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2008年1月14日 (月)

「勇者たちの戦場」

Homeofthebrave (2006年・ミレニアム・フィルム=日活/監督:アーウィン・ウィンクラー)

イラクでの泥沼の戦場を体験し、心に深い傷を負ったアメリカ人兵士たちが、帰還後も日常生活への順応に苦慮する姿を描いた戦争ドラマの秀作。

今も現実に、イラクには大量のアメリカ兵士が派遣され、武装兵との戦闘が行われ、死んで行く者もいるだろう。

過去に、第二次世界大戦、ベトナム戦争が終結後、帰還した兵士の苦悩を描いた作品はいくつか作られている。有名なものとしては、第二次大戦終了の翌年(1946年)公開された、ウイリアム・ワイラー監督のアカデミー賞受賞作「我等の生涯の最良の年」がある。最近作ではイーストウッドの「父親たちの星条旗」が挙げられる。ベトナム戦争ものでは、特にアメリカが敗れた戦争であるだけに、戦争に対する批判が噴き出した結果として、秀作が多い。「ディア・ハンター」「帰郷」などが代表作。アクションものとしては「ランボー」も含めていいだろう。

しかし、これらはいずれも戦争が終結し、とりあえずは平和になった時代に、過去の検証として作られたものである。本作のように、戦闘が続いている時期に作られるのは珍しい。
それだけ、“イラク戦争は誤りだ”という声が多い事を示しているのだろう。また、こうした作品が堂々と作られ、ロードショー公開されるのも、アメリカという国の懐の広さを示している。

製作・監督のアーウィン・ウィンクラーは、脚本のマーク・フリードマンと共に、イラク帰還兵たちに綿密なリサーチを行い、物語を作り上げた。ほとんどのエピソードは事実に即しているという。

激しい戦闘で、親友を目の前で殺された若い兵士トミー(ブライアン・プレスリー)、間違って民間人を射殺し、罪の意識にさいなまれるジャマール(カーティス・ジャクソン)、爆弾で右手を吹き飛ばされた女兵士バネッサ(ジェシカ・ビール)、そして多くの兵士の死を見た軍医ウィル(サミュエル・L・ジャクソン)…。
物語は、この4人の帰還兵が、戦争体験がトラウマになって、なかなか日常生活になじめず、苦悩する姿を描く。トミーは親友の死の痛手から立ち直れずカウンセリングを受ける。バネッサは義手が使いこなせず苛立つ。ウィルも戦場の記憶が消せず、医師の仕事がこなせなくなり、アルコール依存症になり、反戦運動を行う息子とも対立する。そうするうちに、ジャマールは拳銃を持って立て籠もり事件を起こしてしまう…。

物語は、それぞれが苦悩を克服しようと努力する姿を、淡々と描く。ある者は悲劇的結末を迎え、ある者はなんとか立ち直る。しかしその脳裏に刻まれた忌まわしい記憶は終生消えないだろう。

戦争に勝者も敗者もない。あるのは犠牲者だけである。…前記のような、多くの戦争映画の秀作でそれらは語り継がれて来たはずなのに、戦争はなくならない。悲しい事である。

本作も、それら秀作群に加えられるべき力作である。戦闘シーンの迫力も凄い。

特に、「我等の生涯の最良の年」とは似た点も多い。帰還兵の1人が、爆弾で手首を無くし義手を付けている点まで似ている(「我等-」では両手)。なお、同作でその兵士を演じたのは実際に腕をなくした本物の帰還兵であった。
本作では、CG技術の発達のおかげで、ジェシカ・ビールの手首から先がないシーンがリアルに描かれている。時代の違いが興味深い。

 
しかしながら、本作の劇場公開はなんと東京の銀座シネパトスと、大阪のユーラク座の2館のみの単館公開(以後細々と順次公開予定)。配給が小規模会社の日活ではやむなしか。ほとんど宣伝もされていないようだし。せっかくの秀作なのに残念な事である。

 公式ページはこちら→ http://www.nikkatsu.com/yusha/

アーウィン・ウィンクラーについても書いておこう。この人、かつてアメリカン・ニューシネマ全盛時に、ロバート・チャートフと共同でプロダクションを設立し、学生運動をテーマにした「いちご白書」、不況の時代を背景にしたシドニー・ポラック監督の「ひとりぼっちの青春」などの秀作を発表している。監督に進出してからは、赤狩り時代を描いた「真実の瞬間」を手掛けている。時代を見据えた問題作作りでは筋金入りなのである。「ロッキー」シリーズのプロデューサーとしても有名。

ともあれ、新年早々登場した問題作としてお奨めしたい。

   (採点=★★★★☆

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