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2008年7月18日 (金)

「カメレオン」

Camereon (2008年・東映/監督:阪本 順治)

企画・黒澤満、脚本・丸山昇一、製作・セントラルアーツ…懐かしい名前である。かつて1970年代後半から'80年代にかけて、数々のB級アクション・ドラマを世に送り出して来た名コンビである。―特に、松田優作主演作品に傑作が多い。テレビの「探偵物語」(79~80)、映画では「処刑遊戯」(79・丸山の劇場デビュー作)、「野獣死すべし」(80)、「ヨコハマBJブルース」(81)…日本映画には珍しい、硬質なハードボイルド・ムービーの傑作群であった。

だが、優作はやがて「陽炎座」(81)、「家族ゲーム」(83)、「それから」(85)等の非アクション・文芸作品路線に方向転換し、黒澤+松田+丸山トリオの作品は86年の「ア・ホーマンス」(松田優作・監督)で途切れる事となる。

だが、実は優作と丸山とは、深い絆で結ばれた盟友であり、優作が丸山に依頼し、丸山が優作主演を想定して書きながら、未映画化となった脚本は30本近くあるという(丸山談)。

そのうちの6本ほどが、幻冬舎から刊行されている松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集」に掲載されている。また、優作主演で企画されながら映画化に至らなかったもののうち、「ドッグ・レース」は'98年に鄭義信が丸山脚本を原案として書き直し、崔洋一監督で映画化された。

そうした優作+丸山コラボから生まれた未発表シナリオのうちの1本が、数十年の時を隔てて映画化されたわけである。どんな作品に仕上がったか、興味津々で出かけた。

 
<映画「野獣死すべし」やTVドラマ「探偵物語」で知られる脚本家・丸山昇一が、およそ30年前に松田優作のために企画した幻の脚本「カメレオン座の男」を映画化した作品>
(eiga.comより)

…という事なのだが、正確に言うと、丸山昇一が脚本家としてデビューしたのが、1979年9月から始まったテレビシリーズ「探偵物語」(黒澤満プロデューサーから“書いてみないか”と勧められて書いた)であるわけだし、劇場映画デビューの「処刑遊戯」は'79年11月公開だから、本作が書かれたのは早くても'79年後半ではないだろうか。

なお、Yahooムービーの解説では「“遊戯シリーズ”第2弾」となっているが、“遊戯シリーズ”はいずれも、殺し屋・鳴海昌平が主人公のスタイリッシュなアクション・シリーズであり、かつシリーズ2作目の「殺人遊戯」'78年12月公開であるので、これは間違いではないか。

 
(以下、ややネタバレになりますのでそのつもりで…)
さて、本作の感想だが、出だしで、ベテラン旅芝居役者たち(犬塚弘、谷啓、加藤治子)や若者たちとチームを組んで仕掛けた、結婚詐欺の模様が描かれる。

あんなに気前良く結婚祝い金をくれるだろうか…という詮索はさておき、この出だしから、私はてっきり後半のクライマックスは、政財界の黒幕を相手に、「スティング」ばりにまんまといっぱい食わせる大掛かりなコン・ゲームを仕掛けるのかと思った。
(実際、企画・黒澤+脚本・丸山コンビ作品には、文字通りコン・ゲームを主題とした「紳士同盟」(86・那須博之・監督)という作品もある)

ところが、後半では、旅芝居役者たちはいつの間にか消えてしまい、前半はひ弱そうに見えた伍郎(藤原竜也)が、突然優作の“遊戯シリーズ”ばりの壮絶なガン・アクションを展開する。

これには面食らう。伍郎がそんなに拳銃捌きとか、ジャッキー・チェンばりのアクション(階段を一気に滑り降りる)が得意であるなら、前半で何らかの伏線を撒いておくべきではないのか。
まるで、前半と後半とが、別の作品のように見えてしまう。これはマイナス。

せめて、“遊戯シリーズ”お約束のように、主人公が黙々と身体を鍛え、拳銃射撃の練習をしているシーンを入れておけば良かったのに…。そういう意味では“遊戯シリーズ”の面白さに残念ながら及んでいない。

敵の、まるでCIAかと思えるような劇画チックな秘密組織も、前半の老役者たちとのほのぼのとした擬似家族ムードとはミスマッチで、違和感ありあり。

エンディングの、証拠写真ばら撒きで事件が解決するなら、もっと最初からばら撒けよ…と突っ込みたくなる。国会の証人喚問の場にあんなに簡単に侵入出来るか…とか、義手シーンの必要性は?…とか、突っ込みどころは一杯ある。
…これが元のシナリオ通りであるなら、はっきり言ってお粗末なシナリオである。
優作主演で企画されながら、映画化が実現しなかったのは、脚本の出来がイマイチだったからではないのか。丸山としてもデビューしたばかりで、優作からあれもこれもと要求され、まとまりを欠いた、不満足な出来になったのかも知れない。

そうであるなら、元の脚本を叩き台に、黒澤+丸山+阪本のトリオでみっちりと脚本を改訂すべきではなかったか。

 
ただ、つまらなかったかと言えばそうでもない。ホテルからの要人拉致シーンは、阪本順治監督の秀作「KT」のセルフパロディのようで笑えたし、中盤の廃工場を舞台のカーチェイスは、“遊戯シリーズ”1作目「最も危険な遊戯」をはじめとする、いくつかのセントラルアーツ製作のB級アクションやVシネマを思い起こさせ、楽しませてくれた。
後半のガン・アクション・シーンも、そこだけを取ってみれば“遊戯シリーズ”を彷彿とさせ、ワクワクさせてくれる。
部分的には、優作映画へのリスペクトも含まれた、適度に見せ場が配置されたB級アクションとして楽しんでもいいだろう。

しかし、この映画に決定的に不在であるもの……それは、松田優作の肉体である。藤原竜也も今の若手の中ではよく頑張ってる方だが、優作の引き締まった身体、機敏な身のこなし、クールで情念を秘めた表情…どれも遠く及ばない。彼がいたなら、あるいはもう少し良い出来になったかも知れない。
優作死して19年…未だに彼を超えるアクション・スターを日本映画界は得ていない。―その事を、本作を観て、改めて痛感せざるを得ない。惜しみて余りある。嗚呼。

(付記)
敵のリーダーを演じた豊原功補が、昔は気の弱そうな役柄が多かったのに、本作では貫禄充分な悪役を演じていたのに目を瞠った。
出て来た時は、一瞬、韓国映画の名優、ソン・ガンホかと思ったよ(笑)。   (採点=★★★☆

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映画では省略されたエピソードや、説明不足だった部分も含まれている。

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コメント

逆に、松田には出せない
不思議な魅力が
フジサラにはあったと思うよ

投稿: 篠田 | 2008年7月19日 (土) 01:27

藤原だった、間違った
先入観で見過ぎだと思う

投稿: 篠田 | 2008年7月19日 (土) 01:29

篠田さま こんばんは。

本文にも書いていますが、
藤原竜也はよく頑張っていると思いますよ。
現代の若手の中では、演技もしっかりしてるし、いい役者だと思います。「デス・ノート」のライト役なんて、唸りましたよ。
ただ、本作では脚本の出来が悪く、その魅力を生かし切れていないのですね。

チンケな詐欺をやってた若者が、後半で突然プロの傭兵軍団を相手に銃撃戦やって、勝ってしまう…これではリアリティなさすぎです。ご都合主義です。
藤原が悪いのではなく、そんないいかげんな脚本を直さなかった阪本監督の責任ですね。残念です。

投稿: Kei(管理人) | 2008年7月19日 (土) 22:01

もう何年も前の記事に
コメントするのもなんですが、
映画の中で主人公が
かつて拳法を学んでいたり、
マフィアの用心棒をやっていたと
(さすがに無理がある設定ですが)
一応説明はされていましたよ。

投稿: | 2013年5月 7日 (火) 06:10

◆---さま(名前がありません)

言葉で説明するだけじゃダメですよ。そんなんだったら何でもアリになってしまいます。
映画としては、上にも書いたように、前半の方でこの主人公が優れた戦闘能力を持っているという事を、伏線として匂わすショットを挿入しておくべきでしょう。
例えば、何かの拍子に凄い瞬発力を見せる場面とか、裸になると精悍な体に数ヵ所切傷があるとか。

百歩譲って、主人公が過去に裏の世界で凄腕のエキスパートであったとしましょう。
しかし、今は暴力を使わない仕事に付き、足を洗ってかなりの時間が経っていますから、身体はナマってるでしょうし、筋肉も落ちてるでしょう。故に、対決の前に身体を鍛え直す描写をどこかに入れるのが普通でしょう(繰り返しになりますが、松田優作の「遊戯」シリーズでは必ず決闘の前に体を鍛え射撃の練習を繰り返す描写があります)。そうした細かい配慮が足りないから問題だと言ってるのです。

一つ例を挙げましょう。山田洋次監督の傑作「たそがれ清兵衛」。
この作品では中盤、清兵衛が果し合いをせざるを得なくなるのですが、その前日、木ぎれを使って素振りをするや、「いかん、身体がなまっている」とつぶやき、さらに何度も素振りを繰り返すのです。
これがある為、翌日の果し合いで清兵衛が勝つのも十分納得出来ます。
が、これがまた伏線となって、ラストの余吾善右衛門との壮絶な死闘で、清兵衛はかろうじてながらも勝利するのです。
つまりはラストの決闘で主人公が勝つ為の説得材料として、2段構えの伏線が配置されていたわけです。
それまで山田監督はアクション映画を1本も撮った事はないですし、またこれはアクションが売りの映画でもありません。山田監督らしい家族愛、親子愛がテーマの作品です。それでもここまでやっているのです。これがプロというものです。
どうでしょうか、ご納得いただけたでしょうか。
ともあれ、ご指摘には感謝いたします。

投稿: Kei(管理人) | 2013年5月10日 (金) 00:10

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