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2007年12月17日 (月)

「キサラギ」

Kisaragi_2 (2007年・東芝エンタティンメント/監督:佐藤 祐市)

「ALWAYS 三丁目の夕日」の古沢良太の原案・脚本を、「シムソンズ」で注目された佐藤祐市が監督した、ワンシチュエーション・コメディの快作。

長期出張中は、特にミニシアター系の作品がほとんど観られなかった。やっと時間にゆとりが出来たので、遅まきながら見逃していた作品を追っかけている。本作は封切中も評価が高く、現在でもまだあちらこちらでアンコール・ロードショーをやっている。いいことである。近くの千里セルシー・シアターで鑑賞。

自殺したアイドルの一周忌に、ファンサイトで知り合った5人の男が1箇所に集まり、故人を追悼しているうちに、「彼女は殺されたのだ」という発言から、事態は急展開し、次々と新事実が暴露され、犯人探しが始まり、そしてラストには予想もしない結末が待っていた…。

舞台をある建物の屋上部屋に限定し、登場人物は5人だけ、そして5人の推理とディスカッションで真相を解明して行く展開…。明らかに名作「12人の怒れる男」が下敷であるが、その作品をベースに三谷幸喜が書いた「12人の優しい日本人」の味わいもある。

しかし何よりもユニークなのは、そういう古典的なパターンの中に、インターネット・サイトの伝言板に書き込みしていたオタクたちの集まり(いわゆるオフ会)という現代的なシチュエーションを持ち込んだ点にある。

互いにHN(ハンドルネーム)を使う事によって、本名も年齢も性別も隠していた人間たちが、現実に出会う事により、ネット上では見えなかった個々の人間像が露わになって来る…という設定がうまい。イチゴ娘というHNによって若い女の子だと思われていた人物が、実はむさくるしい中年男だった(香川照之、快演)…という辺りに顕著なように、ネット上では、誰もがヴァーチャルな存在になれ、それを楽しむ事が出来る。そして、中心となるアイドル歌手が、今ではこの世にいない=つまり彼女もまたここでは仮想現実なのである。

こういう設定は、登場人物の会話だけで物語が進行し、その会話で観客が、見えない光景を想像するという、(「12人の優しい日本人」に代表される)ディスカッション舞台劇と共通する要素がある。ある意味、この物語はディスカッション・ドラマの新パターンを開拓した―とも言えるだろう。それだけでも記憶されるべき、ユニークな存在だと言える。

それはさて置いても、この映画は脚本が秀逸である。巧妙に配された伏線が、寸分の無駄も無くストーリーに溶け込み、ちらちら見え隠れしていたアイテムが、すべて後段に明かされる真実(かどうかも分からないが)のヒントになっているなど、練りに練られた脚本のうまさに唸りたくなる。本年度の最優秀脚本賞は決まりだろう(「ALWAYS 続・三丁目の夕日」も古沢だ。すごい)。

佐藤祐市の演出もいい。冒頭のソール・バス風タイトル・デザインからして粋で一気に乗せられる。カット割のテンポも良く、限定された空間にも係わらず飽きさせない。回想シーンの静止画コマ落し風カットもシャレている。今後のさらなる活躍が期待される。

これ以上余計な事は言わない。ミステリー・ファンや、三谷舞台劇ファンなら間違いなく楽しめる、本年一級の日本映画の秀作である。未見の方がおられたら、近くで上映してるなら、是非劇場で鑑賞される事をお奨めする。…何気ない会話も聞き逃さないように。

 

・・・と誉めた所で、実はちょっとだけ、残念な点がある。
物語の進行中では、ほとんど姿を見せなかった、アイドル、如月ミキが、ラストで姿を見せるのだが、これがなんともC級でショボいのである。それも作者の意地悪な視点なのかも知れないが、あの程度のジャリタレに、死んで1年経ってもいまだにファンが集う…というのが私には理解出来ない(せめてZARDの坂井泉水レベルなら分かるが(笑)。もっとも、約3名はそれなりに理由があるが)。それがオタクなのだ…と言われればそれまでだが。
エンドクレジットの、ミキの歌に合わせ5人が踊るシーンも含め、この辺りのオタク的キモさが、評論家筋に受けが悪い原因なのかも知れない(発表済のヨコハマ、朝日ではいずれもベストテン圏外)。

如月ミキは、最後までその姿を見せない方が良かった。例え実像はあの程度であったとしても、姿を見せない事によって、ミキの実体は観客の想像に委ねられ、神秘的な存在になるからである。

ラストも、雨が上がった街の中に、五人の男たちが三々五々、別れを告げて去って行く…という幕切れにすれば余韻が残ってより傑作になったかも知れない(…て、それじゃ「12人の怒れる男」のラストと同じですが(笑))。

そんなわけで、このラストがやや減点。惜しい。   (採点=★★★★☆

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コメント

 トラックバック、ありがとうございます。全編、とってもいいのに、ラストが・・・私もそう思います。計算された脚本だけど、エンディングは観る者が計算外でした。しかし、今年、特に目立った邦画だと思います。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2007年12月18日 (火) 20:57

>冨田さん、コメントありがとうございます。
エンディングは作者の狙いなんでしょうけど、狙ったほどうまく填らなかった気がしますね。
しかし脚本の古沢良太、「三丁目の夕日」ではレトロな昭和30年代、本作ではインターネット時代の新感覚ドラマ…極端に違う世界をそれぞれ見事に仕上げている所が、ある意味すごいと思いますね。脱帽です。

投稿: Kei(管理人) | 2007年12月22日 (土) 00:59

1年遅れで見ました。
面白いので、も少し情報をといろいろ調べてみるとラストが駄目という評が散見されました。
個人的にはプラネタリウムはカット、でダンス、宍戸ジョウのラストはそのままでいいかと。
別れで終わるのは、それはそれで陳腐でありきたりでは。
第3者から見ればほんとにD級アイドルのミキ、それにここまで入れ込む5人(立場は違うが)。
優れたコメディ、どたばたのアフターアワーズとしては、最高なのでは?


投稿: | 2008年9月28日 (日) 17:56

今更で申し訳ないですが、
たった今見たので。

サカイさんのような女性では成り立たなかったお話だと思うし、
ミキちゃんがあーゆうアイドルだったからこそ、5人なんだと思います☆
売れっ子なら1年経っても、数えきれないくらいのファンがいるはずですよ。

そこだけが筆者さんと意見がずれたので、コメントしちゃいました。
失礼しました。

投稿: | 2010年1月 5日 (火) 23:24

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