛を受け止め、無垢なまでに無償の愛を与える幸江の心にいつしか打たれ、気が付けばポロポロ泣いていた。

これにはやられた。まさかコメディ・タッチの前半から、究極の泣けるラブストーリーに展開するとは予想もしなかった。

「嫌われ松子-」は最後まで不幸続きで、ちょっとやりきれなかったけれど、本作はエンディングで、なんか心が温かくなって、爽やかな気分で映画館を後に出来る。

もう一つのストーリーの柱である、中学時代のクラスメート、熊本さん(丸岡知恵)との友情も見どころである。これも単純な友情物語にはなっていない。阻害された者同士の心の寄せ合い、そして一時にせよ裏切られた熊本さんの激しい怒り、そして和解に至るエピソードも屈折している(ここにも暴力がからむ)。

イサオとのエピソードにせよ、この物語は愛にしても友情にしても、どこかイビツで、おかしくも哀しい。それが却って、巷に溢れるありきたりのラブストーリーや友情物語に比べて新鮮に感じられた。

 

花村萬月の小説に「笑う山崎」という作品があり、主人公はえげつないほど暴力的なのだが、実はとても家族愛に溢れた男である事が明らかになって行く。そんな愛の形もあるという事なのである。花村萬月の作品には、そうした、どこかねじ曲がった、いびつな愛を描いた作品が多い。

それで思い出すのが、深作欣二監督の傑作「仁義の墓場」である。主人公石川力夫(渡哲也)はまさに凄まじい暴力を振るう、手の付けられない男なのだが、そんな彼に献身を捧げる女(多岐川裕美)がおり、女が死んだ後、男は女の遺骨をボリボリ齧る。
彼は、何事も、愛ですらも暴力の形でしか表現できない、不器用な男なのである。ここにも、形を変えた愛の表現を見る事が出来る。そう言えば、同じ深作作品「人斬り与太・狂犬三兄弟」においても、暴力男(菅原文太)と薄幸な女(渚まゆみ)のいびつなラブストーリーが描かれていた。

本作はそうした、“粗暴な男と、薄幸な女との究極の愛の物語”の系譜に繋がる作品と言えるかも知れない(原典は、F・フェリーニの傑作「道」であろう)。

役者では主演の二人がいいのは無論だが、、他では幸江にかなわぬ愛を捧げるラーメン店主の遠藤憲一が楽しい。熊本さんを演じた丸岡知恵もいい。そしてなんとも絶品なのが、アパートの隣人役のカルーセル麻紀!。コテコテのナニワのオバちゃんを快演。最初は誰か判らなかった。本年の助演賞候補に挙げておきたい。(でもノミネートするとなると、いったいこの人は女優賞か、男優賞、どちらに入れればいいんでしょうかねぇ(笑))。

 (採点=★★★★☆

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コメント

トラックバックありがとうございます。やっぱり、どうしても、嫌われ松子の一生を思い浮かべてしまいました。私は嫌われ松子の一生を酷評して、多くの方から、お叱りをいただいたのですが、本作はとても気に入りました。舞台が大阪だということもあるのでしょうが、映画全体に、ちょっと救いのような温かさを感じました。人と人との情みたいなものが、スクリーンから伝わってきて、気持ちのよいひとときを過ごしました。
学生時代と現在を結びつけるラストが、ありきたりなのだろうけれど、ホッとさせます。アジャ・コングがちょい役で出ますが、彼女の笑顔が、この映画を救ってくれました。 冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2007年11月 6日 (火) 17:44

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