「僕の彼女はサイボーグ」
「猟奇的な彼女」、「僕の彼女を紹介します」の韓国監督・クァク・ジェヨンが脚本・監督を手掛けた、タイムトリップ・ラブストーリー。
今回は舞台も、登場人物もすべて日本であり日本人。しかし登場人物のキャラクターや展開はほとんど前2作と同工異曲。そのシチュエーションに、タイムトリップとアンドロイド・ネタをまぶしただけ(て言うか、ほとんど「ターミネーター」+「猟奇的な彼女」であるが)。
設定は面白い。ことによったら、感情を持たないアンドロイド(タイトルやセリフに“サイボーグ”とあるが、どう見てもサイボーグじゃない。こういうデタラメなタイトルはやめて欲しい)が次第に学習し、人間の感情を学んで人間の主人公ジロー(小出恵介)との間に愛が生まれる…という感動の物語が誕生するかと期待した(「ターミネーター2」も、シュワ扮するT-800が人間の感情を学習する感動的な物語であった)。
ところが…タイムトリップの設定がムチャクチャであるうえに、アンドロイドの彼女(綾瀬はるか)が学習するプロセスも全然描かれてない。行き当たりバッタリの辻褄が合ってない展開に強引なオチ…と、突っ込みどころ満載。脚本がひど過ぎる。
て言うか、この監督、タイムトリップ・パラドックスについて不勉強過ぎる。もっとロバート・A・ハインラインの「夏への扉」とか「輪廻の蛇」、広瀬正「マイナス・ゼロ」、藤子・F・不二雄「ドラえもん」、手塚治虫「キャプテン・ケン」等のタイムトラベルものの秀作を読んで勉強して欲しい。
(以下、ネタバレがあるが、予告編にも出て来るから隠すほどのものでもない。読みたくない人はパスしてください)
一番説得力のない展開…東京に大地震が発生し、彼女のおかげで危機一髪、助かるのだが、彼女が未来から来て、ジローに起こる災難を前もって知ってるなら、なんで地震発生の前にジローを田舎にでも疎開させない?
それどころか、ジローが、自身が体験した、他人に起きる事故や災厄に心を痛めているのであれば、地震が起きる事を知らせて、少しでも多くの都民を東京から脱出させておくべきではないか。たかだか自動車事故や立て篭もり事件で人助けするより、遥かに多くの人命を救えるではないか。
機銃乱射事件で半身不随となるところを彼女のおかげで助かり、歴史が変わったが、いわゆるタイムパラドックスで言う、揺り戻し現象で別の事故が起きる…という事はとりあえず説明されてるけど、それは通常、歴史上でほとんど目立たない程度のものであって、ジローが助かった程度であんな未曾有の大地震が新たに発生したりはしない。地震が発生した事は、未来においては歴史上の周知の事実であるはずなのだ。…で、結局半身不随にはならなかったのだから、以前に言ってる事とまた矛盾してる。支離滅裂である。
結局は彼女が地震で潰されてしまい、ジローが号泣する…という泣かせの展開にもって行く為の無理矢理な設定でしかない。
ついでに突っ込んでおくが、瓦礫に埋まった彼女を、ブルドーザーも使わず、素手で掘り起こして見つけてしまったのには唖然呆然。ジローもアンドロイドかいっ!
その後の展開も辻褄が合わない。壊れた彼女を数十年後まで保管して修復した…というのはいいが、2008年の過去に送ったアンドロイドの彼女はどうした?
修復した彼女は未来まで存在するのだから、それとは別に同じ顔したアンドロイドを作ったうえ、彼女を過去にタイムスリップさせなければ、ジローは半身不随か、大地震で命を失ってるはずなのだ。この大事な設定を未来においてまったく描いていないのもいいかげんである。
さらに、100年後において、自分と同じ顔したアンドロイドを見つけた生身の彼女が、2007年にタイムスリップしてジローに会う…という展開も、取ってつけたようで強引。
まあこれは許すとしても、その彼女が目撃した、荒っぽい誕生祝い(ケーキに顔を埋める、シャンパンをぶっかける)を、2008年に現れたアンドロイドの彼女がなんで知ってるのか?アンドロイドの記憶が生身の彼女に転送された事は描かれているが、その逆は絶対にあり得ない。
こういうズサンな脚本を、大勢の日本人スタッフが付いてて、誰も気付かなかったのか?
ジローが彼女に連れられ、10年前の自分に出会うシーンはそれなりにノスタルジックで感動的だが、田舎とは言え、1998年のはずなのに、まるで昭和30年代にしか見えない(ジローが隠していた宝物だってレトロ過ぎる)。
クァク・ジェヨンの演出は、とにかく荒っぽい。もう少しきめ細かく脚本を練り、二人の感情の変化を丁寧に描くべきである。
だが、本作で一番許せない点。それは、冒頭に現れた彼女が、いとも罪悪感なしに、窃盗したり、無銭飲食したり、人の家に石を投げ込んだりするシークェンスで、しかもそれを咎めるどころか、一緒になって犯罪行為に加担するジローの無自覚な行動には呆れる。これでは到底主人公たちに感情移入出来ないではないか。
うまく逃げおおせたけれど、もし警察に捕まったら、ジローの人生が台無しになるではないか。善悪が判断出来ないアンドロイドならともかく、普通の常識ある人間である彼女がなんでそんな無茶をするのか、まったく理解不能である。
ただでさえ、罪悪感なしに万引きをするバカな若者が多い現在、こういう行為をカッコいいかのように描くクァク監督の無神経さは耐え難い。これだけでも本作は大減点である。
クライマックスの大地震のシークェンスが終わった後、ダラダラと余計なエピソードを足したり、冒頭と同じシーンをこれまたダラダラとタレ流す等、とにかく脚本のグチャグチャぶりにはうんざりする。本年度のワースト脚本賞ものである。
まあ見どころを挙げるなら、迫力ある大地震のVFXと、綾瀬はるかのチャーミングなロボット演技くらいであろう。この2点でなんとか救われているが、全体的には今年のワーストを競う駄作である。プロデューサーの責任も重大だが、クレジットを見ればプロデューサーはなんとあの山本又一朗サンである。
かつて、長谷川和彦監督の傑作「太陽を盗んだ男」を手掛け、日本映画界期待の星だったのだが、その後はパッとせず、最近では「あずみ」シリーズを手掛けている程度。私は今でも期待してるのだから、もっと脚本に目を光らせ、ダメな所は徹底して直させ、ちゃんとした映画にしておくれよ。頼むから。 (採点=★)
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コメント
タイムパラドクス・・・いい加減でしたね~
結局は蛇足とも思えるタイムトラベルのために仕組んだ脚本だったと思えるのですが、時すでに遅し。俺は宝くじ云々のところでガッカリしてしまいました~
投稿: kossy | 2008年6月15日 (日) 22:44