「ショーン・オブ・ザ・デッド」(ビデオ)
「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」があまりに面白かったので、レンタル屋でDVDを探して、エドガー・ライト監督の前作を鑑賞した。
いやあ、面白い!これも傑作だ。脚本:エドガー・ライト&サイモン・ペッグに主演:サイモン・ペッグ&ニック・フロストも新作と同じ、。
原題 "Shaun of the Dead" が示すように、本作は明らかにジョージ・A・ロメロ監督の「ゾンビ」(原題:"Dawn of the Dead")にオマージュを捧げた作品。
しかし、単なるパロディではない。ストーリーや人物設定が綿密に組み立てられており、おバカなギャグ部分を除いたとしても、ちゃんと見れるしっかりした作品になっている。
主人公ショーン(サイモン・ペッグ)は優柔不断で、人生に目標を持たず、幼なじみのエド(ニック・フロスト)とツルんで遊んでばかりで、恋人リズにも愛想をつかされて別れ話の危機にある情けない男。
そんな彼が、ゾンビの襲来という大事件を契機に、両親を、仲間を、そして恋人を守る為に次第に勇気とリーダーシップを発揮し、リズとの愛を取り戻し、立派な男として成長して行く…というお話を、笑いと恐怖と、原典に対するオマージュをたっぷり盛り込んで、スリリングで楽しい快作に仕上げている。
「ホット・ファズ」でも感じたが、細かい設定や伏線の張り方もぬかりなく、そして物語としても丁寧に作ってあるので、見終わった後でもいろいろ考えさせられ、決して笑って終わりの爆笑コメディにはなっていないのである。
特に、ショーンと両親との親子の絆がじっくり描かれているのには唸った。(以下はネタバレ)義理の父(ビル・ナイ)がゾンビに噛まれ、死ぬ直前、「お前を愛していた。母さんをよろしく頼む」と息子に告白して息絶えるシーンは思わずホロッと泣かされそうになる。…が、その直後、父がゾンビとして生き返った途端、ギャーッとみんなが逃げ出すという緩から急への展開には大笑いした。さすがはブラックジョークの国、イギリスである。
ちょっとしたシーンでも、無駄がほとんどない。悲しみを紛らわす為、夜中にレコードかけて大騒ぎした為、ルームメイトにレコードを窓から捨てられるシーンがあるが、これが後の伏線になっている。ゾンビに襲われ、いろんなものを投げつけるがタネ切れになり、そこで、くだんの窓の外に落ちていたレコードを見つけて投げつけると、これが効き目があるので、レコード・コレクション・ボックスを取り出し、どのレコードを投げるかでいちいち「投げろ」、「あ~ダメ!」と選別するシーンがケッサクである。命が危ない時にコレクションを選んでる場合じゃないだろ!とツッコミを入れたくなる(笑)。唐突に黒澤明の「七人の侍」で、ジッサマが「首が飛ぶかどうかの時に、ヒゲの心配してどうするだ」と言う名セリフを思い出した。(ネタバレここまで)
ゾンビの群れの間を通過するのに、ゾンビの真似をしてはという事になって、ゾンビの仕草をレッスンするシーンも笑える。この辺り、ゾンビ映画を多数観ている人ほど楽しめるだろう。
ともかく、至る所に張り巡らされた、ジョージ・A・ロメロ監督の“ゾンビ”シリーズ("・・・・ OF THE DEAD"シリーズ)へのオマージュ、イギリスらしいシニカルでブラックなギャグには笑わされっぱなし。久しぶりにビデオ見ながら、ガハハハ…と笑ってしまった。
ラストのオチも皮肉っぽくて笑える。このオチは、ひょっとしたらカナダ製ゾンビ・パロディ映画「ゾンビーノ」(2006)にパクられたのではないか。
本家のG・A・ロメロ監督にも本作は大いに気に入られ、ロメロ監督のゾンビ最新作「ランド・オブ・ザ・デッド」(2005)に、ライトとペッグはカメオ出演している。
「ホット・ファズ」を気に入った人には絶対のおススメである。…と言うか、これから「ホット・ファズ」を観たい…と思ってるなら、先に予習としてこの作品を鑑賞してから観る事をお奨めする。「ホット・ファズ」がもっともっと楽しめること請け合いである。
こんな楽しくて笑えるコメディが、なんで日本未公開なのだろうか(なにしろ本作は世界中で大ヒットしてるというのに)。「Mr.ビーン」よりずっと笑えるぞ。こういうのをヒットさせるのが宣伝マンの腕だろうが。配給会社、猛反省して欲しい。 (採点=★★★★☆)
(付記)エンド・クレジットに、“音楽監修”("MUSIC SUPERVISOR")として、“ニック・エンジェル”の名前があった。ははーん、「ホット・ファズ」のサイモン・ペッグ演じる、ニコラス・エンジェルの役名は、この人からいただいたのだろう。調べたら「ホット・ファズ」でも音楽監修を担当してるのだそうな。これから「ホット・-」を観られる方は、是非エンド・クレジットにも注目のこと。
DVD
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