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2007年11月15日 (木)

「インベージョン」

Invasion (2007年・ワーナー/監督:オリバー・ヒルシュビーゲル)

SF小説の古典、ジャック・フィニィ原作「盗まれた街」の4度目の映画化。

ブログではあまり評判が良くないようだが、監督が「ヒトラー~最期の12日間」という骨太の秀作を撮ったドイツのオリバー・ヒルシュビーゲル(ハリウッド進出第1回作品)であるうえ、プロデューサーが「ダイ・ハード」「マトリックス」などのジョエル・シルバーという組み合わせに惹かれて観に行った。

結論から言って、まずまずの出来。私は結構楽しめた。いろいろツッ込みどころもあるが、スリル、サスペンス、派手なアクションありの、いかにもジョエル・シルバーらしいエンタティンメント作品に仕上がっている。

 

最初の映画化作品は、わが国では劇場未公開だが、「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(56)の邦題でTV放映され、ビデオも出ている(原題は"INVASION OF THE BODY SNATCHERS")。監督はなんと後に「ダーティ・ハリー」などの傑作アクションを撮ることになるドン・シーゲル

低予算のB級作品で、SFXもほとんど使われていないが、スリリングな演出でジワジワと恐怖が蔓延して行く描写が見事。侵略SF映画の代表的秀作として評価が高い。この作品では、巨大なサヤエンドウ豆のような莢の中で複製人間が作られ、寝ている間に本人の意識が吸い取られて入れ替わる…という設定であった。

公開された当時は、アメリカ国内に、いわゆる赤狩り―反共の嵐が巻き起こっており、洗脳されて別人格に変わった人間が世界に蔓延して行くというプロットが、共産主義の脅威に対するメタファーとも囁かれた。

 
で、本作は、宇宙から来たウイルスによって体内の遺伝子がプログラムし直される…という現代的な要素が取り入れられてはいるが、全体的には初代のドン・シーゲル作品に敬意を表した作りになっている。ウイルスに冒されると顔に薄い皮膜が出来たり、寝ている間に人格が入れ替わるので、主人公は絶対寝ないように苦心する…とか、「奴らが襲って来る!」と叫んで走る車の前に飛び出す人間がいたり…というシーンは、いずれもドン・シーゲル作品にも出て来る。

(以下、ネタバレにつき隠しますので、読みたい方はドラッグ反転してください)
ウイルスに摂り付かれると、顔が無表情になり、集団で普通の人間を拉致したり、ボディスナッチされた人間たちが全世界に広まり、人類みな兄弟、争いのない平和な世界になって行く…という展開もドン・シーゲル版のコンセプトに近い。

それにしても、そうしたエイリアンによる世界平和へのもくろみをブチ壊し、ワクチンによって人間たちが元に戻ってしまうと、戦争、テロ、殺戮がまた世界中に舞い戻ってくる…というオチがなんとも皮肉である。

そもそも、ボディスナッチされた人間たちは誰も人を殺していないが、この映画の中で一番大量に人を殺しまくってるのが主人公のニコール・キッドマンなのだから笑える。凄いブラック・ユーモアである。

だから、一見ハッピー・エンド風に見えるラストも、見方を変えれば少しもハッピーではないのである。―人類にとって望ましいのは、どちらなのだろう…と考えたくなる。なかなか辛辣でアイロニカルなオチである。
(↑ネタバレここまで)

ただ、ラストの派手なカーチェイス・アクションはいかにもハリウッド娯楽作品のパターンで、骨太のヒルシュビーゲル監督もアメリカに渡ったらハリウッドに順応してしまったのかな…と思っていたら、どうやらプロデューサーのジョエル・シルバーが、アクションが少ないと撮り直しを指示し、拒否したヒルシュビーゲル監督を降板させ、「V・フォー・ヴェンデッタ」(これもJ・シルバー製作)の監督、ジェームズ・マクティーグに追加部分を監督させたらしい。

まあハリウッドではよくある話で、多分ヒルシュビーゲル演出のオリジナル作品の方は、アクションが少なく、心理的なサスペンスに仕上がっているのだろう。それでは売り難い―と判断したワーナー=シルバーの戦略も間違ってはいないが、その為作品全体のバランスがやや崩れた感がある。DVDが出たら、ヒルシュビーゲル演出版のラストも是非特典として入れていただきたいものである。     (採点=★★★★

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(追記・お楽しみはココからである)
冒頭、「夫の様子がおかしい」とキャロルに訴える中年おばさん、ウェンディ役の女優。

Veronica どうもどこかで見覚えのある人だな、と思って、後で調べたら、ヴェロニカ・カートライトだと分かった。

この女優さん、古い映画ファンには懐かしい名前である。一番印象的だったのが、ヒッチコック監督の大傑作「鳥」における、ロッド・テイラーの娘のキャシー役。この当時は13歳。

で、その後結婚を経て、しばらく振りに出演した話題作が、「SF/ボディ・スナッチャー」
なんとまあ、「盗まれた街」2度目の映画化作品である、あの作品なのである。ジェフ・ゴールドブラムの奥さん役だったはず。

つまりはこのキャスティングは、前作を見ている映画ファンに対する楽しい目配せでもあるわけなのだ(しかしその事を指摘した人はあまりいないようだ)。

ちなみに、「SF/ボディ・スナッチャー」には、1作目のドン・シーゲル版の主演者である、ケヴィン・マッカーシーが特別出演していた。そしてなんと!、当のドン・シーゲル自身もタクシー運転手役でカメオ出演していたのである。

アメリカ映画は時々、こうしたオリジナル作に対する敬意を込めて、前作の主要なスタッフ・俳優などをカメオ出演させる事がしばしばあり、映画ファンを楽しませてくれる。この辺りも映画の見どころである。

ヴェロニカ・カートライトのその後の話題作と言えば、これまたホラーSF映画の金字塔「エイリアン」(リドリー・スコット監督)。

「鳥」もよく考えれば、ある日突然、鳥が人を襲い出し、最終的には人類が鳥によって支配されてしまう恐怖を描いた、SF的な要素も含まれており、「SF/ボディ・スナッチャー」、「エイリアン」、今回の「インベージョン」といった具合に、彼女、なぜか侵略型ホラーSF映画に非常に縁が深い女優なのである。

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コメント

トラックバック、いただきました。いつもながら、映画の「お楽しみはこれから~」の部分が羨ましいです。私は、未公開作も含めてすべて観ているのですが、まったく気づかず・・・。情報誌もチラシの裏も読まなくなったので、尚更です。本作には違うラストがある・・・それ、観てみたいです。あの流れのまま、どういう風な展開になるのか。カーチェイスで楽しませてくれるのもいいけれど、監督の考えをそのまま焼き付けたフィルムの方がずっと気になります。なにせ、映画はやっぱり、監督のものですから。こちらからもトラックバツクさせていただきます。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2007年11月21日 (水) 04:37

>冨田さん
コメントありがとうございます。

>映画はやっぱり、監督のもの…
―のはずなんですが、アメリカでは監督は単にプロデューサーに雇われてるだけ…というのが実態ですからね。プロデューサーの意向に沿わなければ簡単にクビにされてしまいます。
DVDでは、ラストが異なるバージョンを収録する…という事がこれまでにも何度かありましたから、期待できるかも知れません。出来ればヒッチコックの「見知らぬ乗客」のように、DVDの裏表にそれぞれ別バージョンを収録した両面版を発売してくれればうれしいのですがねぇ。

投稿: Kei(管理人) | 2007年11月21日 (水) 22:44

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