「少林少女」
ポスターが、「少林サッカー」とほとんど同じユニフォームを着た柴咲コウがラクロスのスティックを握り、タイトル・ロゴまで「少林サッカー」とそっくり。エグゼクティブ・プロデューサーがチャウ・シンチー。
これは、どう見ても、「少林サッカー」のラクロス版…しかし、なんだか場当たり的企画の匂いがするなぁ…といやな予感がしたが、映画はその予感を遥かに超える、出来損ないの珍作になっていた。なんじゃーこれは…と喚きたくなった。
はっきり言う。今年のワーストワン候補の駄作である。フジテレビ、最近酷い。快作「ガチ☆ボーイ」をまともに売らずにコケさせて、反面、こんな駄作をテレビで派手に宣伝して観客をガッカリさせてる。出来が良いか悪いかのまともな判断も出来なくなってるのか。ちっとは恥を知れと言いたい。
本広克行監督は、前作「UDON」でも感じたが、とにかくあれもこれもと詰め込み過ぎて収拾がつかなくなり、全体のバランスを著しく壊してしまう悪いクセがあるのだが、今回もまた前作と同じ失敗を繰り返している。懲りない人である。
まず冒頭、主人公の桜沢凛(柴咲コウ)が、中国で3,000日の修行をして日本に帰って来る。目的は日本に少林拳を広める為。…が、祖父の道場は廃墟と化し、門弟たちも散り散り。凛は知り合った中国人留学生、ミンミンの助けを借りて、道場再興の為、弟子を集めるべく尽力を開始する。
…とまあ、ここまでは悪くない。 が、そこから、凛が大学のラクロス・チームに参加するところから話はおかしくなる。
凛が、チームプレー無視して勝手に走りまくり、しかしまるでゴールに入らず試合はボロ負け。チーム仲間から総スカンを食らう。
元道場の高弟でもあった岩井(江口洋介)が何故かコーチになり、チームプレーの大事さを説く…のは、最初からスポーツ青春ドラマだったなら分からんでもないが、少林拳の話はどうなった?
この辺りから、作品の方向性が見えなくなって来る。
いったい、①道場を再興し、少林拳を広めるのが本筋なのか、②大学のラクロス・チームが強くなり、試合に勝つ…というパターン通りのスポーツ青春ドラマが本筋なのか、中途半端ではっきりしない。
で、仲間はずれになった凛とチーム仲間が、いつの間にか仲良くなり、いつの間にかラクロス部全員が少林拳道場に入門し、少林拳を学ぶようになる…???? このプロセスが全然描かれていない。あまりにもイージー。これをちゃんと描かなかったら、主人公たちに感情移入出来ないだろうが。
だいたい、ラクロスの練習だけでも大変なのに、他の武術の鍛錬なんかやってるヒマないだろう。少林拳の技をラクロスに応用する…とするなら、それは邪道。それなら、ポスターから受けるイメージの、③「少林サッカー」並みの、おバカ・ナンセンス・コメディに統一し、例えば相手が卑怯な手を使う悪者で、それに対抗する為こちらも奥の手を使う…というのなら話は分かるのだが。
しかし、スタートから40分ほど経過したこの時点でも、おバカ・コメディの要素はほとんど感じられない。どう見ても青春学園スポコン・ドラマ路線のままである。
さらにワケが分からないのが、この学園の学長・大場(仲村トオル)がどうも胡散臭く、ルポライターに何か嗅ぎつけられ、対策を指示するシーンが出て来る(その後ルポライターは抹殺された模様)。ところが、この学園がどういう悪事を働いているのか、いつまで経っても画面に出て来ない。学生たちを洗脳してる様子もない。やっと後半になって、突然脈絡も伏線もなく、黒づくめの集団が登場するが、それでも悪事の正体は不明。ここもやたらシリアスで、前記②とも③ともマッチしない。
つまり、今度は④強大な悪の組織の存在と、それに立ち向かうヒーロー…という、また別のドラマの要素が紛れ込み、お話はますます混乱する。
もっと驚くのが、凛には常人にない、“気”を内在しており、その力を“闇の世界(ダークサイド)”に取り込まれる事を岩井が心配している…という話。
???それって、「スター・ウォーズ」の安っぽいパロディじゃないの?で、結局大して物語りに絡まないし…。
とにかく、いろんな要素が場あたり的に継ぎはぎされてるだけで、それらが物語として有機的に繋がっておらず、どれも中途半端でまとまりがない。“少林拳は戦う技ではない”と言っときながら、ラストでは結局戦ってるし…。
で、クライマックスは、①も②もどこかに置き忘れて、「燃えよドラゴン」と「死亡遊戯」と「キル・ビル」と「カンフーハッスル」を適当にゴチャ混ぜにしてるだけ。しかし、CG技術はチャウ・シンチー作品にすら及ばず稚拙、アクションは香港と違ってショボく、柴咲コウは1年間特訓したそうで、よく頑張ってはいるが、基礎が出来てる香港アクション・スターの本格格闘演技には到底及ぶべくもない。
本広演出は、ここに至るも、おバカ・ナンセンスにも徹し切れず、シリアス・本格アクションにも徹し切れず、最後まで中途半端のまま。
いったい、何がやりたかったのか。
ラストではまた腹が立った。ここも脈絡なく、ラクロス大会の場となり、しかもユニフォームも、ボールが地面にめり込んだりのナンセンス・ギャグも「少林サッカー」そのまんま。当然対戦相手はかなうわけもなく、大差で勝ってしまう。…おいおい、相手はフツーのチームじゃないの。完全に反則である。そんな勝ち方したって、観客のカタルシスには繋がらないだろう。…結局、ここでも場あたり的に元ネタの物真似をやってるだけに過ぎない。おマケに、彼女たちチームは、国際星館大学とかいう、悪の巣窟の看板を背負って戦うわけだから、ますます気分が悪い(その悪の親玉だった仲村トオルが、江口洋介と談笑してるラストには口アングリ)。
しかも、それらのシーンをエンド・クレジットのバックでやってるのには唖然とした。
エンド・クレジットというのは、出演者、スタッフの紹介であり、私なんかはこれを楽しみにしている。映像を流すなら、ジャッキー・チェン作品のようにNG集とか、後日譚とか、メインのハイライト・シーンとか…要するに物語が終わった後で、本筋とは離れていなければならない。そうでないと、落ち着いてスタッフの名前を確認できない。ポスターに大きく描かれていて、見る前は本筋だと観客が期待していたシークェンスが、エンドロールのバックにしか登場しない、かつ反則技とは…。これでは詐欺である。
馬鹿馬鹿しいシーンがあるのは構わない。私もおバカな映画は大好きである。…しかし、バカバカしくとも、それらを真摯に作り上げて欲しい。…少なくともチャウ・シンチーの「少林サッカー」や「カンフーハッスル」や、前回取り上げた「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」等は、馬鹿馬鹿しい話を、観客の共感を得るべく、心を込めて真剣に作っている。
本作には、残念ながら、おバカに真摯に向かい合う心が欠落している。ただ、こういう要素を適当に盛り込めばヒットするだろう…というスケベ心が見え透いている。…それでは観客の心を掴むことは出来ない。
特に、制作に名を連ねているROBOTの代表・阿部秀司さん、…こんな映画を作ってしまって恥ずかしくないですか。数々の名作・良心作を送り出して来た、ROBOTの名を汚す、こんな駄作は2度と作って欲しくない。フジテレビ、本木監督ともども、猛反省を促したい。 (採点=☆)
(おマケ)
柴咲コウ主演作と言えば、1昨年の「映画秘宝」誌ワーストワン「日本沈没」があり、昨年はこれも「映画秘宝」に新設された、第1回はくさい映画賞(トホホ映画賞)の最低作品賞に「どろろ」が選ばれるなど、ワースト賞づいている。もし本作が今年のワーストワンになれば(その可能性大)3年連続ワースト作品賞受賞…という、珍記録を作る事になる(笑)。彼女のせいではないんですがねぇ。
チャウ・シンチーの笑える傑作DVD。お口直しにどうぞ。
| 固定リンク | コメント (9) | トラックバック (18)
最近のコメント