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2008年3月 9日 (日)

「バンテージ・ポイント」

Vantagepoint (2008年・コロムビア/監督:ピート・トラヴィス)

これは面白い!同じ事件を異なる8人の視点から見直すうちに、隠された真相が明らかになって行く…という着想がユニークなうえに、凄い迫力のカーチェイスもあり、全然ダレる所なくテンポよく物語が展開する。上映時間も1時間30分と短く、見応えがある。お奨め。

スペイン・サラマンカの国際サミット会場の広場で、アメリカ大統領が狙撃される。しかも直後に大爆発が起こり、その混乱の中で、シークレット・サービスのトーマス・バーンズ(デニス・クェイド)は観光客やテレビ局が撮影したビデオ映像から、容疑者を追い詰めて行く…。

まあ、あまりこの手の作品では、観る前には予備知識を仕入れない方がいいので、ストーリーに関してはこの位にしておく。

 
面白いのは、前述したように、8人の視点を毎回事件の起きる前に戻って、違う角度から検証し直す構成のユニークさである。
それぞれが、中心となった人物の視点で物語を追うので、本人が関与しない事象は描かれない。ただしチラッと視界に入った人物が、後で重要な役割を担う事にもなるので、些細な人物の動きにも注視した方が、映画をより面白く観る事が出来るだろう。

(しかしまあ、このブログのサブタイトルである“いろいろ視点を変えてみれば、映画はもっと楽しくなる”とは、この映画そのものを表してるじゃないですか(笑))

1人のエピソードは、平均10分程度。それも、これからどうなるのだろう…と思わせる所で話が終わって、次のエピソードに移るあたりは、連続活劇の呼吸。その都度高速巻き戻し映像を見せるのは、深作健太監督の「エクスクロス 魔境伝説」でもやってた。

カメラ・アングルは変わるが、毎回、大統領狙撃、大爆発…が何度も繰り返されるので、最初はちょっとうんざりしかけるが、後半は次々意外な真実が明らかにされ、片時も目を離せない。終盤のカーチェイスも、狭いスペインの街中を猛スピードで駆け抜け、その迫力もなかなかのもの。これがまた、単なるアクション・サービスだけに終わっておらず、ラストで重要なカギになってる辺りも憎い仕掛けである。

(以下ネタバレにつき隠します。映画を観た方のみドラッグ反転してください)
大統領に扮したウイリアム・ハートがいい。貫禄たっぷりだが、ブッシュと違って(笑)、割とリベラルな考えを持ち、むしろ補佐官がタカ派で報復を強制する辺りが、よくある大統領ものドラマと異なる、奥行きの深さをもたらしている。

ほとんどアラも突っ込みどころもない、完璧な作品だが、1箇所だけ問題あり。テロリストたちが合流地点と指定した場所が、事件現場から目と鼻の先(小さな少女が歩いても行ける距離)の高架下というのは疑問。まして、近くの陸橋から丸見え(実際、フォレスト・ウィテカーに目撃されてる)。そばは高速が走ってるし。
普通なら、現場からうんと離れた、人気のない、目立たない場所にすべきではないか。…もっとも、母を捜す少女を、ラストのクライマックスで活用させる為にはやむを得ないかも知れないが…。

しかし、ハイテク遠隔操作の狙撃方法にはまいった。こんなのが主流になったら、ゴルゴ13は失業だな(笑)。
↑ ネタバレここまで

面白さでは、近年のハリウッド映画の中では光っている。アクションあり、サスペンスあり、意外な展開あり、しかも、ラストのフォレスト・ウィテカーの活躍ではホロッとさせ、ホッとさせる爽やかな終わり方で後味もいい。必見である。

監督のピート・トラヴィスは、テレビ映画で注目され、本作が劇場映画デビューとの事である。すごい新人が現れたものである。今後も注目しておきたい。  (採点=★★★★☆

 
(すこし蛇足)

この映画について、紹介記事でもいろんな感想でも、“黒澤明の「羅生門」にヒントを得ている”と書かれているものが多いが、私はちょっと違うと思う。
「羅生門」は、同じ場所で起きた事件の当事者の証言が、一人一人みな違っている点がポイントであり、“人間とは自分の為には、平気でウソをつく”というテーマを持った作品である。今でもアメリカの裁判において、証言が食い違う場合を、“ラショーモン・ケース”と呼ぶくらいである。

これに対して、本作は、8人が目撃したものはすべて事実であり、ウソはない。ただ本人に見えてないものが描かれなかっただけである。この点が大きく違う。

むしろ、近い作品を挙げれば、内田けんじ監督による「運命じゃない人」になるだろう。5人の主要人物の、それぞれの視点で時間が何度もバックするうちに、次第に真実が見えて来る手法がそっくりである。この作品は、カンヌ映画祭で絶賛され、4部門の賞をもらったくらいだから、アメリカの映画人も観ているはずである。
ただの通りすがりと思った人や、すれ違った車に乗っていた人が、実は大きな関わりを持っている事が後で明らかになる…という描き方までよく似ている。本作の脚本家(バリー・L・レヴィ)が、「運命じゃない人」を参考にした可能性は大いに考えられる所である。

あともう1本、スタンリー・キューブリック監督の出世作「現金に体を張れ」(56)も、同時に起きている出来事を、時間を繰り返して別の視点で描く手法を取り入れたハシリとして、映画ファンなら覚えておいて欲しい作品である。

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(3/31追加)
これをUPした後気が付いた事があるが、ネタバレになるのでこれまで書かないでいた。
そろそろいいかな…と思うので書かせていただく。

大統領の替え玉…と言えば、思い出す作品がある。
1993年のアメリカ映画「デーブ」(監督:アイバン・ライトマン)がそれで、1日だけの約束で大統領の替え玉になった男(ケヴィン・クライン)が、当の大統領が卒中で倒れ、替え玉をずっと演じざるを得なくなるが、やがて本物以上に立派な大統領になって行く…というハートフルコメディ。

この頃から、大統領には影武者がいる…というのが定説になっていたのかな―と思ったりもするが、注目すべきは、大統領夫人役を好演していたのが、なんとシガニー・ウィーバー

なるほど、本作のシガニーが冒頭だけしか登場しない、ゲストのような扱いだったのは、大統領=替え玉映画つながりでの、プロデューサー(か、監督)のちょっとした遊び心…なのかも知れない(てのは考え過ぎ?(笑))。

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コメント

こんにちは。
ああ、そういえば「運命じゃない人」はこんな感じですね。ジャンルは随分と違うけど(^^)
既視感はあったけれど、気がつきませんでした。
文句なく引き込まれてしまいましたし。

投稿: たいむ | 2008年3月 9日 (日) 23:31

はじめまして。実は私も『バンテージ〜』は『現金に体を張れ』に近い映画だと思ってたんですが、「バンテージ」と「現金に体を張れ」で検索をしても100件くらいしか引っかからず、このブログに辿りつきました。ちなみに『羅生門』と『バンテージ』で検索すると2000件も引っかかります。

投稿: カトキチ | 2008年3月12日 (水) 01:11

本当に本当に、面白い映画でした。こういうタイプの映画ははじめてです。観た後、嬉しくて嬉しくてなりませんでした。Keiさんの挙げられた「運命じゃない人」は観てないです。映画館が遠くになってしまった今、もうビデオでもいいから見たいと思うのですが・・・この辺りにはレンタルビデオ店もなくて・・・。2008年マイベストには間違いなく入ります。このゾクゾク感は、きっとあと9ヶ月ないでしょう。すべてを知って、もう一度観たいけれど、大阪のようにブラッとはいきません。  冨田弘嗣

投稿: 冨田弘嗣 | 2008年3月14日 (金) 22:49

>たいむさん、こんばんは。
そうですね。まったく違うジャンルだから、気が付かなかった人が多いのかも知れませんね。
でも、「羅生門」も、ジャンル違う気がしますが(笑)。

>カトキチさん、はじめまして。
「現金に体を張れ」はマイナーな作品なので、仕方ないかも知れませんね。キューブリックの初期の傑作なのですが。
これを機会に、再評価の機運が高まってくれればいいのですがね。

>冨田さん
下関暮らし、映画館もビデオショップも少なくて大変ですね。お察しします。
「運命じゃない人」、凄く面白い作品です。どこかで見かけたら、是非鑑賞をお奨めします。

投稿: Kei | 2008年3月16日 (日) 02:20

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