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2008年10月15日 (水)

さよなら、緒形拳さん、峰岸徹さん

この所、映画人の訃報が相次いでいます。

ポール・ニューマン(9月26日・享年83歳)は、既に引退を表明していたので、言い方は良くないですが、“過去の人”と言えるでしょう。

しかし、緒形拳さん(10月5日・享年71歳)に続いて、峰岸徹さん(10月11日・享年65歳)も亡くなられるとは…。

お二人ともまだ若く、まだまだこれからの活躍を期待していただけに、残念としか言いようがありません。

このお二人については、いくつか思い出がありますので、その辺りを書いてみようと思います。

……

Ogataken 緒形拳さんは、'65年のNHK大河ドラマ「太閤記」の秀吉役で一躍有名になりました。当時、テレビの主役と言えばハンサム(今で言うイケメン)が当り前の時代に、お世辞にも美男子とは言い難い緒形さんが主役に選ばれただけでも快挙でした(メイクのせいもあるでしょうが、秀吉の仇名の通り“サル”顔だな…と思った記憶があります(失礼))。

映画の方で記憶に残っているのが、大映の増村保造監督作品「セックスチェック・第二の性」(68)で、これが映画での初の本格主演作品です。

Sexcheck2_2 緒形さんの役は、戦前!に活躍した名スプリンターで、大陸戦線で現地女性を強姦したトラウマで、戦後は落ちぶれ、ヒモ生活…という異色の役柄。
なんと、開巻早々、小川真由美さんを強姦するシーンが出て来ます。服をひん剥き、むき出しの股間にガバと顔を埋めるシーンは相当の迫力(笑)。
若き女子陸上選手、安田道代(現・大楠道代)さんをとことんシゴく、鬼コーチ。彼女とのセックス・シーンもあり、かなりハードなエロシーンが頻出する成人向映画です(但し小川さん、安田さんのヌードは吹替)。

増村監督らしい、骨の据わった佳作でした。一見の価値ありです。

実直な人物(「砂の器」「楢山節考」等)も演じる一方で、気の弱い児童置き去りのダメ父親(「鬼畜」)、凶悪犯人(「復讐するは我にあり」)、無頼の小説家(「火宅の人」)など、幅の広い役柄で数々の映画賞を受賞して来た、日本映画界を代表する名優…であるのは異論のない所でしょうが、他方で、「影の軍団・服部半蔵」の悪役や、「野獣刑事」(いずれも工藤栄一監督)のはみ出し刑事役、さらには「咬みつきたい」ではなんと吸血鬼!役と、いろんなジャンルのB級プログラム・ピクチャーも軽々とこなす等、その活動範囲の広さにも感心させられます。こういう、硬・軟両方を並行してこなす役者は、他には市川雷蔵さんくらいしか思いつきません。得がたい異色の名優と言えましょう。

あと、変わった所では、割腹自殺した三島由紀夫の生涯を描いたアメリカ作品「Mishima:A Life in Four Chapters」(85。ポール・シュレーダー監督)における三島由紀夫役があります。我が国未公開ですが、当時輸入ビデオがレンタル屋に出回り、私は見ております。三島とは顔は似ておりませんが、雰囲気は良く出ておりました。

老境に入り、これからどんな名優ぶりを見せてくれるか、楽しみでした。日本映画界は貴重な人材を失った事になります。ご冥福を祈りたいと思います。
 

 

Minegisitooru さて、峰岸さんの方は、大学在学中に渡辺プロに入社、最初は峰健二の芸名で、'62年頃から東宝の青春映画に数本出演しております。

私が覚えているのは、所属する渡辺プロのクレージー・キャッツやザ・ピーナッツ、中尾ミエらが大挙出演したNHKのコメディ「若い季節」に、社長(淡路恵子)の甥役で出演していた時です。
甘いマスクの二枚目で、ちょっと赤木圭一郎に似ており、第二の赤木圭一郎…と騒がれた時もありました。

その後は俳優座、文学座などの研究生として演劇の勉強をし、'68年に大映入社、峰岸隆之介の名前で、新スターの欲しい大映が積極的に売り出しました。

Yamiwosaku その中で、印象に残っているのが、'68年の「闇を裂く一発」(村野鐵太郎監督)です。
黒澤明監督の「野良犬」や「用心棒」の脚本で知られる菊島隆三さんのオリジナル・シナリオで、オリンピック射撃選手でもある若い刑事(峰岸)が凶悪犯を追い詰める刑事サスペンス・ドラマ。
ベテラン刑事(露口茂)とコンビを組んでいる点や、露口が犯人に撃たれたり、野球場が出て来るなど、「野良犬」との共通点も見られます。偶然ですが、村野監督も数本撮っている、田宮二郎主演の“犬”シリーズにも「野良犬」(井上芳夫監督)という作品があるのが面白いですね(笑)。

なかなか緊迫した、見応えのある刑事ものの佳作だったと記憶しています。峰岸さんの代表作とも言えると思うのですが、なぜかビデオもDVDも出ておりません。ぜひ追悼企画で出していただきたいものです。

残念なのは、その頃から大映の経営が傾きかけ、峰岸さんのキャラクターを生かす企画も打ち出せず、大映はそれから3年後に倒産してしまいます。
時代と、映画会社に恵まれたなら、もっと人気スターになっていたかも知れません。惜しい事です。

その後の、名バイプレイヤーとしての活躍はご承知の通り。大林宣彦監督作品の常連俳優でもありました。遺作も大林監督の「その日のまえに」(11月公開予定)。

65歳という年齢は、いかにも若過ぎます。「おくりびと」の、あの優しそうな死に顔を思い出すだけでも泣けてきます。やすらかにお眠りください。

合掌…

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DVD 「セックスチェック・第二の性」

輸入VHS「Mishima」

DVD 峰岸徹が怪演「ねらわれた学園」

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» 緒形拳さん死去 [自主映画制作工房Stud!o Yunfat 映評のページ]
必殺はあまり観てないんで、その印象は薄いのですが、ポール・ニューマンと同じように、日本映画追いかけてると要所要所で突き当たる人なので感慨深い 「鬼畜」は素晴らしい演技でした 「魔界転生」の宮本武蔵役は笑いました 「砂の器」いい人でした 「楢山節考」母ちゃん想いな感じでした 「大誘拐 RAINBOW KID」賢い老人でした 「おろしや国酔夢譚」エカテリーナの前で浪曲唄うところが最高でした 「GONIN2」かっこ良かったです 「隠し剣 鬼の爪」悪でした 「蝉しぐれ」親父でした 「武... [続きを読む]

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