「片腕マシンガール」
(2007年・FEVER.DREAMS=日活/監督:井口 昇)
アメリカのビデオ製作会社の資本により、日本スタッフ、俳優だけで作られた、B級カルト・スプラッター・ムービー。
ドギツイ、スプラッター描写がある為、日本での公開は無理だと言われていたが、「映画秘宝」誌が取り上げ、ネットでも予告編が公開され、話題を呼んでめでたく日本での公開が実現した。「ホット・ファズ」の輸入といい、「映画秘宝」の尽力には頭が下がる思いである。
公開が限定されている為、私も気にはなっていたが、なかなか鑑賞のチャンスがなかった。
ところが、調べてたら、なんと私の仕事先から歩いて10分!のところにある“神戸アートビレッジセンター”という所で上映している事が分かり、かくして、仕事が終わった後、ゆっくり食事して本作を鑑賞する事に相成ったのである。
近いのはいいが、夜8時20分からの1回のみの上映である。しかも、地下1階の、倉庫のような部屋で、座席がなんと!折畳みパイプ椅子に、座布団が敷いてある(笑)。オイオイ。
映像も恐ろしくヌケが悪い。もっとも、元々ビデオ上映用で、デジタルビデオ撮りだというから映写環境だけのせいでもないようだが。
しかし、映画は面白かった。本編が始まる前に、3分ほどのイントロがあり、井口監督と特殊造形担当の西村氏が褌一丁で登場し、「面白い所では盛大に拍手を」と言って拍手の指導をするくだりが楽しい。作者たちははっきり、“この映画はバカ映画ですよ”と宣言しているわけである。ここでノレない人はこの映画を楽しむ資格がないと言えるだろう。
スプラッター描写も、グロと言うよりはおバカで笑える作りであり、ピーター・ジャクソン監督の出世作「ブレインデッド」にテイストは近い。あの作品が好きな人は間違いなく楽しめるだろう。
ヤクザの息子・翔をリーダーとした不良グループのいじめにより、たった一人の弟を亡くした女子高生アミ(八代みなせ)。彼女は弟が遺したノートから、殺した相手の名を知り、復讐を誓うが、翔の父親に捕えられ拷問に合い、片腕を失ってしまう。かろうじて脱出したアミは、同じく息子を失った母親ミキ(亜紗美)に助けられ、ミキの夫が作ったマシンガンを武器に、ミキと共に翔たちに戦いを挑む。…
アメリカのオタク向けのビデオである為、寿司、テンプラ、ヤクザ、忍者、日本刀などの日本ネタが散りばめられている。
笑えるのが、ヤクザである翔の父親・龍二(島津健太郎)が、服部半蔵の血を引く忍者の末裔(笑)で、ジャージ着用の中学忍者部隊!を配下に置き、十字手裏剣が飛び、龍二は武器として空飛ぶギロチン!を使用する…といった具合に、脱力するパロディとギャグがてんこ盛り。タランティーノのグラインドハウスのノリである(服部半蔵や空飛ぶギロチンは「キル・ビル」にも登場するし、片腕ならぬ片足マシンガンは「プラネットテラー in グラインドハウス」でおなじみ)。
空飛ぶギロチンのオリジナルは香港映画「片腕カンフー対空飛ぶギロチン」。そう、こちらもヒーローは片腕である。
マシンガンの型は、どちらかと言うとマカロニ西部劇に登場するガトリング砲。セーラー服の少女が片腕マシンガンをぶっ放すシーンはなかなかカッコいい。「スケバン刑事」といい、「BLOOD The Last Vampire」といい、セーラー服は戦う少女の戦闘服(「スケバン刑事」のキャッチコピー)なのだ。「セーラー服と機関銃」という映画もありましたなぁ。
突っ込みどころも満載だし(自動車修理工場主がなんで機関銃を製造出来るの?とか、アミが飛び上がるシーンで無いはずの左手が生えてたり…とか)、予算不足でSFXも特殊造形もチープだとか、役者がヘタでアクションもゆるい…とか、難点は多い。
しかし、そうした難点を補って余りある、井口監督のエンタティンメントとしての過剰なまでのサービス精神には素直に脱帽したい。
日本映画が面白かった時代には、そうした観客を楽しませる、過剰なまでのサービス、猥雑なバイタリティが画面狭しと溢れていた。鈴木則文監督のポルノ・コメディやB級アクション、石井輝男監督の「直撃地獄拳・大逆転」、三隅研次監督の「子連れ狼」シリーズ…等々である(ちなみに、すべて東映、東宝等の大手会社配給である)。なお、井口監督の尊敬する監督の1人は鈴木則文さんだそうである。
日本映画が元気がなくなると同時に、こうしたふてぶてしいまでのバイタリティに溢れた映画は影を潜めてしまった。
しかし、映画の根源的な面白さは、そうした猥雑で過剰なサービス精神から生まれるものである。
タランティーノが、こうした過剰なサービス精神溢れる日本映画を愛し、リスペクトを捧げてくれたおかげで(また、「映画秘宝」誌等の努力のおかげで)、そうした映画が見直され始めているのはまことに喜ばしい事である。
もっともっと、特に日本国内でも、サービス精神溢れるB級映画を作って欲しい。そういった作家が、三池崇史や井口昇以外にも、もっと登場して欲しいと願う。
ともあれ、B級おバカ映画を愛する人にはお奨めの怪?作である。主演の八代みなせが可愛いうえに、スタントなしのアクションをこなしているのもお見事である。井口監督には、もっと予算を与えて、「キル・ビル」ばりの豪華なおバカ映画を作らせてあげて欲しい。次回作も楽しみに待ちたい。 (採点=★★★★)
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コメント
この映画はまだ見ていないんですが、内容はあのジミーさんの『片腕ドラゴン』をそのまま踏襲した感じですね。それに第二弾に登場した残酷武器「空飛ぶギロチン」を挿入したってところでしょうか。
かくいう私はカンフー映画のチラシの収集をもうかれこれ10年以上しているのですが、「空飛ぶギロチン」が出て来るという理由だけでこの映画のチラシを全種類(稀少な「試写会限定配布版」1種を含む)手に入れました。
すこし話が脇にそれましたが、ソフト化されたら早速一度、作品を見てみたいと思います。
投稿: クリックトック | 2008年9月28日 (日) 11:47
この映画をみて、まじめ過ぎる態度で生きることは長い目でみればはかないのだなと、感じましたよ。たくさん笑いました。
投稿: あ | 2016年7月25日 (月) 18:56