「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」
ケータイ小説の次はブログ小説…。
正直言って、又か…と思い、最初は観る気はなかったのだが、レビュー等で結構評価が高かったので、
半信半疑のまま、期待せずに観てびっくりした。
なんと、予想をいい意味で裏切って、とっても楽しくて、笑えて、熱い友情あり、初恋あり、最後はホロリとさせられる、まさに王道的娯楽映画になっていた。
これは、本年屈指の、お奨めの快作である。
時代は1979年、場所は栃木の片田舎。7人の高校生と地元の駐在さんが繰り広げるイタズラ戦争を描く青春コメディー。
イタズラの中には、法律違反まがいのものもあるが、全体の演出がコントか、サイレント・スラップスティック・コメディ(分かり易く言えばチャップリンなどのドタバタ・コメディ)タッチであるので、これはギャグマンガのようなものだと割り切ってしまえば気にならなくなる。…そう言えば、チャップリンに代表されるサイレント・コメディには、警官と主人公との追っかけっこがギャグになっているものが多数あったはず。
高校生たちのイタズラは実にくだらないし、それにムキになって対抗する駐在(佐々木蔵之介)もおとなげない…と片付けるのは簡単だが、笑いのテンポと間合い、セリフの掛け合いが絶妙で、何度も大笑いさせられた。こういうセンスは、日本映画には珍しい。
時代が'70年代末期という事もあって、全体にのどかで、おおらかで、あの時代には大人たちにも、少年たちの他愛ないイタズラを大目に見る空気があった事を匂わせている。
駐在さんも、規則には厳格で、少年たちのイタズラには容赦しないが、しかしどこかに少年たちと一緒になって楽しんでいる風情が感じられる。
少年たちのイタズラに対し、報復として焼きソバに唐辛子をたっぷり仕込んだり、パトカーで山の中に少年たちを置き去りにして嬉々としている辺り、どっちが子供なんだか分からない(笑)。このあたり、駐在を演じる佐々木蔵之介が絶妙の快演。
私はこれを見て、青春映画の傑作、「けんかえれじい」(66・鈴木清順監督)を思い出した。
戦前の旧制中学生たちの、おおらか、かつバカバカしいまでの喧嘩ぶりが描かれる。その喧嘩のアイデアも楽しいが、最後に喧嘩に勝った主人公に、校長先生が言う。「人生には、後で考えれば馬鹿馬鹿しいと思うが、その時には命を張ってやる事がある。それが男だ」。
そう、若い時代は二度とやって来ない。バカバカしい事に夢中になれるのも青春なのである。…そうやって、泣いたり、笑ったり、さまざまな経験を積み重ねて、少年たちは大人になって行くのである。
そんな、素敵な時代が、'70年代までは確かにあったのかも知れない。この映画の舞台が1979年というのも重要である。
1980年代になって、バブルが増殖し、世の中はカネが万能になって行く。…それと共に、人々は心のゆとりを失い、殺伐とした世の中になって行く。イタズラは、陰湿なイジメに変貌して行き、おおらかさ、心の豊かさを、大人も、子供も、今では失ってしまったかのようである。
1958~9年を舞台とした「ALWAYS 三丁目の夕日」に人々は感動したが、それは単なるノスタルジーだけではなく、今では失われてしまった、貧しいけれども人情味に溢れた、人々の温かい心の触れ合いが、あの頃には確かにあった…その事に涙したからに他ならない。
その時代から丁度20年を経た本作もまた、あの映画にも共通する、人々の心の豊かさとおおらかさと、他人を思いやる温かいハートに満ちている。…それ故に、笑えるだけでなく、最後には素敵な感動が用意されているのも、当然と言えるかも知れない。
そういう意味では、本作は「ALWAYS-」とも共通する、昭和ノスタルジー青春映画―の秀作と言えるだろう。
(以下ネタバレ、読みたい方はドラッグ反転してください)
前半の演出は、前述のようにドタバタ・コメディ・タッチで楽しいが、後半は心臓病の手術を受ける少女・ミカの願いを聞き入れる為、悪ガキたちが大奮闘、一転して泣ける感動のドラマとなって行く。この緩急自在の配球具合もいい。…そして、前半では、単に融通の利かない堅物と思われていた駐在が、実は人情味のある、やさしい心根の持ち主である事が判明する。
悪ガキどもに対する厳しい対応も、実は彼らに対する愛情が込められているのである。これにはジンと来た。
しかしラストでは、相変わらず悪ガキとのバトルを繰り返している。これもまた、「男はつらいよ」において、表向きはケンカばかりしている寅さんとリリーだが、実は深い絆で結ばれている、あの二人と共通する要素が両者にあると見るべきだろう。
ちょっとだけ残念なのは、手錠をはめた少年たちを、ミカのいる病室に連れて来る所。少女にその姿を見せれば、花火の奇跡が少年たちの犯罪によるものである事がバレてしまい、少女の夢を壊す事になるではないか。あそこは配慮して欲しかった。
駐在が花火代金を、自腹を切るのもいい話だが、初任給が今の1/3くらいのあの時代の40万円は大きい。ヘタしたら借金せねばなるまい。
私なら、駐在が自腹を切った事を聞きつけた町の人たちが(みんな花火を楽しんだはずだから)、一人、また一人と駐在所を訪れ、駐在に5千円、1万円…とカンパして行き、それを見た駐在が嬉し泣きをする―というエピソードを追加する。…て、これじゃまるでキャプラの「素晴らしき哉、人生!」まんまですが(笑)。
↑ネタバレここまで。
ラストの、自転車にロープのイタズラは、これも青春ノスタルジー映画「アメリカン・グラフィティ」における、パトカーにワイヤ括りつけ、ガックンとなるイタズラシーンを連想した。作者たちは多少あの映画にオマージュを捧げているのかも知れない。当時の歌謡曲をふんだんに流しているし…。その上に、あの頃のポスターやアイテム等の小ネタも沢山登場するので、当時を知っている人には懐かしいだろう。
スタッフは、監督がテレビ「時効警察」等の塚本連平であるのはともかく、脚本が映画「逆境ナイン」の福田雄一、プロデューサーが、映画「ロッカーズ」、「シムソンズ」などの森谷雄である点にも注目したい。いずれも、日本映画らしからぬ、カラッと明るく、元気で楽しい作品を手掛けて来た人たちである。
思えば、日本映画は、一時は(特に映画の舞台となった70年代においては)、洋画と比較され、“暗い、ダサい、元気がない”と若者から散々バカにされ、どん底時には邦画興行収入シェアが25%程度にまで落ち込んだ事もあった(つまり洋画が75%)。
それが、ここ数年、元気のいい日本映画が増加し、観客も戻って来て、一昨年には邦画シェアが50%を超える所まで回復した。
この作品は、そうした流れに乗って、昔の“暗い、ダサい、元気がない”とは正反対の“明るく、スマートで、元気ある”新しいタイプの日本映画になっているのである。イチ押しする所以である。
私が観た劇場では、(少ない客にもかかわらず)かなり笑い声が起きていた。これも珍しい事である。遠慮はいらない、どんどん笑えばいい。お祭騒ぎのように、観客が笑い、拍手し、盛り上がればさらに相乗的にノッて来て、ライブ感覚で余計楽しめる。そういう意味では、この作品は大勢の観客がいる劇場で観てこそ楽しめるのである。是非、劇場で観て欲しい。お奨め。 (採点=★★★★☆)
原作本
サントラCD | 青春のバイブル「アメ・グラ」DVD |
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コメント
TBありがとうございます。
これ、いいっすよね。
鑑賞後、久しぶりに気持ちが昂ぶりました。
>スタッフは、監督がテレビ「時効警察」等の塚本連平であるのはともかく、脚本が映画「逆境ナイン」の福田雄一、プロデューサーが、映画「ロッカーズ」、「シムソンズ」などの森谷雄である点にも注目したい。いずれも、日本映画らしからぬ、カラッと明るく、元気で楽しい作品を手掛けて来た人たちである。
なるほど。言われてみれば。
彼らがいれば、邦画はこれからもますます
面白くなりそうです。
投稿: アロハ坊主 | 2008年5月16日 (金) 13:12