「ハプニング」
(2008年・20世紀フォックス/監督:M・ナイト・シャマラン)
「シックス・センス」で大ヒットを飛ばすが、以後1作ごとにテンションが落ちて行ってる(ようにしか見えない)シャマラン。
「ヴィレッジ」までは、いろいろとラストにどんでん返し的オチを持って来ていたが(それとて「シックス-」の衝撃には遥かに及ばないが)、前作「レディ・イン・ザ・ウォーター」では、アッと驚くオチを捨てて、ファンタジーの世界に逃げ込んだようである。残念ながら、それがどんでん返しを期待するシャマラン・ファンにも一般ファンにも不評で大コケだった。
それでも、ちゃんとメジャーが資金を出して映画を作らせてもらえるのだから、ある意味幸せな映画監督である。
本作は、これまでのブエナ・ヴィスタ、ワーナーとは離れて堂々、20世紀フォックス配給である(製作プロダクションはこれまでと同じスパイグラス・エンタティンメント)。
で、本作は、これまでの判り易いオチを捨てて、“得体の知れない恐怖”という、(彼にとっては)新ジャンルに挑戦している。
ある日突然、多くの人々が理性を失い、次々と自殺を始める。それはアメリカ東部に次第に蔓延して行き、恐怖にかられた人々は逃げ惑い、パニックになって行く…。
“正体の分からない恐怖”に人々が恐れおののく…というタイプの作品は、これまでにもいくつかある。有名な所では、スリラー映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督の傑作「鳥」がある。
“原因がついに解明されないまま終わる”という画期的なエンディングを用意した…という点でもこの作品は革命的な傑作であった。
シャマラン監督は、おそらくはこの「鳥」から多くのヒントを得ていると思われる。突然死体が現れて観客を驚かす手法とか、疑心暗鬼にかられてヒステリックになる人間とか、全体としては、これは世界が滅びる前兆ではないかと匂わすエンディング…等である。
そう言えば、シャマランの「サイン」にも、「鳥」とそっくりのショッカー演出が取り入れられていたのを思い出す。シャマランは、ヒッチコックのファンではないかと思われる。
また、これも名作、ドン・シーゲル監督「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」では、原因は宇宙からの侵略であるのだが、人々が次々と体を乗っ取られ、別人格となった人間が世界中に蔓延して行く…という恐怖が描かれていた。
また、ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」に始まる“ゾンビ”ものも、ゾンビ化した人間がどんどん増殖して行く展開や、感染すれば自分もゾンビになるのではないか…というサスペンス描写に本作との類似点がある。
ゾンビものと言えば、そのバリエーション「28日後」(ガイ・リッチー監督)も、恐怖が世界中に蔓延して行くサスペンスの佳作だった。
本作は、そうした、得体の知れない恐怖に追い詰められるサスペンス映画のパターンを巧みに応用した作品であり、“自分もいつかは狂うのではないか”という恐怖と合わせて、そんな絶望の中で、どことなく冷えかけていた主人公夫婦の絆が、この事件をきっかけとして回復して行くプロセスも描かれている(妻の浮気相手の声がシャマラン自身だとエンドロールで分かるのにはニヤリとさせられた)。
また、さりげないエピソードではあるが、ある一軒家で、人間不信となった住人が、ドアをしつこくノックする若者を猟銃で簡単に撃ち殺したり、世間を捨て、誰とも付き合わない孤独な老婦人を登場させたりと、現代社会が抱える歪みもきちんと描写されている辺りも、作品に厚みをもたらしている。
そういう点では、「シックス・センス」の感動を期待するシャマラン監督ファンには、やはり物足りない作品とは言えるが、半面で、シャマラン監督作品だと思わなければ、これはこれで面白いサスペンス映画なのである。
ただ惜しいのは、本作の直前に、“得体の知れない恐怖”を描いた快作「ミスト」が公開されたばかり。これがなければもう少し評価が高くなったかも知れない。ラストのオチも負けてますしね(笑)。
というわけで、採点するなら、シャマラン監督に期待するファンから見れば、またガッカリの★☆程度、シャマランを意識しなければ、 (採点=★★★☆)という所だろうか。
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