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2008年3月26日 (水)

「魔法にかけられて」

Enchanted(2007年・ディズニー/監督:ケヴィン・リマ)

これは楽しい!アニメ世界のお姫さまが、魔法で現実世界のニューヨークに飛ばされ、後を追って王子さまや魔女までもがニューヨークに現れ、大騒動となる。…いたる所にディズニー・アニメへのオマージュが散りばめられ、ディズニー・アニメ・ファンなら、最高に楽しめる快作である。

ディズニー・アニメのパロディとしては、ドリーム・ワークス・ピクチャーズが作った「シュレック」があるが、あちらはディズニーを飛び出したジェフリー・カッツェンバーグ・プロデュースによる、ディズニー・アニメを揶揄した、悪く言えば、悪意のこもったイタズラ作品であった。

それに対して本作は、ディズニー・アニメ好きが嵩じてディズニー社に入社し、ディズニー製セル(2D)・アニメの最後の(?)傑作(注1)「ターザン」(99)で長編監督デビューしたケヴィン・リマが監督を担当した事もあって、伝統あるディズニー・アニメへの深い敬意と愛情に満ちた、素敵な作品に仕上がっている。 

導入部からして楽しい。絵本が1ページづつめくられ、簡単な解説が語られるが、このスタイルは「白雪姫」以来のディズニー・アニメのお馴染みパターンである(ちなみにナレーション担当は、ディズニー作品「メリー・ポピンズ」に主演したジュリー・アンドリュース)。

その後登場する、約11分のセル・アニメ・パートは、お姫さまが王子さまと出会い、結婚する…という、数多くのディズニー・プリンセスもののエンディングそのまんまであり、姫を妬んだ王女の陰謀により、姫が下界に突き落とされる…という展開は、「白雪姫」のパターンのこれまた応用であり、その絵柄といい、ギャグといい、ディズニー・アニメを見て育った世代にとっては、ここだけでウルウルとなる事請け合いである。またここで描かれる、姫が怪物に追われ、危うく落下しそうになるシーンが、後の実写パートにおける同様シーンの伏線になっている辺りもうまい。

アニメ・パートが画面両端をカットしたビスタ・サイズで、実写のNYパートになるとシネスコ・サイズに画面が広がるのも楽しい。

以後、実写のニューヨークに飛ばされたジゼル姫(エイミー・アダムス)が、最初はパニックになり、しかしそこでバツイチ弁護士のロバート(パトリック・デンプシー)と出会い、次第に現実世界に順応して行くプロセスが、さまざまなディズニー・アニメへのパロディやオマージュを散りばめながら快調に描かれて行く。

現実離れしたアニメ世界でのお約束ごとが、現実世界ではいかに実情に合わないか…という点を皮肉交じりに描くシーンが笑わされる。ジゼルが当然のように歌いながら踊ろうとすると制止させられたり、部屋を片付ける為、歌声で動物を呼び寄せたはずが、集まったのは都会に生息するドバト、ネズミ、ゴキブリにハエ…といった具合で、元のディズニー・アニメを知っていれば余計楽しめる。

毒リンゴに魔法使いのバアさんだとか、ガラスの靴に12時の鐘…くらいまではディズニー・アニメ・ファンでなくても元ネタが分かるだろうが、その他にも細かい所までいろんな引用がなされているので要注意。舞踏会シーンは「美女と野獣」だし、ラストで王女がドラゴンに変身するのは、「眠れる森の美女」である。全編の音楽を担当したのが、「リトル・マーメイド」を皮切りに、ディズニー・アニメ主題歌でアカデミー賞を何度も受賞のアラン・メンケンであるのもまた楽しい。

ディズニー・アニメ以外にも、セントラル・パークにおいて、大道芸人たちと歌い、踊り出すシーンでは、「サウンド・オブ・ミュージック」を彷彿とさせたり(これは、ジュリー・アンドリュースの家庭教師が主人公…という共通項を持つ「メリー・ポピンズ」繋がりだろう)、ラストでは「キング・コング」のパロディまで飛び出す(怪獣?に摩天楼屋上まで連れ去られるのが男のロバートで、ビルをよじ登り救出に向かうのが女のジゼル…と、オリジナルの逆パターンなのも時代を反映している)。

魔法使いの王女に扮したのは、スーザン・サランドン。メイクがアニメの王女とソックリなのにも笑えるが、これを見て思い出すのが、ディズニー・名作アニメ、「101匹わんちゃん」の実写版リメイク、「101」('96・この邦題は味も素っ気もない。原題はオリジナルと同じ“101 DALMATIANS”)において、これまたアニメとそっくりメイクの稀代の悪女=クルエラ・デ・ビルを怪演したグレン・クローズ。

101

クルエラの悪女ぶりはオリジナルでも強烈なキャラクターであっただけに、このクローズ扮するクルエラを見た時は、あまりのソックリぶりに大笑いしたものだ。

これが好評で、ただちに続編「102」が作られ、グレン・クローズのクルエラ再登場となったが、このパート2の監督を担当したのが、本作の監督、ケヴィン・リマなのである。

102 この作品では、102匹のわんちゃんの大半を、CGで動かすという新機軸を導入している。「ターザン」でセル・アニメを経験し、この作品では実写とCGの融合を経験したことが、本作に生かされた…という事なのであろう。そういう意味では、ケヴィン・リマの起用は大成功である(と言うか、本作の監督を熱望したリマが、本作のために実習作としてこれらを監督した…と考える方がむしろ正しいかも知れない)。
ちなみに、「101」「102」は、ディズニー名作アニメの、おそらくは最初のディズニー・プロ自身による実写リメイクではないだろうか。

 
ともかくも、かつてのディズニー・アニメを見て成長した世代にとっては、なつかしさと、ディズニー・アニメの素晴らしさを再認識出来る、これはディズニー・アニメの集大成とも言うべき、素敵な作品である。本作を見終わった後は、押入れの奥から録画した(あるいは購入した)ディズニー名作アニメを引っ張り出すか、レンタル屋に出向いて借り出してそれらを鑑賞し、いかにディズニー・アニメが巧妙にリスペクトされているかを確認する…という方法もまた、本作をさらに楽しむ一興としてお奨めしておきたい。     (採点=★★★★

 

(注1)ディズニー・アニメは、近年においてもコンスタントに作られてはいるが、「ターザン」以降は、宮崎アニメのパクリと散々騒がれた駄作、「アトランティス/失われた帝国」(2001)、グリッターなみの迷惑撒き散らしエイリアンが登場する「リロ&スティッチ」(2002)、「宝島」をSFアドベンチャーに改悪した「トレジャー・プラネット」(2002)、それにいまさらの2番煎じ「ピーター・パン2/ネバーランドの秘密」(2002)と、SFに続編ものという、ハリウッドの悪しき流れに乗っかった凡作・亜流作品が続いており、近年はそこに3DCGアニメが幅をきかせ、ディズニーらしい夢と感動に満ちたセル(2D)・アニメは途絶えている。本作をきっかけに、本来の子供から大人まで感動できる、手作り感溢れるディズニーらしいセル・アニメが復活することを切に望みたい。

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コメント

おはようございます。
すいません、間違えた作品をTBしてしまいました(汗)。

それにしても
>アニメ・パートが画面両端をカットしたビスタ・サイズで、
実写のNYパートになるとシネスコ・サイズに画面が
広がるのも楽しい。

さすが!
全く気付かなかったです。
ともあれとてもよく出来た愛すべきセルフパロディ作品でした。

投稿: nikidasu | 2008年3月28日 (金) 08:58

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