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2008年4月17日 (木)

「うた魂♪」

Utatama (2008年・日活/監督:田中 誠)

合唱部の活動をテーマとした青春ものである。

こうした、いわゆる“部活もの”と呼べるジャンルの映画は、これまでに「青春デンデケデケデケ」を嚆矢として、女子ボート(がんばっていきまっしょい)、男子シンクロ(ウォーターボーイズ)、女子ジャズバンド(スウィングガールズ)など、数多く作られて来たので、やや食傷気味とも言える。今年も、大学プロレス部を舞台とした快作「ガチ☆ボーイ」があったばかりだし…。

これらの作品は、いずれも感動の秀作として評価が定まっているが、その要因としては、ほとんどが“ふとしたきっかけでスポーツや音楽に触れてたちまち魅了され、仲間を集め、必死の努力の末に成功を収める”、というパターンであり、最初はヘタクソだが、練習を積み重ね、次第に上達して行くプロセスが丁寧に描かれているが故に、それが青春前期の、不器用だがひたむきな行動ぶりと相まって、ラストが感動的に盛り上がる仕掛けになっていた。

本作が、それらの作品と異なるのは、主人公は最初から歌も上手で、チームも全国大会に何度も出場している…という前提で、言ってみれば、前掲パターンのような物語が完結したところから本作の物語が始まっている…という事になる。

これは、ある意味冒険で、お決まりの感動パターンをすっ飛ばしているわけだから、ハンディとも言える。よほど脚本を練らないと面白くならないだろう。

そこで取り入れたのが、“歌っている顔がヘンだと言われて落ち込む主人公が、真剣に歌う事の大切さに気付き、励まされて元気を取り戻す”というお話である。

その展開自身は悪くないのだが、やはり脚本がピシッと決まっていない。そもそもこうしたお話は、グループの群像ドラマである色合いが濃く、主人公を取り巻く脇の人たちが個性的に、丁寧に描かれていなければならない(前掲作はいずれもそこがきちんと描かれている)。

本作はそこがおざなりである。主人公、荻野かすみ(夏帆)ばかりが目立ち、合唱部メンバーのキャラクターの描き分けが出来ていない。その他の人物も類型的で、彼女の家族など全然かすんでいる。かすみに影響を与えるべき祖父は、もっと飄々としたうまい役者を起用すべきだが、間寛平では荷が重過ぎる。だいたい、蛾を殺すエピソードが、何の為に出て来たのか不得要領である。

他にも、出て来るエピソードがブツ切れで、後の伏線にもなっておらず、有機的につながっていないのである。前半のバス運転手とヤンキー・グループとの絡みは、それだけで終わっているし、急ブレーキで男子生徒が宙を飛ぶギャグを見ると、ドタバタ・コメディかな…と思ってしまうがそれも後が続かず、後半では影を潜めてしまう。権藤が感動した、尾崎豊を歌うストリート・シンガーについても、これまた正体が分かってもさっぱり盛り上がらないのには参ってしまう。

ツッパリ・学ランスタイルのヤンキーたちが、実はソウルフルな合唱グループだった…というエピソードは面白い。が、リーダーの権藤(ゴリ)が尾崎豊の歌に心酔するのはいいとしても、その他のヤンキーアンちゃんたちが、どうやって権藤に同調し、あれだけ歌が上手になったのか…が全然描かれておらず、その為せっかくの面白いキャラクターであるにも関わらず、単なる点景以上の存在になっていない。彼らが地区大会に出場するまでには、相当の苦労や周囲の抵抗があったはずなのだが(大体、学校が出場させないと思うのだが)…。

どちらかと言えば、権藤たちヤンキー・グループが、合唱に目覚め、さまざまな抵抗や障害を乗り越え、全国大会に出場するまでをメインにした方が、“男がシンクロ?”と同じくらいユニークで楽しく、かつ感動的な映画になったかも知れない(キャッチコピーは「ヤンキーが合唱団?」でどうか)。
…が、それでは“夏帆主演の青春映画”にはならないし、客も呼べないだろうな(笑)。

ともかくも、メインとなる主人公にまつわるお話が単調で、ドラマとしての盛り上がりに欠けるのが問題である。そもそも、かすみ一人が抜けたところで、彼女の所属する高校の合唱団はぜんぜん困らないし、例年通り全国大会に出場出来るだろうに…。それでは実もフタもないが(笑)。

それでも、クライマックスの合唱コンクール・シーンはなかなか感動的であり、ジーンと来てしまったのは確かである。…しかしそれはあくまで、歌の力によるものであって、映画が良く出来ていたからではないのである

まあそんなわけで、駄作ではないが秀作でもなく、昨年の「天然コケッコー」でブレイクした夏帆ファンか、尾崎豊のファンにはお奨め出来る程度の、普通の青春映画である。

 
ただ、この映画の中で唯一の見どころがある。中盤、喫茶店において、針の飛んでしまったエノケンのレコードに代って、かすみたちが「私の青空」(マイ・ブルー・ヘヴン)を歌うシーンである。―歌というのは、このように気軽に楽しむものである事を的確に表現した、素敵なシーンで、私も思わず口ずさみそうになった。“女子高生がなんでエノケンを知ってるんだ?”なんてツッ込むのはヤボと言うもの。こういう、微笑みたくなる楽しい場面がもう少し欲しかった。…てなわけで、このシーンで一つおマケしておこう。   (採点=★★★

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