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2008年1月 3日 (木)

「茶々 天涯の貴妃」

Chacha_2(2007年・東映/監督:橋本 一)

あけまして おめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 

興味が湧かなくて、全然見る気はなかったのだが、製作費10億をかけた大作でありながら、興行成績ランキングで、初登場で圏外(11位)という、想像を絶する大コケぶりを聞いて、“ひょっとしたら、これが東映京都撮影所で製作される、最後の時代劇になるのではないか”という危惧を感じ、それなら見納め(?)に見ておかなくては…という思いにかられ、かくして、本年最初の鑑賞作品が本作と相成ったのである。

 
実際、本作の完成までには、かなり紆余曲折があったと聞く。
最初は、前年の「大奥」が、最近の東映作品としてはかなりのヒット(23億円)になったので、今年の正月用に「大奥2」を考えていたらしい。
しかし、フジテレビとの調整がうまくいかず、代替企画が難航し、やっと昨年8月3日に製作発表(ただしこの時点で主役の女優がまだ決まっていない。主役不在の製作発表と言うのも前代未聞)、その後やっと主役が元宝塚の和央ようかに決定、9月24日クランクイン、完成が12月初旬…という無茶苦茶な強行日程。よくまあ間に合ったものである。

この日程の窮屈さが災いしたためか、配役も急ごしらえ感が否めない。長女茶々、次女はつ、三女お督の3姉妹のうち、お督の寺島しのぶが、見た目にはとても三女に見えず、一番年上に見えてしまう(子役が、3人中一番チビであどけなかっただけに余計)。顔立ちも他の2人とは違和感がある。秀吉の渡辺篤郎はまあまあだったが、徳川家康役の中村獅堂はもっとデップリしてなくては。真田幸村や豊臣秀頼役も、まるで聞いた事のない新人を使っていたが、やはり存在感が薄い。

Chacha2_2 そして和央ようかである。ネットでは酷評されているようだが、確かに表情が硬い。凛とした、威厳を保つ…というキャラクターには違いないが、いつも口をヘの字に曲げてて、感情の起伏に乏しい。それに、はっきり言ってあまり美人じゃない。ただ、発声については宝塚の舞台そのままという意見が多いが、先入観に邪魔されているのではないか。私はそれほど気にならなかった。「柳生一族の陰謀」でも、萬屋錦之介のセリフはあんな舞台調の発声だった。逆に、舞台俳優でなかったら威厳を感じさせる発声が出来なかったかも知れない。

しかしやっぱり、主役としてのオーラが感じられない。舞台の、しかも元男役のスターが、いきなり主役を演じて成功を収めるほど映画界は甘くない(天海祐希も、映画デビュー当時は散々だった)。もっと、映画(特に時代劇)に出て来る女性の演技を勉強すべきだろう。演出サイドも、徹底して鍛え直すべきだが、時間がなかった事と、監督がまだ若くて大作の経験がない橋本一ではその辺も荷が重かった気がする。例えば、山田洋次だったら徹底して直させただろう(「武士の一分」では、やはり宝塚出身の壇れいを実に上手に使って成果を収めていた)。寺島しのぶが、さすがと言うか、貫禄ある演技で堂々役柄をこなしていたのと対照的である。

 
…まあ、配役については文句ありだが、映画そのものは思ったほど悪くない。ややダイジェスト的部分なきにしもあらずだが、要所はよく抑えて、分かり易い展開。それぞれの役者の感情のうねりもきちんと表現されている。合戦シーンのカット割りも、橋本一監督、さすが東映で長く助監督をやって来ただけあって、ソツなくこなしている。何より、CG、特撮合成等が、過密日程であったにもかかわらず本編にうまく溶け込み、見事な成果を挙げている点は特筆ものである。東映京都撮影所の底力を見せたと言えよう(ただし一部は東京撮影所も協力しているそうだ)。

やや問題があるのは、脚本構成である。大ベテラン、高田宏治の手によるものだが、やはりこれも時間がなかったのか、それともさすがに寄る年波(76歳である)のせいか、昔の作品のような緻密さがない。例えば、茶々が秀吉を憎み、一時は殺す絶好のチャンスがありがら何故か殺せず、その後寵愛を受け、秀吉が乱心、倒れ込んだ時にはすがり付き、最後には「この城は太閤さまのものぞ」と、城と運命を共にするにまでに至る、その心の変遷がもう一つきめ細かく描かれてはいない。はつ(富田靖子)が、ナレーションを勤めている割には存在感が希薄なのもどうかと思う。

茶々が徳川の本陣に、甲冑姿で乗り込むシーンはカッコいいが、それなら兜も付けないとおかしい。それで、最後まで一度も合戦場に赴かないのだから、何の為に甲冑を着装しているのか分からない。結局は宝塚ファン向けのサービス・カットなのだろう。…まあしかし、スター主演の娯楽映画では、それも許されていいと私は思っているので大目に見よう。

そういう難点はあるものの、ともかくも、豪華な着物(1億円かけたという)や、合戦シーンの迫力(ただ血糊はやや出過ぎ)、ラストの金粉降り注ぐ大スペクタクル・シーンのあでやかさと悲壮感はなかなかの見ものである。正月映画らしい華やかさのあるエンタティンメントとしてはよくまとまっており、決して駄作ではない。

 
これがベタコケとなった要因は、まずは企画の選定の失敗だろう。「大奥」はテレビで放映されて知名度があり、テレビ局もスポットを打つからある程度の集客は期待出来る。本作は原作が知名度がなく、淀どのといっても若い人は関心がない。主演スターも、和央ようかと言っても宝塚ファン以外は誰も知らない。その他の役者も地味過ぎる。私のようにマメに映画を観る者でも鑑賞意欲が湧かないから、中高年観客も呼べないだろう。
製作発表から公開までの時間が少な過ぎ、十分な宣伝が出来なかった事も痛い。かといってこの題材では、公開を延期したところであまり客は増えなかっただろうが。

ヒットさせようと思うなら、テレビ局とのタイアップは不可欠と思うが、本作の冒頭の製作委員会のタイトルを見て愕然とした。
なんと、委員会の会社名が、東映、住友商事、東映ビデオ-この3社しかないのである。テレビ局は1社も入っていない

東映ビデオは身内だから、実質的な外部参加は1社だけである。…これは異常である。ちなみに、「武士の一分」は12社が製作委員会に参加。テレビ局はテレビ朝日、朝日放送、名古屋テレビと3社も入っている。これから比べても、本作の委員会構成はちょっと考えられないくらいお粗末である。
おそらくは各社に打診したものの、この内容ではとてもヒットしない…と、ことごとく逃げられたのではないか。その時点で、製作中止した方が良かっただろう。

それにしても、無残としか言いようがない。製作費、宣伝費から見て、空前の大赤字は必至だろう。
そうでなくても、昨年の東映配給作品は、「Dear Friends」、「大帝の剣」、「包帯クラブ」、「オリヲン座からの招待状」、「エクスクロス 魔境伝説」…と、初登場で圏外又は下位(*)となったベタコケ作品が本作も入れて6本!もある。前記の題名だけを見ても、とても全国拡大公開に見合わない、どちらかと言えばミニシアター向けにふさわしいような作品が目立つ。企画サイドが完全に迷走、混乱してるとしか思えない。これでは末期症状である。

東映は本当に大丈夫なのだろうか。冒頭の、私の不安が現実にならない事を祈るのみである。     (採点=★★★

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(*)これら6本のうち、「大帝の剣」を除く5本とも、初登場で11位以下。「大帝の剣」のみ初登場8位スタート。ただし3週目にはもう圏外となった。(いずれも興行通信社発表)

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コメント

明けましておめでとうございます。
俺も観る予定ではありませんでした・・・
とにかく元日には何かを観なくては!というだけで選んでしまった映画です。
それでも炎上する大坂城のシーンでは泣いてる人もいたし、感情移入はしやすかったかな~などと思います。それもこれも寺島しのぶのおかげなんでしょうけど・・・
ベタコケ作品が6本というのは驚き!
大丈夫なんでしょうか・・・

投稿: kossy | 2008年1月 3日 (木) 09:57

けいさんTBありがとう。
余りにも評判の悪い映画ですね。
でもおっしゃる通り、世間の評価よりは少しマシかもしれません。
一番の問題はキャストかもしれませんね。それとテーマが陳腐化しているということかな。
東映の株主だったこともあり、最近の映画は全部観ているのですが、いつも観客はガラガラで、僕も大丈夫かなと心配ですね。

投稿: ケント | 2008年1月 3日 (木) 10:09

>kossyさん
最初の方の、お市(原田美枝子)自害シーンと、ラストでは、泣いている人がかなりいましたね。ちゃんと売れば、女性層にはウける内容なのに、ベタコケとはもったいない事です。
東映映画で育ったような世代ですので(笑)、頑張って欲しいんですけどねぇ。


>ケントさん
本当に東映はこのところ、いつもガラガラですね。私が行ったシネコンでは、一番小さい小屋で(シネコンは割切りが早いです)、全部で15人ほどしかいませんでしたが(苦笑)。早々に打ち切られそうな予感が…。本当に大丈夫か、東映。

投稿: Kei(管理人) | 2008年1月 3日 (木) 16:46

和央ようかさんは、よくやってたと思います。

はなまるに出演のときは、態度悪くて嫌な感じがしたので、映画を観るのも躊躇しましたが、悪いイメージが覆せて、見直せたほどです。

投稿: まなたん | 2008年4月 7日 (月) 06:52

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