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2008年6月22日 (日)

映画の本「冬のつらさを -加藤泰の世界」

Fuyunoturasawo 私の30数年来の友人で、ヨコハマ映画祭代表を務める 鈴村たけしさんの執筆による、映画監督・加藤泰の全作品についての解説・作品論をまとめた「冬のつらさを -加藤泰の世界」(ワイズ出版・刊)が発刊された。
今回はこの本についての感想を…。

鈴村さんは知る人ぞ知る、日本有数の熱烈な加藤泰ファンである。13歳の時、加藤監督の「瞼の母」(62)を観て加藤泰作品にハマったそうである。錦之助主演「沓掛時次郎・遊侠一匹」(66)を生涯のベストワンと決め、同人誌にその思いを熱く書き綴り、遂に本人に会う為、遠路はるばるヨコハマから京都まで出かけて行ったり、長時間のインタビューを行って同人誌に掲載したり、その熱意には敬服しきり。数年前にはワイズ出版の「日本カルト映画全集」の1冊として、「沓掛時次郎・遊侠一匹」を責任編集している。

そうした、加藤泰ラブコールの集大成(?)として刊行されたのが本書である。

加藤泰に関する書物としては、ほとんどバイブルとも言える、山根貞男編著による「遊侠一匹・加藤泰の世界」(70・幻燈社)をはじめ、リュミエール叢書「加藤泰、映画を語る」(94・筑摩書房)、「加藤泰映画華」(95・ワイズ出版)、三村晴彦著「『天城越え』と加藤泰」(04・北冬書房)などいくつかあるが、いずれも、加藤泰自身が語っていたり、プロの評論家やゆかりの映画作家たちが書き記したものばかりで、1人で、加藤泰の全作品について作品論を展開したものはこれが初めてであろう。
それを、プロではなく、1熱烈映画ファンが作り上げてしまったのである。しかも堂々、映画関係書を多く刊行しているワイズ出版・刊…である。空前の快挙と言えるだろう。

決して仲間褒めからではなく、これは本当に素晴らしい本である。加藤泰作品に対する、熱い思い入れが伝わって来て、ジンと心に響く。
鈴村さんが最も愛する作品「沓掛時次郎・遊侠一匹」論は、同人誌に掲載されたものも読ませていただいてるが、やはり何度読んでも心うたれる。その他では、「瞼の母」、「みな殺しの霊歌」、「丹下左膳・乾雲坤龍の巻」についての一文も読み応えがある。これほど熱意のこもった作品論は、評論家の文章にも類を見ない。
鈴村さんが、加藤泰本人からお聞きになった事もうまく織り込まれており、加藤泰研究家にとっても資料的価値は大きいと言えるだろう。

褒めてばかりだと贔屓の引き倒しになってしまうので、一つだけ不満を。

加藤泰が、生前映画化が適わず、幻の企画となった「好色五人女」についても書かれてあるが、加藤泰に協力し、この作品の映画化に執念を燃やしていたもう一人の映画人について触れられていない。

その人は、奇しくも先般亡くなった映画評論家の水野晴郎氏。

水野さんは、余程の映画通以外には知られていないが、もっとも早い時期に加藤泰監督を評価した映画評論家なのである。

キネ旬はじめ、いくつかの映画雑誌に、本名の水野和夫名義で加藤泰論を発表している。東映任侠映画についても、熱いオマージュを捧げて来た人である。

テレビの解説で有名になってからは、ほとんどそうした活動は見られなくなったが、「好色五人女」の映画化には加藤さんの生前から尽力されており、その証拠として、一部古書店に出回っている、同作品のシナリオには、“脚本/加藤泰、企画・原案/水野晴郎”とはっきりと書かれてある。
→  http://search.newgenji.co.jp/sgenji/D1/?000105830600/

水野さん自身も、いくつかのインタビューで、「好色五人女」を映画化したいと熱く語っていた。市川崑に監督を依頼しようともしたらしいが実現しなかった。

体調を崩されてからも、「『好色五人女』を映画化するまでは、絶対に死ねない!」とも語っている。
→  http://auctions.yahoo.co.jp/html/entget/200401/sibeex/interview1b.html

この事も、是非書いて欲しかった。そうすれば、この本の出版日(6月17日)の丁度1週間前に亡くなった水野さんの、絶好の追悼にもなった事だろう。

まあそれは私の無いものねだり。この本の価値が下がる事はいささかもない。

映画ファン、特に加藤泰ファン、古い日本映画ファンには是非お奨めしたい1冊である。

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コメント

本の紹介ありがとうございます。
加藤泰監督ファンとしてはすぐ購入します。
私が最初に監督を知ったのは「瞼の母」、そして「真田風雲録」でファンとなり、「三代目襲名」でコロリ。藤純子にもコロリでした。
ワイドスクリーンの使い方は、深作欣二監督と並んでうまかった。「遊侠一匹」のローアングルにも独特の美学があって、情の世界とマッチして驚嘆しました。

投稿: 筆知 刻久 | 2008年7月 2日 (水) 22:06

書き込みありがとうございます。挙げられている作品はどれも好きです。
ワイドスクリーンの使い方と言えば、「緋牡丹博徒・お竜参上」が見事でしたね。
人物を隅の方に配置し、風景の広がりを強調したり、対角線の構図を使ったり、お君との対面では7分間の長回しで、背景、前景の人物にもきちんと演技させていました。傑作の1本ですね。

私のお気に入りを挙げるなら、内田良平主演「車夫遊侠伝・喧嘩辰」です。ユーモアとアクションとラブ・ストーリーが絶妙に配置された、いかにも加藤さんらしい名作です。

投稿: Kei(管理人) | 2008年7月 4日 (金) 15:13

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