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2008年5月11日 (日)

「さよなら。いつかわかること」

Sayonaraituka (2007年・米/監督:ジェームズ・C・ストラウス)

映画は、ゴテゴテと話を詰め込んだものよりも、シンプルであってもストレートにテーマを訴えた作品の方が心を打つ場合がある。

本作も、ストーリーを要約すれば、
“母が亡くなった事を、幼い娘たちに伝えるまでのお話”…たったそれだけである。1行で終わりだ(笑)。上映時間も85分と短い。

しかし、そのラストに至るまでの、主人公の心の揺れを、丁寧で繊細な語り口で描き、観終わって心が温かくなる。

これは、そんな、素敵な感動の秀作である。映画ファンなら、たまにはこういう地味な作品も、しみじみと味わって欲しい。

 
主人公スタンレー・フィリップス(ジョン・キューザック)は、12歳と8歳の娘を持ち、妻はイラク戦争に単身出征している。

ある日、妻・グレイスが戦死したとの報せが届く。動揺するスタンレー。

スタンレーは、娘たちにどうやって母の死を伝えるべきか悩む。言い出せないままに、彼は2人の娘を自動車に乗せ、次女ドーン(グレイシー・ベドナルジク)が以前から行きたがっていた、フロリダの遊園地に行くことにする。

幼い次女は無邪気に喜んでいるが、長女ハイディ(シェラン・オキーフ)は突然の父の行動に不審を抱く。

映画は、そうした父と娘たちの、家を出てフロリダに着き、とうとう母の死を伝えるまでの数日間の出来事を淡々と描く、一種のロード・ムービーになっている。

母のいない家庭で、どことなくギクシャクしていた家族が、心を寄せ合い、男にとっては妻を、子供たちにとっては母を失った悲しみを乗り越え、やがてこれまで以上に家族が深い絆で結ばれて行く。

これがデビュー作だという新人監督、ジェームズ・C・ストラウスは、短いエピソードをさりげなく積み重ね、スタンレーが、妻の分まで子供たちを愛して行こうと決断するまでの心の変遷を見事に描いている。

子供たちの演技も自然でとてもいい。特に、多感で、最初は父に反撥していたハイディが、直感で母の死を悟り、動揺してフラフラとあてもなく外を彷徨ったり、大人へと背伸びしたりするうちに(これらのシーンで、私はロベール・アンリコ監督の傑作「若草の萌える頃」を思い出した。分かる人は分かるよね)、やがて父との間に心の絆を取り戻して行く、そのプロセスがとてもうまく描かれている。

脚本も見事(ストラウス自身が手掛けている。サンダンス映画祭の脚本賞受賞)だし、演出も新人とは思えないほど落ち着いている。
特に、留守番電話の使い方が巧みである。スタンレーがこれを使うシーンでは泣けた。他にも、ドーンが母との心の交流に利用するアラーム時計など、いろんな小道具の使い方がうまい。

しかし私がもっとも感心したのは、妻の回想シーンを一切入れていない点である。

これが最近の日本映画だったら、これでもかとばかりに妻との至福の時の回想をベタベタと入れて泣かせようとするだろう。しかし監督はそれを排除し、スタンレーの行動だけを綿密に描いている。…それによって、観客がスタンレーと同化し、彼の心の中に、よりストレートに入って行けるのである。このストイックな演出姿勢を成功させた所に、この新人監督の非凡な才能を感じ取る事が出来る。

イラク戦争に出征した女性兵士…という切り口もいい。正月に観た「勇者たちの戦場」でも女性兵士が登場したが、これをテーマに取り上げる事によって、女性まで駆り立て、残された家族に何重もの悲劇を生む、国家が始めた戦争の空しさがより際立つ様になっている。同時にまた、離婚が極端に多いアメリカ国民に、家族が揃って暮らす幸せの大切さを訴える…という副次的なテーマも見え隠れしているとも言えるだろう。

音楽と主題歌作曲を担当したのがクリント・イーストウッドというのも驚きである。この映画のプロデューサーでもあるジョン・キューザックがイーストウッドに依頼し、作品のテーマに感動したイーストウッドが快く引き受けたとの事である。「父親たちの星条旗」などで戦争の愚かしさを鋭く追及したイーストウッドらしいエピソードである。ギターとピアノを中心とした、しみじみとしたこの音楽も作品にマッチし、素晴らしい効果を挙げている。

 
特に山場もなく、静かで、淡々とした描き方に物足りなさを感じる人もいるかも知れない。

しかし、観ている間は楽しいが、観終わった後に何も残らない映画よりは、こうした作品にこそ真摯に向き合って欲しい。
こういう映画に何かを感じるようになる事こそ、大切な事だと私は思う。

多くの人に観て欲しい、爽やかな小品佳作である。お奨め。      (採点=★★★★☆

(付記)
もう一つ感心した事。

旅を続けるうちに、1日ごとにキューザックの無精ヒゲが濃くなって行く。…何でもないようだが、こういうリアリティを疎かにしない点もストラウス監督、エラい。
そういう事に無頓着な作品が多過ぎるのである。

北野武監督の「菊次郎の夏」という作品がある。これも大人と子供が旅をするロード・ムービーなのだが、途中バス停などに野宿しているのに、たけしのヒゲが全然伸びていない。髭剃りなんて持ってないはずだから、3日も旅したら無精ヒゲがかなり目立つはずである。
お話は悪くないのだが、そういう手抜きがある為、作品にも感動出来なかった。

そういう事もあったから、本作には余計感動出来たのである。…まあ、本来は当たり前の事なのですがね。

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コメント

こんにちは。

そういえば回想シーンがまったくなかったですね。

『若草の萌えるころ』、これってDVDになっているんですね。
ジョアンナ・シムカス、懐かしいです。

投稿: えい | 2008年5月12日 (月) 10:39

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