「ディスタービア」
父の死が元で暴行事件を起こし、自宅から半径30メートル以上は出てはならないという裁定を受けた少年が、退屈まぎれに友人と近所の家を覗いているうち、隣人の男が殺人犯ではないかと疑いを抱く。
…というストーリーを聞けば分かる通り、これはA・ヒッチコック監督の秀作「裏窓」のシチュエーションをそのまんま拝借した作品である。リメイクと言ってもいい。
ただし、主人公ケール(シャイア・ラブーフ)は高校生であり、家から出られないケールに協力して動き回るのも、同級生のロニーや隣の可愛い女の子アシュリー(サラ・ローマー)だったりと、全体的に青春映画の味付けもされている。ケールが事件を起こしている為に、なかなか母親にも警察にも信用して貰えない状況がサスペンスを生み出している。またGPS監視により、30メートルをはみ出すと警察が飛んで来るシステムが足枷であると同時に、危機状況では警察を呼ぶ道具にもなるという設定を巧妙に生かしたシナリオがうまい。
こういう話は、だいたいどういう展開になるか、先は読めるし、またその通りに進んで行く。
従って、映画の興味は謎解きよりも、次々と襲い来る危機、絶対的なピンチをどう脱出し、どう逆襲するか、という辺りにポイントが絞られる。
ここら辺りの描写は、ホラーとか、おぞましさ等は極力抑えられ、とにかく悪い奴に追いかけ回される子供たちの冒険譚のような描き方である。どちらかと言うと、ハリー・ポッターのような味わいに近い(少年2人と少女1人の組み合わせはまさにハリポタ・シリーズのハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組を思わせる)。
(以下、重要なネタバレを含みますので隠します。映画を観た方のみドラッグ反転してください)
子供たちが力を合わせ、捕えられた母を助ける為に活躍し、大冒険の末に悪を倒し勝利する…という展開が、パターン通りではあるが安心して観ていられる。こうした、少年冒険活劇の王道を行っているが故に全米興行成績では3週連続1位という好成績に繋がったのだろう。
そして楽しいのが、「裏窓」に留まらず、いろんなホラー・サスペンス映画に対するリスペクトが随所に見られ、映画ファンは余計楽しめる。以下いくつか挙げてみよう。
正体を現わした犯人(デヴィッド・モース)が、ケールを追っかけ、部屋のドアをぶち破るショック演出は、「シャイニング」と同じ。モースがまるであのジャック・ニコルソンに見えます(笑)。
ケールが母を捜し、犯人宅の地下室でミイラ化した女性の死体を見つけ、仰天する所は、これもヒッチコックの「サイコ」を思い起こさせます。ただ、ここはもう少しショッキングな演出が欲しいところ。ヒッチの演出テクニックを徹底マスターしたスピルバーグの「ジョーズ」を見習って欲しいところ。なお、犯人がカツラをかぶって女装し、1人二役を演じていた…というくだりもやはり「サイコ」へのオマージュと思われます。
さらに地下にもぐると、何故かカタコンベのような地下壕が。ここで板を踏み外し、水溜りに落ちると、水中から死体が浮き上がり、悲鳴を上げる所、やはりスピルバーグ製作の「ポルターガイスト」(トビー・フーパー監督)のラストとそっくりになる。
↑ネタバレここまで。
突っ込もうと思えば、いくらでもアラはあるし、無理な所もある。
しかし、こういうB級作品(出演者も地味だし、予算も大してかかっていない)は、単純に観客が主人公と同化し、何も考えずにハラハラ、ドキドキすれば十分楽しめるものである。作品世界に入ってしまえば、細かい点なんかは気にならなくなる。
言ってみれば、おバケ屋敷に入って、分かっていてもいろんな仕掛けに他愛なくドッキリさせられ、あーコワかった…と楽しんで出て来るようなものである。「あんなの、中に人間が入ってるだけだよ。何が面白いんだ」と覚めた態度で文句を言ってる人間には、おバケ屋敷(=B級映画)の楽しさは分からないだろう。
映画を楽しむ…とは、そういう事なのである。
映画が本当に好きであるなら、映画をもっと素直に楽しんで欲しい。それによって、映画をもっと愛せるようになるだろう。 (採点=★★★★)
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コメント
>映画を楽しむ…とは、そういう事なのである・・・
私もお化け屋敷でキャーキャー騒ぐように、本作をドキドキハラハラ楽しみました。こういう、単純だけれども、脚本の設計が見事なサスペンス、もっと輸入してくれないかなと思います。ちょっと最近はスプラッターブーム、ホラーブームで、それもいいのだけれど、サスペンスのハラハラドキドキとは違いますから。何度も作られてきた観はあるけれど、ノゾキものって、本当に楽しいです。主人公と一緒にのぞく感じになりますね。 冨田弘嗣
投稿: 冨田弘嗣 | 2007年12月14日 (金) 01:22