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2008年2月11日 (月)

「歓喜の歌」

Kankinouta (2008年・シネカノン/監督:松岡 錠司)

立川志の輔の同名の新作落語を元に、「東京タワー~オカンとボクと、時々オトン」の松岡錠司が監督したハートフル・コメディ。

大晦日に、市民会館のコンサート会場を、よく似た名前のママさんコーラス・グループ2組にダブル・ブッキングしてしまった為に巻き起こる一騒動。双方とも引く気はない。果たしてコンサートは無事開催されるのか・・・。

シネカノンは、こうした、歌や音楽をメインとした秀作が多い。井筒和幸監督の「のど自慢」「ゲロッパ」、フォーク・ソング「イムジン河」が取り持つ「パッチギ!」もそうだし、ハワイアン音楽に合わせて踊る「フラガール」も入れていいだろう。まあ、心温まるお話を探せば、音楽とかダンスという題材は、メンバーが力を合わせて一つの目標に向かって進む…という感動的なテーマに繋がるからだろう。シネカノンに拘らず、こちらもそういった傾向の作品が多いアルタミラ・ピクチャーズの「Shall We ダンス?」「スウィングガールズ」などもこの手のジャンルの力作である。

本作のストーリーは、ちょっとした手違いから次々とトラブルが起こり、それらをタイムリミットまでに如何にして解決し、ハッピーエンドに導くか…という、これまたコメディの王道パターンでもある(スティーブ・マーティン主演の「大災難P.T.A」など)。

そして、シチュエーションとして面白いのが、さまざまな2極対立構造である。コーラス・グループは、片やセレブの奥様たち(レディース)の、まあ金持ちの道楽、一方は生活のやりくりにに追われながらも頑張る庶民グループ(ガールズ)。主人公とママさんたちとは、まさに官=民の対立構造である。

こうした、本来は交じり合いそうもない2つのグループや階層が、物語が進行するうちに、いかに心を通わせ、融和して行くか…これが作品のキモである。

 
主人公飯塚(小林薫)は、典型的なダメ役人。仕事はいいかげん、左遷され市民会館の主任に降格、外人ホステスに入れ揚げ、借金は作る、嫁さんからは離婚届を突き付けられる、…とまあ、トラブル山積み。

そんな彼が、自分の蒔いた種でダブルブッキングを何とか解決せざるを得ないハメに追い込まれる。…それでも最初は「どうせ暇を持て余しているオバサン連中の道楽さ」とタカを括っていたものの、どちらも一歩も引かない。ガールズ側のリーダー五十嵐純子(安田成美)から、合同コンサートの提案が出されるが、それだと会場の座席が決定的に足らない。絶体絶命…。

そうしたドン詰まり状況が変わるのが、昼の出前に頼んだラーメンを、食堂がタンメンと間違えて届けた事から。
飯塚は間違いをしつこく追求するが、食堂側がお詫びにと届けて来た餃子から、彼の心に変化が生じる。
自分も今は追及されている側であり、“過ちに対して、どう誠意を持って当るべきか”を改めて反省する事となる。

ただ、彼が反省したのは、単に“誠意”の大切さを学んだだけではない
娘に餃子を届けさせた食堂のおばさん(藤田弓子)は、亭主が倒れた為、自分の経営する隣のリフォーム店と食堂を掛け持ちし、それでもママさんコーラスに参加している。―どんなに忙しくても、精一杯、充実した人生を歩んでいる…そして仕事の上の過ちには、心をこめた対応をする。

自分の、仕事にも人生にもいいかげんで、他人の痛みを分からない、そんなみっともない生き方に比べて、彼女の人生哲学はなんと生活力と前向きさに溢れている事か…。飯塚は初めて自分の生き方を振り返り、自分も人の為に役に立つ事が出来るのではないかと考え、心を込めて真剣に行動してみる気になるのである。

食堂の娘(朝倉あき)が、母について語る、そのシーンは感動的である。泣けた。―このシークェンスが、この映画の最大のポイントである。

ここの場面で、私は黒澤明監督の傑作「生きる」を思い出した。
長い役所生活で、無気力に無目的に、死んだような人生を送って来た男(志村喬)が、胃ガンで死を宣告され、初めて、残された人生に出来る事はないかを考え、少女の言葉にヒントを得て、住民の為に公園作りに奔走する。

役所勤めの無気力な公務員が、ある出来事をきっかけに、それまでの怠惰な生き方を反省し、大きな目的の為に死に物狂いで行動を開始し、ついにそれを完成させ、人々から喜ばれる。

…といった具合に、おおまかなプロットはほぼ同じである。

この映画が感動的なのは、そのプロットを中心として、物語が走り出すからである。そして、2極の対立構造が、そこから急速に融和に向かい出すからである。

セレブと庶民のコーラス・グループは、対立をやめ、合同でコンサートを行う事に合意する。そのきっかけが、飯塚の奔走で、セレブ側がコーラスガールズの歌を聴き、その歌声が予想以上に素晴らしかった事に心を打たれたからである。―いい音楽は人の心を結びつけるのである(本職の歌手でもある、スーパー店員役の平澤由美のソウルフルな「ダニーボーイ」の歌唱が見事)。

もう一つの対立軸、官と民も、飯塚が、お役所…という立場を捨て、大衆の目線で人々の為に奔走する事でこれも融和に向かう。

ラストの大団円で、素晴らしい歓喜の歌が響き渡り、飯塚の妻も、飯塚を見直し、離婚の危機も回避されそうである。…心がふっと温かくなる、まさしく素敵なハートウォーミング・コメディの快作である。

 
市民会館の改装費用はどうなるのかとか、スナックのボス、葛飾(でんでん)がらんちゅうくらいで借金をチャラにするか…とか、突っ込みどころはいっぱいある。葛飾が抱えてるらんちゅうの額入り写真は、いつ撮ったのだ…とかも(笑)。

しかし、そんな事は映画に感動すればどうでもよくなる。
例え、あちこちにアラがあろうとも、突っ込みどころがあろうとも、一箇所でも感動的な、心を揺り動かされる素敵な場面があれば、それだけで映画を褒めてあげていいと思う。

ちょうどこの映画の飯塚のように、ダメな所は一杯あるけれど、一ついい事をした彼を褒めてあげるように…。

この映画を楽しむ為には、これは雪が降り積もる大晦日に起きたファンタジーと思えばいいのである。ファンタジーなら、何が起きても不思議ではない。同じような、雪の降る街でのハートウォームな奇跡の物語「素晴らしき哉、人生!」(フランク・キャプラ監督)を思い出してもいい。

映画とは、そのようにして楽しむものなのである。

 
ただ、残念な点が1箇所。葛飾の依頼で、市長室にらんちゅうを盗みに入るくだり。五十嵐までが「人の為になるなら盗みも構わない」と肯定するが、これは道徳的にどうかと思う。子供や若い人がこれを本気にしたら問題である。どんな取るに足らないものだろうと、泥棒は良くない。このエピソードはカットするか、最後に盗んだ罪を償わせるシークェンスを入れるかすべきであった。この点で、1つ減点である。    (採点=★★★★

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コメント

トラックバック、ありがとうございました。日本映画を立て続けに観ています。こうやって観ていると、日本映画はいいです。一頃とは随分と違いますが、まだまだ大丈夫な気がしました。選んで観ている今、これからは、日本映画に比重を置いて観ていこうと思っています。本当は、日本に生まれ、日本人にしかわからない日本の空気感を漂わせる作品をたくさん観たいのですが・・・。本作のような映画には、ほっとさせられます。優しさのある人たちのドタバタを楽しませてもらいました。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2008年2月25日 (月) 21:54

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