「団塊ボーイズ」
(2007年・米:タッチストーン/監督:ウォルト・ベッカー)
アメリカの閑静な住宅街に暮らす4人の男たち。実業家のウディ(ジョン・トラヴォルタ)は自己破産したうえ妻にも逃げられ、歯科医のダグ(ティム・アレン)はメタボリックな腹を抱え、本業は下水配管工だが小説家志望のボビー(マーティン・ローレンス)は執筆活動に励むも芽が出ず家族からはうとまれ、そしてパソコンオタクのダドリー(ウィリアム・H・メイシー)は恋愛運にも見放されていた。そんな人生に行き詰った中年男4人組が、日常を忘れ、共通の趣味である愛車ハーレーでアメリカ横断の旅に出ることになるが…。
題名に異議ありである。“団塊”とは堺屋太一が命名した、昨年あたりから定年を迎えるベビー・ブーマー世代を指すわけで、この映画の登場人物たちはもう少し若い。だいたい団塊とは日本だけの造語である。アメリカには存在しない(笑)。
まあそれはともかく、定年を迎え、少し人生を見直したくなった団塊世代にはお奨めの佳作である。
何よりも、1970年頃に青春を送っていた世代…特に映画「イージー・ライダー」(69)に感動した人には、ある意味必見の映画でもある。
バイクに乗って、男たちがあてどもなく旅に出る…という出だし、まず彼らは携帯を捨てるのだが、これは「イージー・ライダー」の冒頭、時計を捨てるシーンへのオマージュである(このさわりは最後にもギャグとして登場)。
以後も、「イージー・ライダー」のオマージュがいくつも出てくる。
テントをうっかり燃やしてしまい、雑魚寝をしていたら、ホモと間違われるくだりも、「イージー」で、保守的な南部で主人公たちがホモだと蔑まれる展開へのオマージュだろう。
後半は、ヘルス・エンジェルスを思わせるバイク集団との対決となるが、これは「イージー」と同じピーター・フォンダ主演で、その前兆とも言える「ワイルド・エンジェル」に登場するバイク集団を連想させる(ちなみに本作の原題は "WILD HOGS")。
前半で、お気に入りの映画題名を挙げるシーンがあるが、それが「セント・エルモス・ファイヤー」、「ワイルド・バンチ」、「脱出」と、これも団塊映画ファンの心をくすぐる。これらの映画に対するオマージュもさりげなく盛られているので注意のこと。
で、敵にダドリーが捕まり、さらし者にされているのを、遂に立ち上がったウディたちが敢然と救出に向かうのだが、そのシークェンスが「ワイルド・バンチ」を彷彿とさせるあたりも楽しい。前半で題名が出た意味もここで分かる(気に入らないのは、字幕ではこの作品名が出なかったこと。字幕監修者、しっかりせい!)。分からない方は、末尾の“お楽しみコーナー”を参照のこと。
若さと腕力では太刀打ちできないウディたちが窮地に陥ると、見かねた町の人たちが声援を送るあたりも泣かせる。
そして、危機一髪のラストに、大物ゲストがカメオ出演。これも「イージー」世代には泣ける演出である。
まあ、全体としてはトボけた、ノー天気なコメディである。気楽に楽しんで、そして中高年世代には、キュンと心がくすぐられ、ちょっと冒険してもいいかな…と思わせる、これは、そんな小品佳作である。 (採点=★★★★)
(さて、お楽しみはココからだ)
前述の、「セント・エルモス・ファイヤー」、「ワイルド・バンチ」、「脱出」の3本の映画には、共通点がある。…判りますか?
答えは、“3本とも、4人の男たちが主役である”こと。
正確には、「セント・エルモス-」の主役は男女7人なのだが、うち男は4人である。これらは、ウディたちワイルド・ホッグスが4人組である事に引っ掛けてあるのである。
中でも、「ワイルド・バンチ」は、初老を迎えた男たち(ウイリアム・ホールデン、アーネスト・ボーグナイン、ベン・ジョンスン、ウォーレン・オーツというシブいメンツ)が、捕らえられた若者を救う為、大人数のメキシコ軍に殴り込む…という展開で、4人が肩を並べ、敵陣に向かう姿が泣かせる。団塊世代には思い入れのある傑作である。今やその世代も、当時のワイルド・バンチたちと同じ年齢に到達したわけで、そういう意味でもこの作品を引用している意味は大きいのである。
なお、「脱出」も、4人の男たち(バート・レイノルズ、ジョン・ボイト、他)が、軽い気持ちで冒険の旅に出て、酷い目に会う…という、本作とも共通するパターンを持っている。「イージー・ライダー」と並んで70年代初期を代表する秀作である。
そんなわけで、これらの作品を当時観ていて、今も記憶に残っている“団塊”映画ファンなら、本作は間違いなく楽しめるだろう。
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コメント
こんばんは。
そうか、男4人!
これには
気づきませんでした。
ありがとうございます。
投稿: えい | 2008年3月11日 (火) 23:14
初めまして。この作品の事を調べていてこちらにたどり着きました。
「イージーライダー」も共通点のある3作もぜんぶ観たことがあるものの、こちらで書かれているようなことはまったく思い至らず、この作品の新たな魅力に気付けました。
まさに「映画をもっと楽しむ方法」が詰まってますね!
他の記事も読ませていただきます♪
投稿: 宵乃 | 2011年7月21日 (木) 13:03