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2008年2月 5日 (火)

「結婚しようよ」

Kekkonsiyouyo (2007年・松竹/監督:佐々部 清)

吉田拓郎の大ファンだという佐々部清監督が、30年来の夢だった、“吉田拓郎の歌を全編にフィーチャーした映画”を実現したホームコメディ。

52歳の平凡なサラリーマンの香取卓(三宅裕司)の楽しみは、毎晩妻の幸子(真野響子)、長女の詩織(藤澤恵麻)、次女の歌織(AYAKO)の家族4人全員で食卓を囲むこと。ある日、彼が駅前で吉田拓郎の曲(「落陽」)を演奏するバンドに合わせて歌を口ずさんでいた時、充(金井勇太)という青年と知り合う。今どき、家族全員が揃って食事するなんて信じられない…と不思議がる充を卓はそれを証明する為、自宅の夕食に招く事になる。…

とまあ、確かに充でなくても、今どき希少価値である家族団らんの食事風景が、毎日厳守されてる―なんて信じられない。…そもそも、サラリーマンで(しかも不動産屋だ)、毎日定時に帰れる事なんか極稀だ(私は毎日帰宅が早くて9時過ぎだった)。
おまけに、自分流のルールを家族全員に強制している点で、これもまた今の時代には死滅したような、家父長権威主義である(充からもそう指摘され、逆ギレしたりする)。

お話としてはかなりベタである。いつまでも家族との団らんが続くと思っていた卓だが、やがて娘が結婚したいと言い出した事に動転し、相手の男・充(元々卓が紹介したようなものだが(笑))をぶん殴るが、結局は二人を許し、結婚式に出席する。―さだまさしの「親父の一番長い日」そのまんまのドラマである。
そのお話の間に、吉田拓郎のヒット曲20曲が流れ、卓が若い頃、フォーク・シンガーになりたかった夢を断念した話、卓が斡旋した田舎の農家で第二の人生を歩み出す老夫婦・菊島夫妻(松方弘樹・入江若葉)のエピソード…等が並列して描かれる。

内容だけ聞けば、今どきちょっと見当たりそうもない、かなり古臭いパターンのお話である。

しかし、そのありえないような、夢の世界を信じさせるのが映画の素晴らしい所である。
佐々部監督らしい、丁寧な語り口と、出演者の好演が相まって、いつの間にか作品世界に没入させられ、ラストではついホロリとさせられてしまう。

 
今の時代、忘れ去られてしまっているような、家族が1つの食卓を囲み、食事をする光景…田舎の、水道も通っていない、古びた旧農家を終の棲家とする菊島夫妻…。

昔は、そんな風景は、確かに存在した…だけど、時代は変わり、そうしたものが古い、時代に合わないと忘れてしまって、人との繋がりも疎遠になり、夢を追う事もなく、ギスギスしてしまった現代。

そんな時代だからこそ、中高年世代にとってはこうした光景は、とても懐かしく、心に痛みを覚えてしまうのだろう。「ALWAYS 三丁目の夕日」が大ヒットして中高年世代に受け入れられたのも、根は同じ所にあるのだろう。

そこに、全編を彩る吉田拓郎メロディである。拓郎世代の中高年は不覚にもやられてしまうだろう(ただ、「襟裳岬」(しかも本人じゃない)だけはいらないと思う)。―特にラスト間際の一大イベントのおマケ映像、これには泣けます(映画を見てのお楽しみ)。
なお、ライブハウスの名前が「マークⅡ」だったり、公衆浴場の煙突に「旅の宿」と書かれてあったりする小ネタも楽しい。

ともあれ、冗談であるレイティング=R45(45歳以上推薦)の世代で、若い頃フォークソングに夢中になった人たちにはお奨めの(無論若い人でも楽しめる)、ハートフル・ホームコメディの佳作である。   (採点=★★★★

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(さて、お楽しみはココからである)
この映画の配給は、松竹である。―松竹と言えば、ホームドラマ、人情コメディはおハコである。その昔、大船調と呼ばれ、戦前の島津保次郎清水宏、戦後の木下恵介、代表的な存在である小津安二郎、―その流れを現代にまで引き継ぐ山田洋次…。
と、まさにこれは伝統…とまで言える、松竹という会社の風土なのである。

そこで本作を見ると、意識してか知らずか、過去の松竹ホームドラマとの類似点がいくつか散見されるのである。

Higanbana 例を挙げれば、小津安二郎作品には、娘を嫁にやる父親の哀感…を描いた作品が数多くある(「晩春」、「麦秋」、「彼岸花」、「秋刀魚の味」など)。
「彼岸花」
(58)では、頑固で家父長的な父親(佐分利信)が、娘の結婚話にうろたえ、不機嫌になる
Bakusyuu 「麦秋」(51)では、子供が結婚したのを機会に、老夫婦が田舎の田んぼに囲まれた質素な家に移り住み、余生を送るというエンディングであった。
「秋日和」(60)を始め、多くの小津作品には、大学時代の同級生が(大抵は3人)、中高年となった今でも集まってはAkibiyori酒を飲む…というシーンがしばしば登場する。
本作のラスト近く、部屋の片隅に、(今どき見かけない)“ブタの陶器製蚊取り線香入れ”がさりげなく置かれているが、こういう小道具の配置も、小津作品ではよく見る光景である。

山田洋次作品にも、家族が心を寄せ合って生活する事の大切さを描いたものが多い。代表作「家族」もそうだが、最新作「母べえ」では、娘2人を含む4人家族が、食卓(卓袱台)を囲んで一緒に食事する…という、本作と同じ絵柄が登場するのにはニンマリしてしまう。なお充役の金井勇太は、山田洋次監督の「15才・学校Ⅳ」で主役の少年を演じ注目された人である。

 
そうやって見てくると、松竹出身でもない佐々部清監督の本作が、松竹で配給されたのは、きわめて当然であり、必然であるとも言えるのである。

思えば、佐々部監督の演出手法は、丁寧かつ誠実であり、しっとりと人間を描くという点においても、山田洋次監督作品との共通項が多い(ちなみに、佐々部監督が松竹で撮った前作「出口のない海」の脚本が、山田洋次であるというのも奇妙な縁である)。
今回の作品を観ていると、佐々部演出は、松竹のカラーにまさにピタリ、マッチしている。まるでずっと松竹作品を撮って来たかのようでさえある。

山田洋次監督も既に77歳。…そろそろ後継者が必要である。
あるいは、佐々部清こそ、松竹伝統の大船調ホームドラマ作りの後継者になるのではないか。…私はそんな期待を抱いている。

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コメント

こんばんは。

この映画、ほんと松竹大船でしたね。
ぼくも小津安二郎の世界を思い浮かべました。

投稿: えい | 2008年2月 5日 (火) 23:45

佐々部監督と松竹映画という違和感のためもやもやとしていました・・・
ホームドラマならばやっぱり松竹なんですね。
カメラは小津風ではなかったけど、俺も思い出しました・・・さすがにどれがどの映画だったか覚えてませんでしたが・・・

投稿: kossy | 2008年2月 7日 (木) 21:06

>えいさん
そうです。“家族の絆”“娘の結婚”“夫婦のあるべき形”…こういうテーマを中心に据えた映画を作れる会社は、松竹だけですね。さすが伝統…。
そうそう、金井勇太が出ていた山田洋次監督の「15才・学校Ⅳ」は、思えば松竹大船撮影所の最後の作品でした。

>kossyさん
小津調のカメラアングルはなかったですけど、ブタの蚊取り(一家の名前も香取家(笑))が写ってたとこだけローアングルぽかったような…。

投稿: Kei(管理人) | 2008年2月 7日 (木) 22:19

トラックバック、ありがとうございました。確かに、松竹の映画を思わせました。20年前ならば、これは(松竹の)添え物になったのではないかという気持ちになり、私はそのことばかり書いてしまいましたが・・・。小津監督作品を私は知らない世代ですが、ほとんど(トーキー以降)を映画館で観ています。どれも安心して観ていられる作品で、現在の山田洋次監督がそれを唯一引き継いでいますね。こういう雰囲気の作品が少なくなっていくのが寂しいと思っていたところ、本作で、何か懐かしいものを感じました。Keiさんの評論を読ませていただき、やはり佐々部清は、松竹の味がわかっている監督だなと・・・。この味わい、受け継いでほしいものです。柔らかぁい気持にさせられた、どこか懐かしいような映画でした。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2008年2月15日 (金) 23:30

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