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2008年5月 7日 (水)

「相棒-劇場版-」

Aibou (2008年・東映/監督:和泉 聖治)

テレビで人気を博した「相棒」の劇場版。テレビについての感想は昨日UP済。

正確な題名は「相棒-劇場版- 絶体絶命! 42.195km 東京ビッグシティマラソン」…あきれるほど長ったらしいタイトル(笑)からして、出自の「土曜ワイド劇場」並みだが、映画の方も、あれやこれやと盛り込み過ぎで、散漫な出来になっている。

部分部分を取ってみれば、それぞれのパーツはテレビ版を彷彿とさせる所もあり、テレビ版各話のセミレギュラーも沢山出演しているようなので、テレビシリーズを見続けている人には楽しめるかも知れないが、“映画作品”として観るなら、物足りない出来である。

一番いけない所は、犯人像が支離滅裂である点。

まず、猟奇的な殺人事件が起き、それらの被害者と殺害方法がインターネットのSNSサイトに掲載されている事が判明。

このサイトでは、気に入らない人間について有罪・無罪の投票を行い、有罪が多数を占めれば“死刑宣告”を行う…というタチの悪い遊びをやっているのだが、それを現実に実行する…という点で浮かび上がる犯人像は、現実と空想の境い目の区別がつかないネットオタクか、「羊たちの沈黙」に登場するような狂ったサイコパスか…いずれにしても普通じゃない異常性格者で、こんな犯人には同情のカケラも与えられないだろう。

ところが、犯人は現場に暗号めいた数字記号を残しており、それがチェスの棋譜であり、杉下とチェス・ゲームをやり始める辺りから犯人像が食い違って来る。これでは、犯人は「ダ・ヴィンチ・コード」まがいの暗号パズル好きの知能犯という事になり、先ほどの、頭の悪い犯人像とは明らかに異なる。

それだけでも???と疑問符が浮かぶのに、その次には東京シティマラソンに爆弾を仕掛け、3万人のマラソンランナーと15万人の観衆を人質に取る―という展開。スケールは大きいが、そうなると今度は、フットボール・スタジアム観衆を巻き込んだ「ブラック・サンデー」とか、その作品を換骨奪胎した韓国映画「シュリ」のような、大規模な過激派組織が犯人だった映画を思い出す。つまり、またまた犯人像が違って来るのである(ついでだが、「羊たちの沈黙」と「ブラック・サンデー」の原作者は、偶然にもどちらもトーマス・ハリス)。

まあどっちにしても、警察を振り回して面白がってる、人騒がせなバカが犯人である事は確かだろう。

―ところが、最後に明らかになる犯人には唖然。…前半のゲーム的な、お騒がせ犯人像とはまるで違うじゃないか。

テレビ版には、確かに暗号を使ったゲーム的犯人とか、重い題材を扱った社会派的テーマも出て来るようだが、それらは作品ごとに異なるはずで、1つの作品において、両方のテーマを同時に盛り込んだらおかしくなるのは当然のこと。

後半のような、シリアスな題材をテーマにするのなら、犯行も、例えば松本清張作品(「砂の器」とか)のように地味目にすべきだし、タイトルのように派手な劇場型犯罪を主軸にするなら、犯人は愉快犯的な軽薄なヤツにすべきだろう。

以下ネタバレ。観た方のみドラッグ反転してください。
犯人は、例の海外で人質となってバッシングを受けた人たちをモデルにしているようだが、題材が重過ぎるうえに、犯人の目的が、バッシングした著名人に復讐したかったのか、それともSファイルの存在を訴えたかったのか、どちらなのかがはっきりしないのは問題。

主犯の木佐原(西田敏行)が、仲間だった塩谷(柏原崇)を時限爆弾で殺そうとする意味も不明。それに結局自分の娘を危険な目に会わせてしまってるし。だいたい、末期ガンで余命いくばくもない木佐原役を、丸々と太ってる(笑)西田が演じる事自体ミスキャスト。痩せ細ってないとおかしいだろう。笹野高史あたりが適役ではないか。

Sファイルを作成した元首相(平幹二郎)と、犯人と、杉下の3者が、そろってチェス好きだったというのもあまりにご都合主義である。そんな偶然って、確率何億分の1?
↑ネタバレここまで

前半のゲーム的展開もスリリングで面白いし、後半の社会派的テーマを打ち出すのも悪くはない…。
だが、その2つを、1本の作品の中でやってしまったところが、この作品の致命的ミスである。役者の演技も、演出のテンポも悪くないだけにもったいない。上トロの寿司に、チョコレートを乗せてソースをぶっかけたようなものである。別々に食ったらおいしいはずなのに…。

 

最近のテレビ局製作映画作品、「少林少女」といい本作といい、あれもこれもと詰め込み過ぎて、却ってつまらなくしている。中味を濃くする事と、何でもかんでも寄せ集める事とを完全に混同している。

脚本の戸田山雅司は、「メッセンジャー」(馬場康夫・監督)がとても面白くて注目したのだが、最近は「阿修羅城の瞳」(05)、「UDON」(06)と駄作、凡作が続いている。テレビ版1作目を始め、秀作が多いと聞く輿水泰弘に何故脚本を書かせなかったのか…。もったいない事である。
それでも、興行的には、最近の東映作品では数年ぶりの大ヒットだそうで(実際、私が観た時も超満員だった)、反省はしないんだろうな。困ったものである。      (採点=★★

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(付記)
「砂の器」の話が出たが、よく考えればあれも、熱血直情の若手刑事(森田健作。まさに熱血型だ(笑))と、ベテランの沈着冷静型刑事(丹波哲郎)とのバディ・ムービーだった。

松本清張原作ものでは、他にも昨年テレビ放映の「点と線」における、若手熱情型の三原刑事(高橋克典)と、ベテランでコロンボ並みの観察眼と推理を発揮する鳥飼(ビートたけし)というコンビもあった。テレビの鳥飼はすぐカッとなって暴れたが、原作では温厚で沈着型である。

こうしてみると、「相棒」のキャラクターは、昨日挙げた、黒澤明監督「野良犬」や、松本清張の前記2本の秀作に代表される、(最近はほとんど見なくなった)クラシックとも言える正統派刑事ものパターンの、現代的な復活…と言えるのかも知れない。面白いのも当然と言えるだろう。
それだけに、映画版はもっと丁寧に作って欲しかった。刑事ものの秀作がここ数年登場していないだけに、余計そう思う。残念!

 

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コメント

 劇場版はこれからです。

 先日のテレビで、ファザーコンプレックスの女子大学院生が、毒草から抽出した毒薬で、父親と父親似の男性を殺す役の女優さんに良く似た女性が家の近くにいることを思い出したのですが、テレビを見終わって、急にご近所で買い物をしたくなって出掛けから、そこで、件の女性に数年ぶりに出会いました。
 これは、いわゆる「意味のある偶然の一致」という奴です。
 この仕組みの説明は、次のブログ。
 http://blog.goo.ne.jp/i-will-get-you/
 一般法則論
 

投稿: 一般法則論 | 2008年5月18日 (日) 15:03

テレビドラマははずれはあるけど、当たりの方が多いシリーズ。
劇場版は残念ながら期待はずれでした。
はっきり言って、テレビの方が面白い。
岸部一徳を筆頭に、その他脇役とのからみが面白いんですが。。犯人にもがっかりですが、その辺の味が非常に物足りなかったです。ハイ。

投稿: omiko | 2008年6月21日 (土) 00:14

>omikoさん
私も、テレビの方がずっと楽しめました。
最近でも(今日6月22日も)何本か再放送をやってくれてますが、やはりどれも面白い。
ちゃんとストーリーに1本芯が通ってますし、登場人物のキャラクターも丁寧に描けてます。
脚本は、どれも輿水泰弘さん。
やはり、劇場版はこの人に脚本をまかせるべきでしたね。

投稿: Kei(管理人) | 2008年6月23日 (月) 00:30

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