「ひゃくはち」
着眼点が面白い。高校野球に青春を賭ける若者たちが主人公だが、エースや4番バッターどころか、試合にも出させてもらえない万年補欠部員2人組(雅人(斎藤嘉樹)とノブ(中村蒼))の日常とヘタレな友情が描かれている点が目新しい。
その友情も、真っ直ぐではなく、ノブはベンチ入りの20人枠に入れなかった事が分かると、雅人のポジションに割り込んで、雅人を蹴落とそう…とまでする。
グラウンド外では、タバコは吸うし酒も飲む、女遊びはする…と、かなり不謹慎。この辺りは良識派から非難も出そうである。
でも、サボっているわけではない。練習は朝早くから一心不乱に取り組んでいるし、野球に賭ける熱意は誰にも負けない。
ただ、素質や実力が伴わない為にレギュラーになれないだけなのだ。
これまでの高校野球ものと言えば、なんとなく潔癖で、ストイックで、理想的な若者像が多かったと思う。あるいは、多少クセがあっても天才的な選手が主人公だったりする。
でも、それって、ウソ過ぎやしないか?きれいごと過ぎやしないか?
一生懸命野球に取り組んでる一方で、暇があれば女の子と遊びたい、内心では誰かかケガをしてくれないだろうか、…などと、人間的な悩みや煩悩を抱えている時だってあるかも知れない。いや、それが自然なのかも知れない。
補欠の1年生がケガでリタイアすると、雅人はノブに、「不謹慎だけど、喜べ!!」と伝えに来る。こうして友情が復活する辺りも微笑ましい。
予選ではベンチに入れるが、甲子園では18人しかベンチに入れない。背番号19番と20番の雅人とノブは、その場合スタンドから声援を送るしかないのだ。
それでも彼らはくったくがない。試合に出られなくとも、ピンチの際に備えたある“特訓”を黙々とこなし、その正体が明らかになるラストは爽やかで楽しい。
タイトルの「ひゃくはち」とは、人間の煩悩の数であると共に、硬式ボールの縫い目の数だそうだ。
こうした、煩悩だらけの、どこにでも居そうな等身大の青春群像をユーモラスに、時には決め細やかに捉えた、新人監督、森義隆(まだ29歳!)のセンスが光る。ユニークな青春映画の佳作である。
特に印象的だったのは、無人のグラウンド、ベンチ、ポツンと置かれた、縫い目の数がカウントされたボール…などの、誰もいない風景を点描的に積み重ねたショットである。古い日本映画では見覚えがあるが、最近ではとんと見なくなったこうした演出に、監督の新人らしからぬ技巧の冴えを感じた。
鬼監督を演じた竹内力、雅人の父親を演じた光石研が好演。新人、森監督の次回作にも期待したい。
少しだけ難点を挙げれば、未成年者の飲酒、喫煙は法律違反。前半くらいは構わないが、終盤あたりでも、彼らがきっぱり、それらを断ち切るシーンを入れるべきであった。映画を観て、高校生たちが法律を破る事に罪悪感を感じなくなるかも知れないからである(もっとも、エンドロール後にちゃんとオチはありましたが…)。 (採点=★★★★)
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