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2008年1月26日 (土)

「アース」

Earth (2007年・ギャガ/監督:アラステア・フォザーギル&マーク・リンフィールド)

NHKと英BBCが、五年の歳月をかけて撮影・制作したテレビ・ドキュメンタリー、「プラネット・アース」を、劇場用に再構成した大自然ドキュメンタリー。

登場するのは、ホッキョクグマの母子や、カナダのトナカイの群れ、乾季に水を求めて異動するアフリカゾウ、餌を求めて長い旅を続けるザトウクジラの親子などを中心に、森林帯や熱帯雨林の動植物の生態がユーモラスに捕えられている。

獲物を狙うオオカミやチーターやライオン、ホオジロザメなどの弱肉強食世界も描かれているが、子供にも見せる為か、獲物に喰いつくシーンはカットされている(自然界の摂理は、子供にもグロテスクにならない程度には教えてもいいと思うのだが…)。

極楽鳥の求愛シーンが楽しい。メスにいろんなポーズを決めるシーンは抱腹絶倒。阿波踊りよろしく、両手でバランスを取り、湿地帯を歩くサルたちも愉快。

 
これらを見ていると思い出すのが、かつてウォルト・ディズニー・プロで作られた“大自然の驚異”ドキュメンタリー・シリーズである。
ちなみにこれらは当時、多くの学校が、映画館を借り切り、学外団体鑑賞として生徒全員を映画館に連れて行き、集団で見せていたものであった。

第1作は、1953年の「砂漠は生きている」。もう半世紀以上も前の作品である。
こちらもやはり、砂漠に生息するトカゲやヘビ、サソリや毒グモといった動物たちの姿を望遠レンズでユーモラスに捕えており、バックの音楽も動物の動きにピッタリシンクロし、大笑いしたものだった。
特に感動したのが、砂漠の珍しい植物の花が、コマ落し撮影によりハイスピードで咲いて行くシーンで、観ている子供たちが、花が咲く度に一斉に「ワアーッ!」と歓声をあげていた。さすが子供に夢を与え続けて来たディズニー、子供たちを喜ばす術はよく心得ている。同年のアカデミー最優秀長編記録映画賞を受賞。
以後、第2作は、'54年の「滅びゆく大草原」、第3作は'56年の「生命の神秘」と、ロケ地は異なれど描き方はほぼ同工異曲、コンスタントに作られていた。

本作の構成や自然描写は、これらディズニー・ドキュメントがやって来た事と、基本的にはほとんど同じである。ちゃんと、コマ落し撮影で花がハイスピードで咲くシーンもあるし、ユーモラスな動物の生態もある。

…と言うより、本作に限らず、その後に作られたあらゆる自然界ドキュメンタリーは、ほとんどがディズニー・スタイルを模倣していると言っていいかも知れない。つくづく、ディズニーの偉大さを改めて感じる。

しかし、時代の進歩を感じるのは、コマ落し撮影にもどうやらコンピュータによる自動制御が行われているようで、移動する太陽をピタリ画面の中心に置きながらカメラも移動するのをコマ落しで撮っているのは、手動でしか出来ない昔なら困難だっただろう。季節の移り変わりまでハイスピードで、しかもアングルが移動しながら捕えられているのには唸った。

ただ本作において残念なのは、かなりの観客が入っていたにも関わらず、「砂漠は生きている」では沸き起こった感動の歓声が、私が観た劇場ではあんまり起きなかった事である。コメディ作品でも、笑い声がほとんど聞かれないのと同様、最近の観客はオトナしい気がする。

それと、最近は学校からの集団鑑賞というのはやっているのだろうか。こういう作品は教育の為、すべての子供たちに見せてあげて欲しい。子供500円という料金もいいが、朝一番、9時くらいから劇場を学校に低料金で開放した方が、どっちにもプラスだと思う。

 
・・・と、ちょっと話がソレたが、そんなわけで、本作はそんなかつてのディズニー“自然の驚異”ドキュメンタリーを私に思い出させてくれた点だけでも、十分楽しい作品である。動物ドキュメンタリーが好きな方にはお奨めである。

が、僅かばかり難点を挙げれば、トータル的なコンセプトがあいまいな点である。冒頭とラストのホッキョクグマのエピソードで、地球温暖化への警鐘を鳴らしているのは分かるが、あとのエピソードは温暖化とは関係ない。単に地球上の動植物の生態を、かつてのディズニー・ドキュメンタリーそのままに描いているだけに過ぎない。

温暖化問題など、わざわざ説明しなくても、地球の自然の美しさを丁寧に描き、“この美しい、かけがえのない地球の自然を守ろう”と訴えるだけで十分ではないだろうか。なんか、ラストの地球温暖化コメントが、取って付けたような感じを受けてしまう。

それと、私が観たのは渡辺謙ナレーションの日本語版でなく、英語ナレーション字幕入りだったが、北極の白い氷がバックのシーンでは、字幕が読み難くて困った。第一、字幕では小さな子供に読めない漢字があって理解出来ない事になる。
こういうドキュメンタリーでは、すべてのプリントを日本語版にすべきではないか。字幕版を作成する意味が分からない(昔のディズニー・ドキュメンタリーはすべて日本語版だった)。考えて欲しいと思う。

…とまあ、難点はいくつかあるが、それでも本作は良く出来たドキュメンタリーの秀作としてお奨めしておきたい。繰り返すけど、小学校低学年の児童には、学校から是非映画館に連れて行って、見せてあげて欲しい。どんな授業よりもタメになると思う。   (採点=★★★★

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(付記)公式HPに、巨大な隕石が地球に衝突し、地軸が傾いたのが、50万年前…となっているが、これはナレーションでも言っている通り、50億年前の誤り(正確には46億年前)。

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コメント

最近は小学校の集団鑑賞なんて話はないようですね~学校の先生に尋ねたら、視聴覚室も立派になっているので学校で映画を観ることが多いとか・・・
団体鑑賞するならナレーションは少なめにして、授業で討論するのがいいのかな~

投稿: kossy | 2008年1月26日 (土) 00:56

>kossyさん、早速の情報ありがとうございます。

やっぱり集団鑑賞はやってませんですか。
視聴覚室、確かに良くなってるでしょうが、やはりビデオでは画質が悪いですからね。
出来れば劇場の大画面で見せてあげたいと思いますね。感動が違いますから。
でも、地方じゃ映画館そのものがない所も多いですから、そもそも無理か。私の田舎もとっくに映画館なくなってますからねぇ。トホホ。

投稿: Kei(管理人) | 2008年1月26日 (土) 01:59

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