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2008年7月16日 (水)

「ミラクル7号」

Miracle7 (2008年・ソニー・ピクチャーズ/監督:チャウ・シンチー)

「少林サッカー」でわが国でも一躍人気俳優・監督になったチャウ・チンチー製作・脚本・監督・主演の、ハートフル・SF・コメディ・ホームドラマ(欲張りすぎ(笑))。

超ビンボーなティー(チャウ・シンチー)とディッキー(シュー・チャオ)親子が主人公。ある日、ティーは、ゴミ捨て場でUFOが忘れていった緑のボールを拾い、ディッキーに与える。やがてそれは可愛い4本足のペットに変身。ディッキーはそいつを“ミラクル7号―ナナちゃん”と名付け、可愛がるのだが…。

ハチャメチャでぶっ飛んだギャグで、いつも楽しませてくれるチャウ・シンチー作品。今回は、スピルバーグの「E.T.」をベースにしたSFファンタジー色の濃い作風で、そこに子供同士の交流や、親子の情愛をからめた、今までとは一風変わったジャンルに挑戦している。

しかも、今回は主演ではなく、脇に回り、子役のシュー・チャオ扮するディッキーが中心なのである。

この子がとてもうまい。完全にシンチーを食っている。
昔から、映画界では“子供と動物にはかなわない”と言われている。可愛らしいうえに、名演技をされると完全に食われてしまうからである。本作では、子供がうまくて可愛いのに、その上にイヌに似たナナちゃんまでがとっても可愛いらしくて、これでは大人はかなう訳がない(笑)。

(以下ネタバレにつき隠します)
無論、シンチーらしいおバカで下品な笑いは健在で、夢の中ではドラえもんやら「M.I.Ⅱ」やら、自作の「少林サッカー」「カンフーハッスル」のパロディも盛大に飛び出して楽しませてくれるが、肝心のナナちゃん、現実にはまったく役に立たず、ひねり出したのはウ○チだけというお下品ぶりには大笑い。ただ、家の中をゾロゾロ這い回るゴキブリ潰し遊びはさすがに気色悪く、小さなお子さんは真似しないでください(笑)と言っておきたい。
↑ネタバレここまで。

これまでのシンチー作品と明らかに異なるのは、お笑いギャグが、夢のシーンを除くとかなり少なく、特に後半部に至ってはほとんど影を潜めている。

主流となっているのは、ディッキーの学校生活であり、お金持ちグループとの喧嘩、そして仲直りと進展する。

即ち、大半は、子供たち同士の交流、あるいは子供の目線で、父親におもちゃをねだったり、嫌味な先生を観察したりといった、ありふれた日常生活が描かれているのである。

この辺り、これまでのおバカでハチャメチャ・ナンセンスな笑いを提供して来たシンチー映画のパターンに、明らかな変化が見られ、新境地を開いたと言えるだろう。

 
特に興味深いのは、チャップリン映画、―特に「キッド」からの影響である。

その超リアルなビンボー生活ぶりや、父子の心あたたまる交流など、「キッド」を彷彿とさせるシーンは多い(「キッド」は本当の親子ではないが)。
チャップリンの子供時代は極貧であった事は知られているが、シンチーもやはり子供時代は超ビンボーだったそうだ(ゴキブリ叩きは実体験に即しているらしい(笑))。

本作は言わばシンチーが、ドタバタ・ナンセンス・ギャグからスタートし、次第にそこから脱却し、ペーソスや人間模様を描く独自の世界を築いて行った天才・チャップリンの後を追いかけようとしているのではないか…と思わせる作品なのである。

自分で製作・脚本・監督・主演と何でもこなしてしまう所も、チャップリンとよく似ている。

 
この映画で泣かせる所は、工事現場監督(シンチー映画常連のラム・ジーチョン)が、最初は口うるさいけれども、本当は人情家である事が分かるくだりである。…この辺り、小津から山田洋次に至る、松竹大船人情コメディを思い出し、ホロっとさせられた。

人々は貧乏だけれども、人情があり、親子の情愛があり、子供たちも喧嘩はしても、思いやりや優しい心は失っていない(その点は、わが「ALWAYS 三丁目の夕日」と合い通じる所がある)。
単なるナンセンス・コメディには終わっていないのである。

そこが、受け入れられる人と、そうでない人と意見が別れる点だろう。「少林サッカー」等のおバカ・コメディに笑った人は少々物足りない出来かも知れない。…そもそも、“貧乏”自体、今の時代には死語と化しているのだから。

しかし、安定したナンセンス・コメディ路線に安住せず、こうした冒険にチャレンジするシンチーの姿勢は、私は大いに評価したい。

そのうちに、チャップリンの名作にも匹敵する、映画史に残るような傑作コメディを作ってくれるかも知れない。…それを期待したい。

(蛇足1)
ナナちゃんを失って傷心のディッキーの元に、大量の○○○が押し寄せる感動のラストは、ひょっとして、A・ラモリスの名作「赤い風船」(最近リバイバル公開)のパロディ? 

(蛇足2)
日本ではチャウ・シンチーで通っているが、クレジット・タイトルでは“スティーブン・チョウ”と表記されている。

成 龍がジャッキー・チェン、李 連杰がジェット・リーと我が国では英語表記で呼ばれているのに、なんで周 星馳はチャウ・シンチーで、スティーブン・チョウではないんでしょうか?
李 連杰も当初はリー・リンチェイと呼ばれていて、こっちが馴染み深かったのに、途中からジェット・リーに変わったくらいだから、彼だけ例外というのは納得できない。

まあ、スティーブン・チョウ…よりは、チャウ・シンチー…の方がコメディアンっぽい語感でいいとは思いますがね(チョウでなくチャウになったのもよく分からんが…、チョウ・ユンファ(周 潤發)と同じ漢字だし。チョウ・シンチー…う~ん、チャウがな…と間寛平にでも言われたのでしょうか?(笑))。    (採点=★★★★

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コメント

周囲に観てる人がおらず、この作品の感想語ってくれる方を待っておりました!

私はシンチーは大好き過ぎるため、やや贔屓してしまうのですが、この作品も大好きです。

「赤い風船」って知らないのですが、気になってきました。観にいってみたいと思います。

あとシンチーって音楽選ぶセンスが凄いです!椅子に座って観ているのがツライくらい楽しいです。久しぶりにサントラが欲しいと思う作品でした。

ここから先ネタバレなため、未見の方は注意してください。まずかったら遠慮なく削除願います。

主人公には見えていても、テレビを拾うことに夢中な父やインチキUFOウォッチャーには宇宙船が見えておらず、見えない宇宙船で「希望溢れる」ラストに使われている(と解釈)そんなところが大好きです。

投稿: タニプロ | 2008年7月16日 (水) 23:57

タニプロさん、こんにちは。

「赤い風船」は、少年と、まるで生き物のような風船との交流が微笑ましくて泣ける、映画史上に残る秀作です。是非ご覧ください。

>シンチーって音楽選ぶセンスが凄いです!
ボニーMが歌うディスコ調の「サニー」なんか、ノリノリで楽しいですね。これは私の大好きな曲です。

そうか!宇宙船はディッキーにしか見えていないのか。…そう考えると、UFOが現れても誰も騒がないのも納得ですね。
ありがとうございました。また書き込み、よろしくお願いいたします。

投稿: Kei(管理人) | 2008年7月17日 (木) 09:45

keiさんのいうとおり、中国ではチョウと発音されていました。こっちが正しいと思います。けっこう外国語名は最初の間違いで一般化することが多いので、特に理由はないのではないでしょうか。キューブリックとかと同じで(もっといろいろご存知と思いますが…)。それと、英語名より先に中国語名が浸透したのでそれでメディアでは一般的になったのでしょう。海外進出する前のジェット・リーも、ワン・チャイの頃迄ずっとリー・リンチェイでしたけど、あくまでマイナーだったのであんまり一般化しなかったんでしょうね。

投稿: foxbase | 2008年7月21日 (月) 01:10

「赤い風船」観て来ました。本当に素晴らし過ぎます。感想を言葉にできないほどです。教えてくださり本当に感謝しております。ありがとうございます!

点数にしたら映像・演出・脚本・演技・音楽全てにおいて100点です。しかしどうやって撮影したのでしょうか??

でも確かにミラクル7号は意識してそうですね!

投稿: タニプロ | 2008年7月29日 (火) 23:03

トラックバック、コメント、ありがとうございました。ご無沙汰しております。ここのところ、どーしても、映画館から足が遠ざかっています。今年はまだ、去年の半分も観ていません・・・頑張らねば!
「キッド」を書かれていますね。嬉しいです。私も観ながら、これは正にキッドだ!とゾクゾクしておりました。長くチャップリンを観ていませんが、本作を観て、チャップリンをまた観たいという気にさせました。
この監督、重いテーマを笑いで包む・・・チャップリンにとても似ています。素晴らしい監督です。

投稿: 冨田弘嗣 | 2008年8月26日 (火) 00:38

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