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2008年3月 2日 (日)

「ガチ☆ボーイ」

Gatiboy_2 (2008年・ROBOT=東宝/監督:小泉 徳宏)

この題名に主演が佐藤隆太。なので、あまり触手が動かなかったのだが、製作会社がROBOT、監督が一昨年の佳作「タイヨウのうた」小泉徳宏…と聞いて俄然興味が湧いた。同作の批評で、当時まだ25才!のこの新人監督を、
この若さでありながら、観客を映画に引き込む見事な演出ぶり。まさにスピルバーグのデビュー時を思わせる。これからが楽しみな、日本映画のホープである…と手放しで誉めたことがあったからである。

その小泉監督の2作目とあっては観ないわけには行かない。で、初日に観たのだが…

面白い!そして、笑えて、泣ける、感動できる…これは、今年のイチ押しの傑作である。是非観る事をお奨めする。

原作は、劇団モダンスイマーズによる舞台劇「五十嵐伝~五十嵐ハ燃エテイルカ」(蓬莱竜太作・演出)。残念ながらこの映画を観るまで全然知らなかったが、伝説の舞台劇として熱狂的な人気があるのだという。

テーマは、学生プロレスである。主人公・五十嵐良一(佐藤隆太)が、所属する北海道学院大学の、学生プロレス研究会(HWA)の門を叩き、懸命に練習を重ね、プロレス選手としてデビューする…という展開を聞くだけでは、またぞろ「ウォーターボーイズ」まがいの青春スポコンもの…と単純に思ってしまうだろう。―事実、ポスターや宣伝を見てもそんな風なイメージを受けてしまう。

ところが、主人公には人に知られたくない、ある秘密があった。彼は、自転車事故で、一旦眠ると、前日の記憶が消えてしまう、「高次脳機能障害」を患っていたのである。

前半ではその事実が観客にも伏せられているが、いつもポラロイド写真を撮りまくり、話を聞く度にぶ厚いノートにメモをする…という奇妙な行動から、何かある…と感じさせるミステリアスな展開が面白い。

学生プロレスのメンバーが、おかしなリングネーム(玉子王子だとかコケティッシュ谷とか)に、まるっきりヤラセのパフォーマンスで笑いを取ったり、メンバー仲間がはしゃいだツッコミ会話を交わす辺りも、よくある青春コメディのパターンを踏襲しているが、そこに五十嵐の難病を絡ませる事によって、表面的には陽気な素振りを見せるが、内面では病に苦悩し、それでもプロレスを通して、生きている実感を獲得して行く主人公の、素晴らしい人間賛歌ドラマにもなっているのである。

五十嵐を演じる佐藤隆太が素晴らしい。これまではいい役者とは思っていなかったが(失礼)、本作では、仲間たちの前ではいつもの、陽気でちょっと頼りないキャラを見せながら、家に帰ると一転して、シリアスで暗い表情になる、その二面性を絶妙に表現していた。
その辺りを小泉監督は、伏線を巧妙に張りめぐらせ、五十嵐の病が観客に明らかになった直後に、初めて彼の自室の様子を見せ、セリフなしで映像だけで彼の苦悩と努力の跡を的確に示すなど、若手とは思えないほど達者な演出力を見せる。

家族の描き方もきめ細かい。原作では書道教室の先生だった父親を、映画では下町の寂れた大衆浴場の経営者に変え、息子の将来を案じ、家業をどう守るかについても苦悩する、奥行きの深い役柄を創案している。父親役の泉谷しげるが、そうした難しい役柄を好演。
また、妹・茜(仲里依紗)も、兄の事を心配し、それでも兄を応援し、ラストでは重要な働きをするなど、丁寧に描きこまれている。

五十嵐が毎日記録している、「明日の僕へ」と題するノートの存在もうまい。前日の記憶がない為、五十嵐の生きてきた足跡が、すべてこのノートに記されている。それを何度も読み返す事によって、彼は自分の歩んで来た人生を実感出来るのである。

(以下ネタバレにつき隠します。映画を観た方のみドラッグ反転してください)
このノートには、彼の苦悩も余すことなく綴られている。記憶がないのは生きていないのと同じだと絶望し、自殺を考えた事も書かれている。しかし、記憶は失われても、体に残った痣や痛みは消えない。それが生きている証しだと達観し、生きる勇気を取り戻して行く、その五十嵐の思いに、観客は熱く感動し、泣けるのである。
父親は、息子の気持ちが理解出来ず、家族はバラバラになりかけるが、最後のプロレス試合の日、父は事故以来初めて息子の部屋に入り、壁に貼られた無数の写真、そして「明日の僕へ」ノートを読む事によって、初めて息子を理解する。もうここでも泣ける。試合後、会場の隅で心から息子に拍手を送る父親の姿に、また泣ける。
この物語はまた、そうした、家族の絆を取り戻して行く、父と子の物語でもあるのである。

↑ ネタバレここまで

そしてラストのクライマックス、強敵、シーラカンズとのガチンコ対決シーンが大興奮ものである。監督曰く“ノーCG、ノーワイヤー、ノースタント”(まるでタイ映画「マッハ!!!!!!」である(笑))。佐藤隆太以下、スタントを使わず本当に激しいプロレス技を体当たりで演じている。…それだけでも感動するが、敵の荒技に、仲間が何度「ギブアップしろ」と呼びかけても、絶対に諦めず、ボロボロになっても何度も立ち上がって来る五十嵐の不屈の戦いぶりにまた涙。ついには会場の観衆全員が声援を送るシーンにはボロボロ泣けた。もうとにかく後半は涙でグショグショ。観に行かれる際には、タオル・ハンカチは必需品である。持参お忘れなく。

 
本作が素晴らしいのは、スポ根学園コメディと、難病テーマとが絶妙にリミックスし、全体のトーンを揺るぎなく、ラストの感動クライマックスに集約させた演出の巧みさであり、そして、難病を抱えても、決して絶望してはいけない、毎日生きていることを実感し、一日一日を精一杯に、ひたむきに生きる事が大切なのだ…というメッセージの訴求力である。

Koizumi 前作でも感じたが、小泉監督は、難病を描くにしても、よくあるパターンの陰々滅々とした情緒過多シーンは登場させない。無駄なシーンはばっさり省略し、生きている事の喜びを、あくまで明るく、元気いっぱい、テンポよく溌剌と描いている。そこが素晴らしい。

脚本を書いたのは西田征史。本作でレフェリー、ボラギノール日野役も演じている。元はお笑い芸人だそうな。その巧みな構成力は特筆ものである。今後が注目である。

 
「高次脳機能障害」を扱った映画は最近多い。10分しか記憶が続かない「メメント」や、記憶障害を扱った「50回目のファーストキス」、小泉堯史監督の秀作「博士の愛した数式」、などがあるが、重いテーマを見失わずに、かつ良質のエンタティンメントとしても成立している本作のような作品は珍しい。

五十嵐に呼びかける、仲間の奥寺の言葉が素敵である。「自分の記憶に残らなくても、みんなの記憶に刻んでやれよ」…名言である。

そう、まさに本作こそ、“記憶に残る感動の秀作と言えるだろう。

映画ファンだけでなく、年に1本くらいしか映画を観ない人も必見である。あるいは、難病を持つ人にも、生きる目的を見失っているような人にも、きっと、勇気と希望を与えてくれる、これはそんな素敵な作品なのである。

製作に関わったフジテレビにも言いたい。「西遊記」や「HERO」なんかを大ヒットさせるよりも、本作のような、本物の感動作をこそ大ヒットに導くべきである。本作が興収50億円を超えるくらいの大ヒットになってこそ、日本映画が本当に良くなった…と言えるのではないだろうか。多くの観客を呼ぶ事を期待したい。    (採点=★★★★★

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コメント

こんにちは、
奥寺さんの名言は予告で使って欲しくなかったかも、です。
テレながら、一生懸命考えたんだ、って暴露するところも良かったですが(笑)

記憶に残る秀作、ヒットして欲しいですね。

投稿: たいむ | 2008年3月 2日 (日) 09:38

おじゃまします。「今年のイチ押しの傑作」と書いてあったので、さっそく観に行きました。すごい映画でした!本当に、笑って、泣いて、感動しました。これからもお勧めの作品を教えてください。

投稿: 筆知 刻久 | 2008年3月 5日 (水) 21:58

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